第二百九十二話
前回のあらすじを三行で
本郷について
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準備をしていくぞ
翌日、宿で食事を終えた一行は昨日の話の通り本郷の屋敷へと向かっていた。
そこは街を出て、しばらく進んだ場所にあった。なかなかたどり着かなかったため、途中道を間違えたか? という疑問を持ったがようやく到着する。
「街からだいぶ離れた場所だったな……」
すぐに到着すると思っていた一行だったが、到着するまでに一時間経過していた。
門が閉じられていたため、どうしたものかとあたりを見回すと呼び鈴がついていたため押してみる。それはぶーっという音をたてて来訪者があることを中に伝える。
「なんか、レトロな感じだな……」
蒼太は小学校の頃、同級生の家の一つに同じタイプのものがあったことを思い出していた。
何度も押すわけにいかないため、しばらく反応を待つことにする。すると、中から一人の騎士が現れる。それは昨日城内で蒼太たちを案内してくれた騎士ダグラスだった。
「あんたは昨日の……」
「はい、ダグラスです。本日も案内役を務めさせて頂きます」
自分のことを覚えていたと知りダグラスは笑顔で会釈し、挨拶をする。
「あぁ、頼む。あんた、やっぱりあいつの子飼いだったんだな」
本郷のことを褒めたたえていたため、彼の部下だと蒼太は予想していたがそれはどうやら正解だったようだった。
彼は子飼い、と呼ばれても嫌な顔することなく笑顔をたたえたままだった。
「はい、お仲間はこれで全員でよろしいですか?」
ダグラスが確認できたのは、蒼太、ディーナ、レイラ、古龍、アトラだった。
「いや、少し待っていてくれ」
蒼太はエドから馬車を取り外すと、専用の装備を身につけさせていく。
それが完了すると、ダグラスの前へと蒼太は戻ってきた。フル装備のエドを連れて。
「そ、そちらの馬もお仲間なのですね……それではこちらへどうぞ」
少し戸惑い見せたダグラスだったが、表面上はなんとか平静を取り戻し案内を始める。
「誰もいないんだな……」
目的の場所へと向かうため、蒼太たちは屋敷の中を通されるが人の気配が全くなかった。
「それをあなたが言うんですか?」
人を退避させておくように言ったのが蒼太だったため、ダグラスは苦笑していた。
「そういえばそんなことも言ったか……ノリで言ったから忘れていたよ」
それは蒼太の本心であり、その様子を見てダグラスは再度苦笑する。
「なるほど、まんまとこちらは乗せられてしまったわけですね。まあ将軍はもともと家の者を巻き込むつもりはなかったようですので、いずれにしてもこうなっていたとは思いますが」
その言葉は本郷の人柄を表しているようだった。これだけ聞くと、その男と敵対しようとしている蒼太たちが悪いようにも見える。
「だが……」
俺たちにもあいつと戦う理由がある。そう思ったが、蒼太はそれを口にするのは避けた。
「ん? 何かおっしゃいましたか?」
ダグラスが首を傾げて聞き直すが、蒼太は首を横に振るだけだった。
屋敷は広く、外周を回る形で裏手に続いていく。
「長らく歩かせてしまい、申し訳ありませんでした。ここを抜けたら我らの拠点になります」
扉が開け放たれた先には、荒野が広がっていた。
「これは……」
「ふふっ、何もないように」
見えるでしょう? と言おうとしたダグラスだったが蒼太には見えていた。
事前に塔の存在を聞いていたがやはり外からはそれが見えなかったため、目に魔力を集中させていた。
「空間魔法によって、本来の土地よりも大きな広さにゆがめている。更に外からは見えないように……これは光魔法と水魔法を使用して光の屈折と蜃気楼の効果を使っているのか……うまくやっているようだな」
蒼太はその空間の仕組みを分析し口にする。それでもまだ塔は見えていなかった。
ダグラスはといえば、途中まで言いかけた口をパクパクとさせていた。
「案内してくれてありがとう、あとは俺たちで行くよ」
蒼太は彼の肩に手を置くと塔へと向かっていく。
「いや、そこは結界が張ってあるので、私のほうで」
視覚的な結界だけでなく、塔への入場を制限させるためそちらにも結界を張っていた。
本郷の部下の中でも信頼されている者は入場手段として魔道具を渡されていたため、それを取り出そうとするが蒼太たちの歩みは止まらない。
蒼太は結界の前までくると、ナルアスにもらったナイフを取り出し縦に一閃する。その先には塔の入り口が見えていた。
「よし、行くぞ」
ダグラスは口を開いたままで驚いていたが、仲間たちは何の疑問も持たずに蒼太の後に続いて行った。その後姿をしばらく見ていたが自分も塔に向かうよう言われていたことを思い出し、慌てて蒼太たちの後を追いかける。
「ま、待って下さい!」
塔の中は広大な空間が広がっている。それは竜人族の聖地と同様で別の空間と同じように見える。
「これは別空間……というより作られた空間か」
そこは一面草原で、草の背はさほど高くなく見通しはよかった。
「はあはあ、足、速いですね。とりあえず真っすぐ進みましょう」
蒼太はダグラスが案内するのは塔の前までだと思っていたため、少し驚く。
「まだ案内は続くのか」
彼は息を何とか整えて頷いた。
「えぇ、というか、こんな広い場所にぽんっと投げ出されてどこに行けばわからないでしょう」
あたりを見まわした蒼太たちは確かにと思った。目印らしいものはなく、どこに向かえばいいのかわからない。
「ですので、私が案内します。どうぞついて来て下さい」
ダグラスはよどみない足取りで、真っすぐ進んで行く。彼にはどこに行けばいいのかが明確にわかっているようだった。
「わかった」
ここで迷って時間を無駄にするのはもったいないと判断した蒼太は素直に彼の指示に従うことにする。
ここまで蒼太の仲間たちは一言も言葉を発していなかったが、それは周囲への警戒をしているためであった。
仲間たちはあらかじめ出発前に蒼太に指示されていた。案内役の相手は自分がするから、みんなは周りに変化がないかを探っていてくれと。特に危機を感じ取るのに優れた能力を持つレイラは何度も念押しされている。
しかし、あまりにも変化のない風景にレイラは飽き始めていた。
「なんにもないね……」
ぼそりと彼女がつぶやくいたのと同じタイミングで前方に誰かいるのが見えてきた。
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