第二百九十一話
前回のあらすじを三行で
本郷の予想通り
屋敷の奥で決戦
本気で戦いたい
「ソータさん、ソータさん! なんかあいつら嫌な感じだったね! なんかこっちをからかってるというか、下に見てる感じ」
城からの帰り道、レイラが唇を尖らせてそう言った。
「あぁ、まあそうだな。あいつはもしかしたら、俺のいた国でもそれなりの地位にあったやつなのかもしれない。城ではあれほど慕われているのに、俺に対する態度は褒められたものじゃなかったからな」
普段の自分を棚に上げて蒼太が返事を返す。
「それなりの地位……っていうと王族や貴族?」
レイラは自分が思いつく高い地位の象徴を口にしたが、蒼太は首を横に振った。
「いや、俺のいたとこではそういうのはあんまりいなかったよ。日本人って言ってたから、働いていた場所で高い地位にいたのかもしれないな。それもおそらくだが、でかい組織なんだろうな」
彼からは上の者としての振る舞い方や自分の立場に対しての自信を感じ取ることができたため、蒼太はそう考えた。
実際のところ、本郷はとある省庁職員として勤務しており、それこそ蒼太がいうようにそれなりの地位にいた。
「会社、というものがあるんでしたね」
ディーナは以前蒼太から日本の話を聞いており、そのことを思い出していた。
「そうだ、そこで人を使う立場にあったから妙なプライドがあるんだろう。城ではそれを押し殺して、うまくふるまっているようだが……久しぶりの同郷者には自分がすごかったんだぞというのを示したいんだろうさ」
この蒼太の予想も当たっていた。
「なんにせよだ、早ければ明日にでも屋敷に向かおうと思っている」
「えっ!?」
「は、早いですね」
早いうちに行くことになるとは二人とも予想していたが、予想を上回る早さだったのでディーナとレイラは驚いている。
「善は急げというし、装備や薬品類は既に揃えてあるんだ。いつでもいけるだろ」
既にここに来る前に全て揃え終わっているため、期間を延ばすことでのメリットは蒼太たちにはなかった。
「それじゃあ、今日は帰って最終的な道具や装備のチェックですね。明日に備えないと!」
ディーナは既に気持ちを切り替え、何を準備するか脳内でシミュレートを始めていた。
「楽しみだね!」
レイラはここまで特訓してきた成果を発揮できることに喜んでいた。蒼太も同様に本気で戦えるかもしれないことに喜びを感じていた。
「あぁ、絶対に勝つぞ!」
「「おー!!」」
そして、その掛け声に二人も返事を返した。
宿に戻った三人は古龍、アトラ、エドと合流して今後の流れについて確認する。
『ふむ、そいつがお主らが捜していた敵ということかのう』
説明を聞いた古龍が確認する。
「そういうことだな、おそらく諸々の元凶なんじゃないかと睨んでいる。実力はかなり高いと思う。密かに鑑定をしてみたが、ほとんどの能力が隠されていた。あいつも隠蔽スキルが使えるんだろうな……次の時は本気で鑑定して全て暴いてやるがな」
偵察程度に考えていた蒼太は未だ鑑定スキルをセーブして使っていた。
『相手方でわかっている戦力は、そのホンゴウという男。それと以前にも会ったことのあるフードの男と鎧の男になるわけか……少し情報が少ないが、なんとかなるだろう』
アトラは彼我戦力を分析した上で、それでも蒼太がいればなんとかなるだろうと楽観的に考えている。
「おそらくですが、相手方にはエルフがいるのではないかと思います。以前フードの方と戦った時にこちらが矢で攻撃されました。あのレベルの弓の扱いとなるとおそらくエルフ以外には難しいと思います」
エルフであれば基本的に弓術のレベルが高く、かつあれだけの精密射撃ができるだろうとディーナは予想していた。
「あの場にくるくらいだから、そいつも幹部クラスなんだろうな。というか、あの本郷のカリスマ性を目の当たりにすると他にも相当な戦力を保有しているかもしれない……向かう時は全員本気装備でいくぞ」
蒼太の真剣な表情に、みんなも固い表情で頷き返した。
『しかし、戦力を保有しているといっても、我々に拮抗するほどのものがあるかのう? 仮にその男がお主と同等の力を持っていたとしても、部下たちが我らと同等とは思えんが……』
古龍だけは疑問を持っていた。この中で一番長く生きている古龍は今までの気の遠くなるような記憶の中で、特に自身と同じだけの力を持つものが蒼太以外に思い当たらなかったからだ。たとえディーナやレイラが本気で立ち向かったとしても、おそらく古龍には勝てないであろうことは各々も感じ取っている。
「油断は禁物だ。相手は俺と同じ世界からやってきている。しかも、相当頭もキレるように見えた。年齢も恐らく俺より上だ……経験値に差があるだろう」
蒼太は単純な実力で自分が負けることはないだろうと自負しているが、それでも相手が同郷とあっては何をやらかすかわからないと考えていた。
現代日本の成人男性があの地位まで上り詰めるのは並大抵のことではない。しかし本郷はそれを成し遂げ、更には国とは別に固有の戦力を持つことを許されている。
「私の目にもそう映りました。彼は……油断なりません。あの状況で、自分のホームだとはいえ主導権を完全に握っていましたからね」
ディーナは本郷のこと、そしてあの部屋での話し合いを思い出してそう口にする。今までのどの敵よりも強敵であるだろう。そう予想していた。
「うーん、強いかどうかはよくわからなかったけど、なんか嫌な感じがしたね」
『レイラ殿が嫌な感じがするということは、恐らくかなりの手練れだろうな』
アトラはレイラの危険を感じ取る能力を信じていた。訓練でもその能力は発揮されており、危険な状況に陥る前に回避する姿が度々見られている。
「なんにせよ、明日昼飯を食ってから出発しよう。それまでに各自装備の点検を終えてくれ。必要なアイテムがあったら申告も頼む」
仲間の顔を確認しながらの蒼太の言葉に全員が力強く頷いて、それぞれ点検に移っていった。
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