第二百九十話
前回のあらすじを三行で
将軍を絶賛する騎士
将軍の秘密
どこで戦う?
蒼太が話にのってきたのを見た本郷の機嫌はよかった。
「お前ならそう言ってくれると思ったよ。会ったことはなかったが、その戦い振りは部下に聞いていたからな。きっとこう答えるんじゃないかと予想していた通りで嬉しいよ」
喜ぶ本郷に対して、蒼太は能面のように表情が消えていた。ここまで来ると先ほどまで好戦的になるほど高ぶっていた怒りも頂点を超え、むしろいつも以上に彼の頭は冷静なものに切り替わっていた。
「あんたが嬉しいかどうかはどうでもいい、それよりどこで戦うつもりなのかって聞いているんだ」
「くっくっく、そう邪険にするなよ。同郷のよしみじゃないか、だがまあ質問には答えようか。この街を出て東に行ったところに俺の屋敷がある。ここから先は一応オフレコだからな?」
本郷は口元に人差し指をあて、内緒な? と楽しげにポーズをとるが、蒼太はイラっとしながらただ頷くだけだった。
「嫌われたもんだな。まあいいか、俺の屋敷を通って奥まで行くと抜けた先にでかい塔があるんだ。外観からは見えないようになっているがな、そこの中身は空間魔法で広大な空間にしてある。そこに俺たちが待っているから、お前たちは各階に待ち受けるボスを倒しててっぺんにいるラスボスの俺のところまで上がってこい」
本郷はにやりと笑っている。
「昔の映画で見たことがあるな……わかった、付き合ってやるよ。ただ、罪は償ってもらうからな」
蒼太が何に怒りを覚えているのかわかっているらしく、本郷はもう一度笑う。
「ははっ、いいさ。ついでに、お前らが聞きたいであろう話も教えてやるよ。質問にもなんでも答えてやる。ただし、てっぺんまでたどり着けたらな」
そこでにやりとした笑みがさらに深まった本郷は完全に悪役を気取るつもりでいるらしく、蒼太はそれにのるしか選択肢がないと考え、対応することにした。
「首を洗って待っていろよ、悪いが俺の仲間は強いからな」
蒼太が話にのってきたことで本郷の喜びは一層強いものとなった。
「それで、いつ行けばいいんだ?」
「おい、もう少し余韻を楽しませてくれよ。ライバル同士の戦い! みたいな感じだっただろ。ったくこれだから若い奴は……」
そういう本郷の見た目は二十代半ばくらいに見える。しかし、元々の年齢が高かったためかその言い方はどこか年寄りじみたものだった。
「俺たちは明日以降は屋敷に滞在することになっている。城に戻らないことも許可を得ている。だから、明日からならいつきてもいいぞ。信じられないだろうが一応言っておく。安心してくれ、罠はしかけてない、正々堂々力と力の勝負だ」
本郷はぐっと力こぶを作ってそう言った。
「はあ、わかった。とりあえず今日は帰らせてもらうぞ、仲間を待たせているんでな。それと、屋敷は空にしておいてくれよ。変なちょっかいかけられたら、屋敷ごと破壊してしまうかもしれないからな」
「くっくっく、やはり面白いな。そんな冗談を言うなんてな……あれ?」
そこまで言ったところで蒼太の顔見ると、冗談を言っているような雰囲気はなかった。今まで蒼太をからかうような対応をして気を緩めていた彼の表情がぴしりと固まる。
「冗談、だと思うならそれでも構わない」
蒼太はそれだけ言い放ち席を立つ。それに合わせて一緒に帰るために立ち上がったディーナとレイラの表情も真剣なもので、蒼太が冗談を言っている様子はみられなかった。
それ以上は何も言わず部屋を出て行く蒼太たち。唯一ディーナが去り際に一礼したことで、空気は少しだけ和らいでいた。
扉が完全に閉まると、フードの男が口を開いた。
「ねえエルダード様! あいつらすっげー生意気だよ! あのまま行かせちゃっていいの!?」
様付けしているが、男がエルダードに話しかける口調は馴れ馴れしいものだった。
「あぁ、いいんだ。俺も久しぶりに日本人と話せて楽しかったからな。それに、あのそうたってやつはやばいな。俺が今までに出会ったどの戦士よりも騎士よりも武闘家よりも強いオーラが出ていた。しかも冗談が通じないタイプだな、あれ以上からかってたらこのまま城ごと壊しても構わないと思われたかもしれない……」
本郷は彼ら部下たちにとっては絶対の存在で、その実力も誰もが認めるものだった。その彼がやばいとまでいう蒼太という冒険者、それは彼らに緊張を走らせるに十分なものであった。
「で、でも、あいつら僕の魔物に苦戦してたよ?」
フードの男はそれを認めたくないようで、食いつくようにそうエルダードに言ったが彼は首を横に振る。
「あいつは本気を出さないだけだ、というより出せるほどの相手に出会ったことがないのかもしれない。それと自分の実力をしっかりと把握しているから、周囲への影響を考えたんだろうな。実に日本人らしいというか、ただ単に性格によるものなのか……とにかく、さっき俺が言った通りの実力をあいつはもっている。お前がいう魔物も、あいつの背中に守るものがなく仲間と共に戦っていなければ、そして周囲への影響を考えなくてもいい場所だったらあっという間にやられていただろうさ」
蒼太の実力の高さを直接目の前で感じ取り、そこから普段から本気では戦わないであろうことも彼は見抜いていた。
「うぅ、でも、本気出せないなら、実力なんて発揮できないじゃないか」
フードの男は食い下がる。しかし、鎧の男は何かに気付いたようだった。
「なるほど、だからですね」
その言葉に本郷は笑みを浮かべる。
「察しがいいな、まあそういうことだな。環境的な問題で本気を出せないのであれば、本気を出せる環境を用意してやればいいだけだ。だから俺はあいつらを俺の塔に呼びつけたんだ。そして、あいつらを倒したら次は俺たちが攻勢に出る番だぞ」
本郷の言葉に二人は笑顔で頷く。
彼には目的があり、それを果たすための第一歩として自分の屋鋪を抜けた先に巨大な塔を建設していた。これは彼らにとって拠点となるものであり、戦略的にも重要な場所となる予定のものだった。
そこを蒼太たちとの決戦の場にすることに複雑な思いがあるが、これで止められるようならそこまでだ。本郷はそう割り切っていた。
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