第二百八十九話
前回のあらすじを三行で
城に向かう三人
城壁の素材は魔力石
衛兵の対応は悪くない
しばらくすると、中に確認にいった衛兵が戻って来た。別の騎士も一緒に同行している。
「お待たせしました。確認が取れましたので中へどうぞ」
「ここからは私が案内を務めます、将軍の部下のダグラスと申します」
そう名乗った騎士は恭しく一礼すると、蒼太たちを城の中へと誘導していく。
「あぁ、頼む」
蒼太はそれだけ返すと、衛兵二人に軽く頭を下げてダグラスのあとへと続いていく。
「帝国に来られたのは初めてですか?」
城内を先導して歩くダグラスは道中の間を持たせようとして他愛のない質問をしてくる。
「あぁ、つい先日来たばかりだ。他の国に比べて色々と発展しているようなんで驚いたよ。飛竜部隊による歓迎セレモニーも見事なものだったよ」
蒼太は思ったままを返す。彼はその答えに満足したようで、笑顔で頷いている。
「そうでしょう! これも将軍の知恵の賜物です。飛竜部隊もそもそも……」
洞窟で捕まえた男と同じことを説明しようとしてきたダグラスに対して、蒼太は手で制して話を止めた。
「その話だったら他のやつに聞いたから別の話題にしてくれると助かる。そうだな……将軍ってやつは一体どんなやつなんだ?」
話を止められたことで表情を一瞬崩したダグラスだったが、蒼太の質問を聞いて目を輝かせた。
「そうですね、全部語り始めたらキリがないのですが……まずはその武力ですね。おそらく歴代の帝国の将軍職に就かれた方の中でも随一の力を持っていると言われています。実際に魔物との戦いで見たことがありますが、強力な魔物をものともせず全ての魔物を一刀のもとに倒していくあの姿、惚れ惚れするものでした」
ダグラスは憧れの表情でそのことを語る。彼にとって将軍とは崇拝すべき存在にまでなっているようにも感じる。
「そ、そうか。それで将軍のところにはまだつかないのか?」
蒼太は話の振り方を間違えたことに気付いて、軌道修正した。
「もうそろそろです、あの角を曲がった突き当りですね」
曲がった先には、重々しい黒の扉があった。
「こちらになります。将軍、ソータ殿とそのお連れの方をお連れしました」
ダグラスはノックと共に、中へと声をかけた。
「ご苦労、入ってくれ」
その声はやや野太い声だった。扉が開かれ蒼太たち三人は部屋の中へと入り、ダグラスは将軍と蒼太たちに一礼すると戻っていった。
「……お前がソータという冒険者か。三人とも座ってくれ」
促されるままにソファに座ると、メイド服の女性が三人の前にお茶を並べていく。
「安心しろ、毒なんて入っていないからな」
ドラマや小説でありそうな言葉を将軍は口にする。それを聞いた蒼太は目を細めて男を見る。
「疑っているのか? 俺が先に飲んで証明してもいいんだが……」
「そうじゃない、なんでそんなことを言ったのか気になったんだ」
蒼太が将軍を見る目つきは鋭くなっていた。
「はははっ、そうかそうか。お前はやっぱりそうなんだな」
将軍は蒼太の反応が面白かったのが、豪快に笑う。
「まずは自己紹介をさせてもらおう。俺は帝国の将軍の座にいるエルダードという、昔の名前は本郷修一郎だ」
ある程度の予想はついていたが、改めて日本名を聞いた蒼太は目を見開いて驚く。
「ということは……」
「あぁ、ご察しの通り俺は日本から来た。転生したといえばいいのか。元の世界で俺は仕事帰りにひったくりを見つけて、そいつをとらえようとしたんだ。そいつは手に刃物を持っていた」
蒼太は頭の中で、次にくる言葉を予想していた。
「そいつに刺され……そうになったんだがそいつは何とかなったんだ」
予想外の言葉だったため、蒼太はガクッとなる。その反応は本郷の予想通りであり、してやったとの思いであった。
「それで、そいつを警察に突き出そうとしたんだ。たまたま近くに交番があったからな。だが、そこで男は暴れて警察から拳銃を奪って発砲しやがった。それで俺は心臓をずどんと撃ち抜かれてあの世行き。そこからは女神だかが異世界で新しい命を生きてみないかっていうもんだから、それにのって今にいたるわけだ」
軽く笑みを浮かべながら話す彼からは死んだことを特に気に病んでいる様子は見られなかった。
経緯はどうあれ、最終的な結果は蒼太が予想した通りだった。
「それで、女神に与えられたスキルか持ち前の頭脳か何かを使って今の地位に就くこととなったってところか」
蒼太が男の言葉の続きを予想して続いた。
「……まあ、そんなところだ。それで、お前はどうなんだ? 転移か? 転生か? カマをかけたわけだが、そうたっていう名前と俺の話を聞いてわかるってことは、そのものずばりなんだろ? それくらい教えてくれよ」
一瞬の間があったがおざなりに蒼太の意見を肯定し、更には身を乗り出して質問をしてくる。
「俺は転移だ。経緯はなんでもいいだろ」
蒼太はそれ以上を語る気はないと断じた。
「ふっ、なかなか面白いやつだな。答えは雑だが俺の一挙手一投足を見落とすまいと注視しているな。しかし、久しぶりに日本人と話せて嬉しかったぞ。俺の味方にならなそうなのだけは残念だからな」
そこまで言うと本郷は右手をあげる。すると、物陰からフードの男と鎧の男が現れた。
「あの時はどーも」
「久しぶりだな」
二人はそれぞれの挨拶を蒼太たちに向かってする。人数が増えたことにディーナやレイラは警戒するように相手方の動きをじっと見つめており、挨拶に返事を返すことはなかった。
「やっぱりお前たちだよな。本郷、あんたの手下が小人族を狙ってるのは知ってる。俺はそれを止めさせにきた」
蒼太はいつの間にか右手に剣を握っていた。
「こんなところでそんなものを出すな。俺たちはここで争う意思はない」
笑顔で言う本郷を見て、蒼太は一瞬ためらうがすぐに剣を鞘に納める。
「俺たちと敵対しているんだろ? だったら、どこで戦おうと一緒なんじゃないのか?」
血気盛んな蒼太に本郷は肩をすくめる。
「やれやれ、ここで争ったら部屋どころか城に影響が出てしまうじゃないか。最終決戦はきちんとした舞台でやると相場が決まっているだろ? それにここで暴れたら、お前たちは帝国の敵として認識されてしまうぞ」
どこまでが本気かわからないが、この場の主導権は本郷に握られていた。蒼太と彼では年季が違い、どこか敵わないと思わせるものがあった。
「……じゃあ、どこで戦う?」
素直に引き下がった蒼太の態度に本郷はにやりと笑う。
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