第二百八十八話
前回のあらすじを三行で
蒼太を追う気配
正体はアーベン、おすすめの店に
将軍が待っている……
蒼太たちは一度宿へと戻り、エドと馬車を置いていく。
「みんな悪いな。さすがに城には連れていけないから三人で一緒に留守番していてくれ」
獣魔登録をしているとはいえ、さすがに城へアトラと古龍を連れていくわけにはいかないので、今回は蒼太たち三人で行くことにする。了解を得たことを確認し、宿屋を後にした。
城のまでの道も既に宿屋で確認済みだった。
三人は話をしながら城へと向かっている。
「さて、相手方がどう出てくるかだな」
城へ向かう道すがらも相変わらず街中はにぎわっており、たくさんの人が行き来している。
蒼太はわくわくした様子だった。
「話の通じる相手だといいんですけど……」
敵の本拠地に向かうという事にディーナは不安そうな表情になっている。
「美味しい物だしてくれるかな?」
能天気なのはレイラであり、それを見たディーナは考えすぎる自分にため息をついていた。
「ん? ディーナさん、どうかした? ため息なんかついちゃって」
不思議そうな顔で尋ねるレイラにディーナは笑顔で首を横に振る。
「いえ、気にしないで下さい。色々考えずに二人のように楽しめればいいなと思っただけです」
「まあ、ディーナの心配もわかるが何とかなるだろ。一応武器はすぐに取り出せるようにしておけよ。将軍に会うのにバッグを取り上げられた場合は俺が取り出して渡そう」
それぞれのマジックバッグは蒼太の亜空庫によって管理されるようになっていた。
「ですね、相手の出方次第ではその場で戦いということもありますから……」
気を引き締めたディーナの表情は再び固くなっていた。
「それはないと信じたいところだけどな。相手が強かったとして、こっちも本気出したらさすがに城への被害は甚大、下手したらお尋ねものだ」
蒼太は肩をすくめてそう言ったが、やられたらやり返す覚悟は既にできている。たとえそれが帝国を敵に回すものであったとしてもだった。
「もしそうなったら、竜人族の聖地に来ればいいよ。あそこは広いから、何だったら追われてる小人族の人たちも一緒に来ればいいよね」
「それも一つの手だな、俺は帝国を潰すのが手っ取り早いと思ったが。聖地に籠って、あそこを改造するのも面白い」
早速と言わんばかりに蒼太の頭の中では聖地の魔改造のプランが構築されていく。
「さ、さすがにそれは少し控えめにしてくれると、嬉しいかも」
レイラは蒼太の規格外が、本当に規格外すぎることを知っているため、色々改造された聖地を想像してしまい、頬を一筋の汗がつたっていた。
「どうなるかはその将軍とやら次第だろうな。そら、城が近づいて来たぞ。」
元々大きな建物であるため遠くからも見えてはいたが、近づいたことでその迫力は一層強くなっていた。
「今までに行ったどのお城とも違う雰囲気ですね」
ディーナはそう言いながらごくりと唾を飲む。
彼女の言葉の通り、眼前の城は異様な圧力を放っていた。黒々しい石造りの立派な城は使われているその色合いが城下の街とは一見して異なり、それがよりこの城の雰囲気を際立たせていた。
「これは色と素材の問題があるんだろうな、城壁を構成する素材に魔力石が使われている。その中でも強い魔力を内包している黒の魔力石が使われているからそう感じるんだ」
一目見ただけで、その素材がなんであるのかを蒼太は見抜いていた。そして、その理由も。
「結構やばいところだな、この中に入ったらペアコネクトのようなスキルでも通信を阻害されるかもしれない。作ったやつが意図しているとしたら、かなり頭のキレるやつなのかもしれない」
将軍の存在が侮れないものであることは今までの経緯からわかってはいたが、建国に関わった者のなかにも能力の高い者がいたかもしれないことに蒼太は驚いていた。
「意図していなかったとしたら?」
レイラは疑問を蒼太に投げかける。
「……もしそんなやつがいたとしたら、ただの天才だろ。偶然が積み重なった結果だとしたら、それこそ奇跡だ」
「それほどすごいことなんですね」
魔法で魔法を阻害するという方法は存在したが、ここは建物レベルで行っている。それも城という巨大なレベルでのそれはただの思い付きだけではできないものだった。
「まあ、あとで聞いてみよう。教えてくれるやつがいるかもしれないぞ」
ここにきて蒼太は冗談ぽく言うが、その相手が恐らく将軍であると予想できていたため、ディーナは乾いた笑いを返すしかなかった。
「なんか、楽しみになってきたね!」
しかし、見たことのないものを前にしたレイラは好奇心の方が勝ったらしく、相変わらず能天気だった。
そんなやり取りをしていると、城門の前にたどり着く。門は開放されているが、当然のように衛兵二人が番をしており、自由に入れるものではなかった。
「とりあえず話してみるか。あー、すまない城に入りたいんだが」
開口一番、そんなことを言う蒼太を衛兵たちは怪しい者を見る目つきで見返す。
「……一体どういった用事だ」
それでも、問答無用で斬りかからずに話を聞くというまともな対応をしたことに対して、この国の兵士は任務に忠実であり好感が持てると蒼太は思う。
「将軍に呼ばれて来た冒険者のソータという。一応手紙は持ってきてるが、これを見てもらえるか?」
蒼太がバッグから取り出した手紙を衛兵は二人で確認していく。
「これは……確かに将軍様の紋章だ」
「あぁ、この紙を持っているのは将軍様だけのはずだからな」
手紙に使われている用紙は、右下に将軍と呼ばれる男の家紋がマークされた特別製のものだった。
「内容もこの冒険者の言葉と一致している……どうする?」
「俺が中で聞いてこよう。お前はこの方々のお相手をしてくれ」
衛兵の一人が城の中へと入っていく。
「申し訳ありません。あの者が確認してまいりますので、少々お待ちください」
残された衛兵は相棒の言葉の通り、蒼太たちの相手を始める。先ほどまでとは打って変わり、口調も敬語にかわっていた。
この城の兵士たちにとって将軍は憧れといえるような存在であり、彼が呼び寄せた客人とあっては失礼のないようにするのが当然という考えであった。
「いや、構わない。俺たちもいつ行くと予定を決めずに急に来たからな。連絡もいきわたっていないだろうし、当然の対応だ」
蒼太の態度も衛兵たちの立場を尊重するものへと変化していた。
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