第二百八十五話
前回のあらすじを三行で
男から情報を集めよう
アーベン復活
さて、まずは……
「なるほどな」
蒼太は男から得た情報をメモしていた。聞き出せた情報の組織を構成している人員だが、トップに誰がいるのか? これは今までの情報からも推測できる通り例の将軍という男だった。蒼太が知っているフードの魔物を操る男と鎧の男は将軍の部下の中でも幹部と呼ばれる実力を持っているとのことだった。
他の幹部は姿見たことがないとの話だったが、超長距離射撃を行えるエルフがいるということ。それといつも将軍の傍らにいる女もかなりの実力者という話だった。
彼らの実力は組織の中でも上位のものであり、また権限も強いため、それをなんとか覆そうとして目の前の男は蒼太たちを捕まえようとしたとのことだった。
「将軍の部下ってことは、帝国の戦力ということでいいのか?」
蒼太の質問に男は首を横に振る。
「あの組織は帝国とは無関係だ。あくまで将軍の子飼いの戦力といったところだな。皇帝陛下は将軍に心酔していて、頼りきっているから反対意見の全てをねじ伏せている」
蒼太とディーナはその答えに首を傾げている。将軍にそれだけ強力な戦力を持たせるということは、それだけ反乱、クーデターを起こしやすくなってしまう。それゆえに戦力の一極集中は危険をはらんでしまう。
「なんで? って顔をしてるな。俺も詳しいことは知らんが先代の皇帝陛下は若い頃の将軍のことを気に入っていたらしい。それで自分の息子、つまりは今の皇帝陛下なんだが、そのお目付け役というか指南役というか、とにかくそういうのに任命したそうだ。だから、子供の頃から将軍の考えを吹き込まれていたりするし、あとはあのカリスマ性に惹かれるってのはわからないでもない話だ……俺もそうだからな」
男は将軍の話をする時は誇らしい表情をしていた。
「そういうからには、何か将軍にまつわる逸話なんかもあるのか?」
蒼太は男が将軍のことを話したがっていると見抜き、話しやすいような流れにもっていく。
「あるのか? だって? あるに決まってるじゃないか。まず単独戦力としての話になるが、将軍は一人で竜種を何体も倒しているんだ。そもそも帝国の飛竜部隊だって将軍が考案したもので、飼いならす方法を編み出したのも将軍だ。それからもちろん集団戦を率いてもその腕前は超一流だ。帝国は北に位置しているから魔族の領地に近い。それゆえに過去に魔物や魔族の侵攻に脅かされたことが何度もあるんだ。それをことごとく将軍は退けている、もちろんこちらの被害は最小に抑えたうえでな!」
どんどん話しているうちに興奮していく男をこのままにしておけば話が止まらないと考えた蒼太は男の前の右の手のひらを持っていき、話を中断させる。
「わかった、わかったからその辺で止まってくれ。将軍がすごいことはわかった、個人としても最強、軍を率いてもこれまた最強か。そりゃみんなついていきたくもなるな」
蒼太が訳知り顔で言うと、男は更にドヤ顔になって続きを話し始めた。
「ふっふっふ、将軍のすごいところは戦いだけじゃないぞ! 将軍の知識はすさまじい、帝国の文官や学者なんかじゃ足元にも及ばないほど博識なんだ。帝国では水不足になることがないんだ、魔力を流すことで水を生み出すシステムを作っている。これだけ聞いたらどこにでもあるように聞こえるかもしれないが、人の流通量が多いことを利用しているんだ。門をくぐった瞬間に極微量の魔力を吸い取る仕組みになっている。その魔力を利用することで、この街の水は枯渇しないって仕組みさ」
魔力を流せば水の出る魔道具なら蒼太も持っている。しかし、街全体の水をまかないきれるほどのシステムというと、魔力の流れの仕組みや貯蔵機能など一つの知識だけでは到底間に合わないレベルになる。
「すごいな……」
ぼそりと蒼太が言ったことで男は満面の笑みになっていた。
「だろー! そうなんだよ! 将軍はすごいお方なんだよ、だから……俺も少しでも認められたくて今回のようなことを……」
男の思いは純粋だった、尊敬している人物に認められたい。そんな思いから蒼太たちを嵌めようとしたということだった。
「あなたも大変だったんですね。誰かに認められたいという気持ちは私もわかります」
思うところがあるディーナは男に同情しているようで、そう優しく声をかけた。
「そうか……まあ、俺には関係ないけどな。とりあえず俺たちに敵対したんだから、お前にはそれなりの罰を負ってもらおう」
「そんな! 色々話したじゃないか、それにそっちのお姉さんだって俺の気持ちがわかると言ってくれただろ? ここは、姉さんに免じて許してやろうとかいう流れじゃないのか!」
蒼太がバッサリと切り捨てたため、男は慌てて保身に走る。
「ディーナ、こいつを無罪放免にするか?」
男の言葉を受けて、蒼太が確認する。
懇願するように男はディーナを見ていた。
「うーん、確かに気持ちはわかりますけど、私たちを危険な目にあわせようとしたことには変わりありません。たまたまあなたが選んだ方がアーベンさんだったからあれくらいで済みましたけど、もっと強い、それこそSランクの方が現れていたら結果は変わっていたかもしれませんからね……ソータさんに判断はお任せします」
彼が事を起こすまでの経緯を聞いたからといって、自分たちを襲おうとした事実は変わらないためディーナは彼のフォローは入れず判断を蒼太にゆだねた。
「というわけで、俺に決定権が移ったみたいだ。というわけで、お前には罰を受けてもらうぞ。まずは……寝てくれ」
そう言った蒼太は男の頭に手を乗せて、魔力を吸い出していく。
「な、なにを……」
魔力がなくなると意識を保つのが難しくなる。それに気づいた男が慌てたように多少もがくものの、抵抗むなしくふらふらと頭を振ったあと、そのまま気絶してしまう。
「さて、脅しをかけたのはいいけどこいつをどうしたものか」
「ふふっ、ソータさん本気じゃなかったですからね。さっき私に振ったのもわざとだってわかりましたよ」
ディーナに自分の考えがバレバレだったことにむずかゆいところがあった蒼太は頭を掻いていた。
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