第二百八十四話
前回のあらすじを三行で
とらわれのアーベン
刺されたアーベン
急遽登場、黒幕?
「な、なんでお前があいつらのことを知っているんだ!?」
カマをかけただけの蒼太だったが、男の過剰な反応を見てそれは確信に変わっていた。
「というか、お前もう吐いちゃってるよな。少しくらい誤魔化せばいいものを……」
「はっ!」
男はそこで初めて白をきることを思い出したが、時すでに遅く自分でやつらの仲間だということを認めてしまっていた。
「それで、一体何が目的でやつをけしかけたんだ?」
蒼太は先ほどアーベンにやったのと同じように威圧を放ちながら男に質問する。
「お、俺は、別に、何も」
男は徐々に強まる威圧には耐えていたが、目が泳いでおり、答えを濁していた。
「答える気はないか……じゃあ、お前はここに置いてお前の仲間に話を聞きに行くことにしよう」
蒼太は男にアーベンに見せた強固なロープを巻き付けていく。
「ちょ、ちょっと、ちょっとだけ待ってくれ!」
男の言葉にも蒼太の動きは止まらない。するすると巻かれていくロープは手際よく男の身体を縛り上げていく。
「お願いします、話を聞いて下さい!」
そこで男の口調は殊勝なものへと変化して、今にも泣きそうな顔で蒼太へ懇願する。
「……仕方ない、話を聞いてやろう。それで何を言いたいんだ?」
内心ではしめたと思っている蒼太だったが、表情には出さずに男に話す許可を与えた。
「お、俺は確かにあいつらの仲間だ。というか、あいつらの中だと下っ端扱いになるんだが……やつらがあんたの名前と特徴を口にしているのを聞いて、やつらを出し抜こうとしたんだ……」
それを聞いて蒼太はため息をついた。
「はあ、内部の争いに巻き込まれたってことか……じゃあ、今回のことはやつらの意思は介在していないんだな?」
男はこくんと頷いた。
「なおさらため息ものだな。せっかくやつらにたどり着けると思っていたんだが」
「うーん、この人さ、下っ端だとしてもその仲間の人のこと知ってるんじゃないかな。何か情報を引き出せないかな?」
レイラが思いついたことを口にする。それは蒼太も考えていたことではあったが、レイラの発言であることが一同を驚かせていた。
場が静まりかえり、みんなの視線が自分に集まっていることにレイラは戸惑っている。
「えっ、えっ? 何か変なこと言っちゃった?」
縛られた男以外はレイラの言葉に驚き、言葉を一瞬失っていた。
「い、いや、レイラがまともなことを提案したなと思って……」
蒼太が何とか返事を返すが、レイラは頬を膨らませて怒り始める。
「あたしだってたまには、ちゃんと考えて発言くらいするよ!」
「まあまあ、抑えて下さい。みんなあなたが成長したことを嬉しく思っているんですよ」
なだめるようにディーナが笑顔で声をかけ、レイラの機嫌を直そうとしていた。彼女のそれは本心から出た言葉であり、レイラもまんざらでもない様子だった。
「あっちはディーナに任せておくことにして、せっかくのレイラの提案だ。あいつの言った通りお前から情報を引き出させてもらおう」
にやりと笑う蒼太に男は身を震わせていた。
「おい、刺された仕返しはさせてくれるんだろうな?」
そう言ったのは、先ほど瀕死の重傷に陥っていたアーベンだった。男は彼を見て驚いている。腹に刺さっていたはずの剣はもちろん抜かれており、傷もふさがっていた。
「な、なんで! お前は、さっき刺した、傷は!?」
男は動揺が強く、片言のような喋りかたになっていた。
「あー、かなり驚いているみたいだな。その顔だけで少しは俺の溜飲も下がるってもんだわ」
アーベンは驚愕の表情の男を見て鼻で笑っていた。元より仲間意識が薄かったアーベンは自分を消そうと刺してきたやつよりもここは蒼太たちの味方になった方がまだ都合がいいと判断したようだった。
「お前の注意を俺がひきつけている間に、俺の仲間が治療したんだよ。なんて言ったって聖女の弟子だからな」
蒼太がそこでディーナを見ると彼女は笑顔で頷いた。聖女と聞いてわかる者はこの時代にはいなかったが、そのことは蒼太とディーナにとって大事な思い出だった。
「それはいいとして、俺の質問に答えてもらおうか。お前の仲間についてな」
再度蒼太はにやりと笑った。
「わ、わかった話す。話すからいい加減これをほどいてくれ! あと、こいつを何とかしてくれ!」
アーベンが反撃と言わんばかりに男の頭をぐりぐりと拳で小突いていた。
「おい、助けてやったんだからお前はどっか行ってくれ。もう十分だろ」
用が済んだやつよりも目の前の男に話が聞きたかった蒼太はしっしっと追い払うしぐさをした。
「そ、そんなあ。俺だってそいつに恨みがあるんだから、少しくらいいいじゃないですか」
アーベンは情けない表情で蒼太にすがる。いつの間にか蒼太に対して敬語なのは彼には実力では敵わないと思い知らされ、自然と出てきたものだろう。
「あんまり俺たちに関わらないほうがいい、Aランク程度じゃ何にもならないってわかっただろ?」
「そ、それは」
圧倒的なまでに叩き潰された蒼太との戦いを思い出し、彼を敵に回すのは良くないと身をすくめた。治療はされたものの、男にあっという間に刺されてしまった自分の腹を押さえて先ほどの痛みも思い出していた。
「いいからここらで引いておけ。これは忠告だ」
あまりに真剣な表情の蒼太にアーベンはごくりと唾を飲み、頷いた。
「ほれ、これお前の剣だろ? 少し傷ついたが構わないよな」
「だ、大丈夫です。ありがとうございました!」
アーベンは剣を受け取ると、脱兎のごとくその場から逃げ出した。道中の魔物たちはアーベンの勢いに驚き、彼を襲おうとはしなかった。
「さあ、これで邪魔者はいなくなった。ゆっくり話せるな」
その言葉に男はがっくりと肩を落として観念していた。
「はあ、わかりました。なんでも聞いて下さい、といっても俺は下っ端だからあんまり詳しいことは知らないぞ」
この場で強がりを言っても仕方ないと考え、言葉遣いも柔らかくなっていた。
「それで十分だ、少しでも知っていることを話してくれればな」
蒼太は彼らの体制に興味があり、個々の能力まで聞けなくても大きな部分の組織の輪郭が知れればと考えていた。
すっかりおとなしくなった男は蒼太の言葉に頷く。
「じゃあ、まずはお前たちの組織が一体どんなものなのか。それとどんなやつがいるのか、知ってる範囲で教えてくれ」
「あぁ、まずは……」
そうして、ぽつぽつと男による説明が始まった。
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