第二百八十二話
前回のあらすじを三行で
屋台の料理美味しい
休憩の間に依頼達成
誰か来る?
蒼太はみんなに目配せし、その意図を理解したディーナたちは立ち上がり、上から来る足音に対して身構えた。
「ん? 君は……ソータ君だったっけ? 君たちもここの洞窟の依頼を受けたのかい?」
やってきたのは先日冒険者ギルドで蒼太とディーナに声をかけてきたアーベン一行だった。
「そういうあんたはアーベンだったか? あんたたちは俺たちよりもランクが上に見えたがこんなところまで来るんだな」
以前ギルドで見た時の彼らの装備などからそう推測していた蒼太はやや棘のある言い方になる。
「あぁ、確かに僕たちはランクはそこそこだけどね、たまにはこういう依頼もこなしているんだよ。適正ランクのものばかりやっていたら、疲れてしまうからね」
アーベンはニコニコと笑顔でそう返した。その笑顔はどこか胡散臭さを感じるものであり、蒼太たちは警戒を解かないようにしている。アーベンの仲間は彼に対応を任せているのか特に手を出してくるようには見えなかった。
「そうか、俺たちと同じ依頼だったらこの奥に目的の魔物はいるぞ」
「ありがとう、探す手間が省けたよ」
蒼太の助言にアーベンは浮かべていた笑顔を更に深めて礼を言った。
そして、アーベン一行は蒼太たちの横を通って奥へと向かっていく。だが蒼太はどこかひっかかりを覚えていた。
「よく、俺たちの依頼の内容を知ってたな」
蒼太の声掛けに振り向いたアーベンの顔には今も笑顔が張り付いていた。
「カマを、かけたのかい?」
しかし、その笑顔は先ほどまでと種類が違った。すっと細めた目で蒼太たちを品定めするようにじろじろと見ている。
「特に他意はなかったさ、勝手にそっちが自爆しただけだろ?」
「くっくっく、やっぱり君は面白いやつだな。声をかけた俺の目は間違っていなかったよ」
もう愛想を振りまくのはやめたのかアーベンはにやりとしたいやらしい笑みで蒼太を見ている。
「俺のほうは気持ち悪いだけだがな……それで一体俺たちになんの用なんだ?」
蒼太からその質問を投げかけられたことで、意外だと言わんばかりに彼は驚いた顔をしている。
「君は俺が何者なのかわかっていないのに、怪しいと思っていたのか?」
「あぁ、あんたたちは仲間というにはどこかよそよそしさを感じたし、パーティ人数も十分いるのに俺たちに声をかける意味がわからん。よって、どういう手合いかはわからんが、怪しいやつだと判断した」
アーベンは自分の頭をペチンとたたく。
「そんなに最初から目星をつけていたのか。やっぱりすごいな君は」
蒼太の指摘は、彼の好奇心に火をつけたらしかった。興味深いと言わんばかりに無邪気な笑顔を見せている。
「それで、お前たちは一体どこのどちら様なんだ?」
ころころと変わる表情に訝しんだ彼は視線を鋭くしてアーベンに尋ねる。
「くっくっく、本当にわかっていないみたいだね。そうだな……」
アーベンが答えを口にしようとしたが、そこで仲間から耳打ちが入り一度中断する。
「ふむふむ、仕方ないね……僕はあれだよ、ほら新人狩り? みたいな」
明らかに今考えましたというあからさまな嘘であるその言葉に蒼太たちからは白けた視線を送られてしまう。
「仕方ないじゃないか、本当のこと言っちゃだめだっていうんだからさ」
どうやらアーベンの同行者は仲間というより、お目付け役といった様子だった。同行者の方に目を向けたものの、表情は薄いままでただ成り行きを見守っている。
「何者であるにせよ、俺たちに敵対するなら倒すまでのことだ」
蒼太が剣を抜くと、ディーナとレイラも武器に手を触れる。アトラや古龍、エドも警戒は緩めずにいた。
「怖いねえ、俺ってこう見えてもAランク冒険者だよ。俺の仲間もBランクでそれなりの腕前だ、君たちが勝てると思っているのかい?」
そう言いながら剣を抜いたアーベンに続き、後ろの仲間たちも戦闘準備をしていく。どうやら自分のランクに自信があるようで、蒼太たちを見下した目で呆れたように剣を向けてきた。
「Aランクか……俺はDランクでこっちの二人はEランクだ。あんたのランク三つ、四つ下だな」
お互いにランクの差があることは明白な事実であったが、その意味は異なっていた。
「それだけランク差があれば、実力の差もわかるだろ?」
「ランクの差で実力が図れると思っているとは浅はかだね!」
自信満々のアーベンに対して、レイラは余裕の一言を放つ。
「その余裕がどこまで続くかな? 行け!」
アーベンは仲間たちに命令して、蒼太たちへと向かわせる。
「あいつは動かないのか。じゃあ、こっちもレイラ……行けるか? 殺すなよ?」
「はーい!」
元気よくレイラが返事をした時には既に走り始めていた。
二組がぶつかりあう瞬間、アーベンは目を見開いて驚いていた。
「ば、馬鹿な」
レイラは一撃で槍の腹を使い、男たちを全員薙ぎ払いで吹き飛ばしていた。吹き飛ばされた男たちは勢いよく壁にぶつかり、そのまま気絶してしまっていた。
「あれ? 終わり? お兄さん……この人たち本当にBランクなの? なんかあっさり終わっちゃったけど」
いつもの鍛錬などに比べて全く手ごたえのない感覚にレイラは首を傾げてアーベンに質問をした。
「レイラ、まさかあれでBランクってことはないだろ。おそらくアーベンが強くて一緒にいたから、依頼を一緒にこなしてそれで評価を上げたんだろうさ」
蒼太のフォローを聞いて、アーベンはギリギリと音が出るほど歯ぎしりする。
「じゃあ、アーベンとは俺がやろうか」
蒼太が一歩前に出るのをアーベンは睨み付けていた。
「調子にのるんじゃねーよ、あいつらは所詮Bランク程度だ。AとBじゃ天と地ほどの差があることを教えてやるよ!」
余裕だろうと高を括っていたアーベンの形相はいまや鬼のようになり、口調も先ほどまでとは違い荒いものになっていた。
「それが本性か。これくらいでキレてるようじゃ程度が知れるな」
蒼太の表情は変わらないまま、しかし言葉では煽っていた。その効果は抜群で触発されたアーベンは額に青筋を浮かべて蒼太に向かってきた。
「死ね! 死なす! 死んでしまえ!!」
その動きは蒼太たちから見たら明らかに隙だらけだったが、一応Aランクだけあり、あっという間に蒼太へと迫ってくる。
「やるな」
アーベンの片手剣が蒼太に振り下ろされたが、蒼太は紙一重でそれをかわす。
「当たらないと意味ないがな……ほれ」
蒼太は右手に剣を持っていたがそちらは動かさずに、握った左手をアーベンの腹にめり込ませていた。
「うげっ!」
Aランクというのは伊達じゃないらしく、一撃で気絶するまでとはいかなかったがそれでも膝をついて苦しんでいた。
「終わりか?」
「く、くそっ!」
何とか蒼太を睨み付けるが、先ほどの一撃が効いたのか立ち上がることはできない様子だった。
「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうか」
そう言った蒼太は威圧スキルを使いつつ近づくと魔法でアーベンの頭上に炎の玉を浮かべていた。
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