第二百八十話
前回のあらすじを三行で
レイラふくれっ面
ギッルッド!
宿に声をかけにいく
洞窟前までくると、いつものように馬車を収納していくが今回エドは待機ではなく蒼太たちに同行する。
「依頼の場所にエドが一緒に来るのは初めてだな。訓練してるからエドも戦力としてあてにしてるぞ?」
「ヒヒーン」
「任せろか。頼もしいな」
蒼太以外も彼が何を言ったか雰囲気で分かっていた。
ダンジョン自体のレベルはさほど高くないが、今回の依頼の標的となる魔物はかなり奥にいるため時間がかかることは予想できていた。それゆえに、エドをここに残しておくことはリスクが高いと判断し、更にはエドの戦闘での実力を確認する意味でもちょうどいいと思っていた。
「エドも仲間だが、さすがにギルドで言うわけにもいかないからなあ」
馬を戦闘要員として連れているのは異例中の異例で、恐らく世界広しと言えども蒼太くらいである。
「ぶるるる」
気にしていないとエドは首を横に振っていた。
「そうだな、俺たちは俺たちだな。そろそろ出発しよう」
蒼太の言葉に一同は頷いて進んで行く。
道中に魔物が現れることがあったが、アトラの気配察知とエドの攻撃によってあっという間に殲滅されていく。
「エド……強いな」
魔物のレベルが低いというのはもちろんあるが、それでもその一撃は強く動きに無駄がなくエドの実力が高いことは伝わっていた。アトラとの連携もその実力を後押しするものとなっていた。
「あと十階層ほど降りた場所に目的の魔物がいるみたいですね」
ディーナは集めた情報を確認しながらそう言った。
「そうか、これはしばらくかかりそうだな……まあ報酬がそれなりだから別にいいけどな。みんな楽しそうだし」
エドが活躍すると、それに負けじとレイラが先行し、それをアトラに窘められている。
「どうします、誘導はしないでみんなに任せますか?」
蒼太の風魔法による通路探索法を知っているディーナゆえの質問だったが、蒼太は腕を組んで少し考えると頷いた。
「急ぐ依頼でもないし、あいつらに任せてみよう。まあアトラがいるから何とかなるだろ」
『かっかっか、面白いのう。あの三人がどう動くか楽しみだのう』
古龍は完全に見物に入るつもりらしく、蒼太の隣をふよふよと飛びながらついて来ていた。
「アトラが一番冷静な判断ができるだろうから、どこまでレイラとエドが考えながら進めるかだな」
蒼太も古龍同様、先行する三人がどう進んで行くか楽しみにしていた。仲間として行動するには個人ばっかりが強くてもいずれは停滞してしまう。ならば信頼して任せることも大事だと見守る眼差しは穏やかであった。
途中のトラップにはアトラとエドの二人が気付き、解除は力技でレイラが行っていく。
強引ではあったが、その様子は不思議な安定感を持っていた。性根の優しいディーナは思わず何度か声をかけようとしてしまったが、その度に蒼太に止められ、成り行きを見守ると結果オーライといった感じであった。
五階層ほど降りたところで、広い部屋に出たため蒼太が三人に声をかけた。
「ちょうどいい、ここらで休憩をしよう。お疲れさま」
蒼太に声をかけられると、三人はその場に座り込んだ。
「ふー、つっかれたー」
レイラはそのまま地面に大の字になってしまう。
『ほぼフロア全域を探索しての進行だったので、仕方ない』
アトラは最短ルートじゃないとはわかっていたがあえて口出しをせずにレイラとエドに任せていた。
「ぶるるる」
エドは長距離歩くのは問題なかったが、慣れない連続戦闘のため疲労が蓄積していた。
「しらみつぶしで進んだからいくつか宝箱を見つけられてよかったよ。路銀の足しにはなったからな」
「そうですね、隠し部屋があったのにも驚きました」
一つ上の階で、疲れたレイラが壁に手を置いた時に壁が動き出し三人が壁に飲み込まれていった。
『あれは面白かったのう。急に消えるからびっくりしたのう』
古龍はアトラクション程度に感じており、思い出して笑っていた。
「もー、ひどいよ! こっちは隠し部屋で急に襲われたんだからね!」
反対にレイラたちにとっては惨事であったため、非難の声をあげる。
『もとはといえばレイラ殿がうかつに壁に手をおいたのが原因なのだが』
「うっ」
味方と思っていたアトラからの口撃にレイラは身を小さくしていた。
「まあ、いい経験だったろ。こっから先は俺とディーナが先行しよう。みんなはついてくるだけでいい」
蒼太はにやりと笑って言った。
「ほんと! やったー、これで楽ができる!」
レイラは純粋に喜んでいたが、アトラはそれを聞いて反対に気を引き締めていた。
「武器は使ってもいいんですか?」
本気装備を出すなという蒼太の指示があったため、ディーナが確認する。
蒼太は一瞬考えたが、別の武器を取り出す。
「これを使ってくれ」
差し出された弓と剣は蒼太がアントガルと共に作った試作品だった。
「いいんですか? これもかなりのランクの武器だと思いますが」
「まあ、正式採用されなかったやつだからいいだろ。ほれレイラにも渡しておこう」
蒼太は転がっているレイラに向かって槍を放り投げた。
「わっ、ちょっ、もう、急に投げないでよね……ってこれ、すごくない!?」
粗雑に扱っている様子から大した武器ではないと思っていたレイラだったが、手にしただけでその槍の力が彼女にも伝わっていた。
「だからこれらは試作品だから気にしないでいい。別に壊しても問題ないぞ、同じようなやつが何本もあるからな。俺はこれでいいな」
蒼太は自分用の剣も取り出して帯剣する。
「もう少し休んだら進もう」
蒼太は座り込むとそれぞれに飲み物を取り出して休憩する。
嬉々とした表情で受け取ったレイラはそれを一気に飲み干すとアトラにもたれかかってそのままうとうと眠ってしまった。
「相当疲れたみたいだな……そこまでだとは思わなかったよ」
「ふふっ、違うんですよ。昨日あんなことがあったから、今日の依頼が楽しみで寝付けなくて遅くまで起きていたみたいです」
レイラの眠気の原因をディーナがばらしたが、それは微笑ましいものだった。
「そんなにか。まあ、しばらく眠らせてやろう……疲れた身体じゃついてくるのは大変だろうからな」
アトラはぽつりと呟いたその言葉を聞き逃さず、自分も休んでおかなければとひと時の眠りについた。
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