第二百七十八話
前回のあらすじを三行で
帝国の現状と闇
広場で露店散策
原石全部おくれ
ディーナが街人から聞いた方向に向かうと、ほどなくして冒険者ギルドにたどり着く。
ここも様々な種族の人の出入りが多く、盛況な様子がうかがえた。
「行くぞ」
「はい」
どこの街でもギルドは情報集めや仲間集めに最適な場所だったが、それゆえにトラブルに巻き込まれることも多いため、蒼太たちは気を引き締めて中に入っていった。
中に入ると更なる賑わいをみせる。冒険者たちが行き交うギルド内は街中とはまた違った熱気に包まれた空間だった。
「すごいな……とりあえず、依頼の確認をしよう」
「そうですね、それにしても広いです……」
蒼太とディーナは建物の広さ、冒険者の人数、併設された酒場の盛り上がりに驚きつつ、依頼書の掲示板へと向かうことにする。
昼過ぎという時間だったが、数多くの依頼書が掲示板に張られている。辺鄙な場所であれば昼過ぎには冒険者の稼ぎのメインとなる討伐依頼などすでになくなっていることが多いからだった。ところがここではそういった稼ぎのいい依頼もまだ残っていた。
「時間に関係なくこれだけの依頼書があるのはすごいな。それだけ需要があるんだろうな」
「そうですね……人が多ければそれだけの問題や頼み事もあるでしょうから」
そんなことを話しながら依頼を確認していく二人。ギルドに張られている依頼というものは地域性が現れると言われている。どんなことに困っているのか、どんなものが必要とされているのか、それが掲示板に張り出される依頼という形で目に見えるからだ。
ディーナのランクは少し上がって現在Eランク、蒼太のランクは以前と変わらずにDランクであるため、受けられる依頼はパーティリーダーの蒼太のランクの一つ上、Cランクのものまでだった。
「よう、兄ちゃんに嬢ちゃん。あんたら初顔だな」
話しかけてきたのは戦士風の男だった。身長は蒼太よりも高く、顔にいくつかの傷があり、年齢も蒼太の一回り上といった風貌、装備も相応の値段のがっちりとしたスタイルで熟練の冒険者といった雰囲気を醸し出している。
「あぁ、さっきここに来たばかりだ。それで、何か用か?」
蒼太は少しぶっきらぼうに言った。
「おいおい、ちょっと聞いただけじゃないか。確かにいきなり話しかけたら怪しいかもしれないが……」
そっけない蒼太の返しに男は少し肩を落としてそう言った。
「悪いな、怪しい人にはうかつに心を許すなと亡くなった祖父の教えでな」
これは冗談でも嘘でもなく事実だった。蒼太の祖父は、小さいころその父親つまり蒼太にとって曾祖父にあたる男が人を信じすぎ、借金を残すことになってしまったことでそういう信念を抱かざるを得ない環境で育っていた。それゆえに蒼太の家の家訓として、人を信じすぎるなというものがあった。
更に言えば、蒼太は千年前の冒険でも騙されることが何度かあったため、相手の人となりをしっかり見て把握するようにしていた。
「そ、そいつはなかなかいい教えだな」
暗に怪しいと言われていることに気付いて男は頬をひくつかせていた。
「だろ? それで一体俺たちに何の用なんだ?」
蒼太は先ほどの質問を繰り返す。
「あ、あぁそうだったな。あんたら二人だったら俺たちのパーティに入らないかと思ってな、このへんに慣れていないなら一緒に依頼を受けたらどうかと思ってな。ほら、あっちにいるのがうちのメンバーだ」
男が指し示した方向には、魔法使い、僧侶、剣士といった面々が思い思いにこちらへと手を挙げていた。遠目に見る限りでは精鋭揃いといった感じで、装備のランクも一般的にみて高いものであった。
「……悪いな。確かに慣れてはいないが、ここにいないだけで他にもパーティメンバーがいるんだ。こんな人の多い中であまり大所帯では動きたくないから、こうやって二人で来たところだ。ありがたい申し出だが断らせてもらうよ」
今までの男の言動、遠目に見た仲間の雰囲気からそこら辺のごろつきではないだろうと判断した蒼太は先ほどと比較すると態度を改め、頭を下げて断った。
「そうか、なら仕方ない。気が変わったら声をかけてくれよ。俺たちは大抵このギルドの依頼をこなしているからまた顔を合わせる機会もあるだろうしな。ちなみに俺の名前はアーベンだ、よろしくな」
「あぁ、よろしく」
そっけない蒼太の態度を気にした様子もなく彼は気さくに手を差し出し、それにこたえるように握手をする。
「それじゃあな」
さっと手を離してそれだけ言い放つと蒼太は再び掲示板に目を向けていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、名乗ったんだからそっちも名前くらい教えてくれたっていいだろ?」
「はぁ……俺の名前はソータだ。頼むからこれ以上俺の邪魔をしないでくれ」
蒼太は面倒だなと思いつつも名前だけは教えたが、それ以上は話すつもりがなく掲示板に集中する。
「あんたの名前は?」
男は矛先を変えて今度はディーナに名前を尋ねる。元々人当たりのいいディーナは素直に答えようとしたが、蒼太が手で合図するのが見えたため、当初の予定と対応を変えることにする。
「アーベンさんのお名前に対して、うちも一人お名前をお答えしました」
ディーナは笑顔でそう答えた。
アーベンは一瞬きょとんとするが、その意味を理解するとため息をついて仲間のもとへと戻っていった。
「ソータさん、あれでよかったですか?」
去っていく彼を見送ったディーナは依頼を一緒に眺めながら蒼太に確認する。
「あぁ、あれで問題ない。どうもあいつらはきな臭い……普通の冒険者とは違う気配を感じる」
ほとんど蒼太の直感であったが、今まで自分が嫌な予感を感じた時は大抵何かあったため、今回もそれを信じることにする。
「確かに、笑顔でしたが目の奥ではこっちの様子を探っていましたね。お仲間も同様です」
ディーナも何か感じ取っていたため、蒼太の合図にすぐ気づき、ああいった対応をとることができた。
「依頼はいくつか気になるのあるが、今度みんなを連れて全員で来ることにしよう。今日はどんな雰囲気か確認できたたけで十分だな」
蒼太はあえて少し大きめの声で話す。
「そうですね、今日はいつもの装備じゃありませんしね」
彼の意図を察したディーナもそれに話を合わせる。
蒼太がちらりとアーベンたちを見ると、いまだに二人へと視線を送っていたので軽く会釈してギルドを後にした。
ギルドを出たあと、蒼太は気配察知スキルを発動させてアーベンたちがついて来ていないかを探るが、それは杞憂に終わる。
「あいつらは来ていないみたいだな、さっきのやりとりがあって尾けてたらさすがに周囲にバレバレだから当然と言えば当然か」
蒼太は完全にアーベンたちを敵視していた。その理由として先ほどの嫌な予感に加えて、ディーナをじろじろと見ていたからというのもあったが、当の本人は気付いていない様子だった。
「うーん、何が目的なんでしょうね?」
二人はどこかモヤモヤしたまま、宿へと戻ることにした。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




