第二百七十七話
前回のあらすじを三行で
ロビーで待ち合わせ
女性二人の衣装替え
さっそくはぐれるレイラ
蒼太たちは気が向くままにぶらぶらと、店を眺めながら歩く。
「様々な地域のものが山のように並んでいるな」
その言葉通り、周辺地域のものだけでなく各国、各種族の製品も商店には並んでいた。それと同様に種族を選ばず、街中にはたくさんの人々が行き交っていた。
「エルフもドワーフも人も関係なく交流しているんですね……差別も区別もない、みんなが当たり前のように一緒に住んでいる。すごいですね」
明るい表情で楽しそうな会話をしている人族とエルフ族、武器を見て色々意見を交わすドワーフ族と獣人族の姿を見て、ディーナは種族間の諍いがないことに驚いていた。
「人族が築いた街に他種族が集まるのではなく、ここを立ち上げた時点で複数種族いたのかもしれないな。異種族があとから入ってきた場合はそれで円滑にやっていくのは難しい」
「確かにエルフの国に他の種族が入ってきた時も、もめごとは起こりやすかったですね」
ディーナはなるほどと頷きながら、昔のことを思い出していた。蒼太たちはもちろん揉めることはなかったが、千年前の当時もエルフ至上主義者はおり、他国からの流入者と揉めていることがあった。
「まあ、表向きはいいかもしれないが、裏では色々あるものだから俺たちは俺たちがやることをやるだけだな」
「そう、ですよね」
自分たちがこれから対峙するであろう敵情が思ったよりも極悪ではないことにディーナはどこか不安な気持ちを抱えている様子だった。
「そんな顔をするな。なんにせよこの国の問題を調べて、俺たちと敵対するであろうやつと話してからだよ。もしかしたら話し合いだけでおさまるかもしれないだろ?」
そんな彼女を励ますように蒼太自身もそんなことにはならないだろうと思いつつもそう軽口をたたくことで気持ちを軽くしようとしていた。
「とりあえずは、目の前のこの街を楽しもう!」
「はい!」
うつむきかけたその瞬間、蒼太に手を引かれ、そのまま歩くうちにディーナは笑顔を取り戻して散策の続きに戻った。
途中の屋台で買い食いしながら進んで行くと中央の広場へとたどり着いた。中央に大きな噴水があるが、それでも広場は十分な広さで布を広げて露店を出している者、大道芸を行っている者、誰かと待ち合わせをしている者などたくさんの人がいる。
「色々なやつがいるもんだなあ。ん、あれは……」
蒼太はあたりを見回している。すると、露店の中に珍しいものを見つける。
「どうかしました?」
「面白そうなものが売ってるなと思って」
蒼太はその露店へと向かっていった。
「ん? おぉ、にいちゃんこれに興味があるのかい?」
二人が近づいたのに気付いて顔を上げた店主は四十代くらいの兎の獣人の男性だった。
「あぁ、珍しいものを売ってると思ってな……それ売れてるのか?」
そこに並べられていたのは宝石の原石だった。ゴロゴロといびつな形をしたそれは加工前のものだということが一見してわかるものだ。
「あー、わかるか? 原石を手に入れたんだが加工技術もなく、職人のところへ持ち込んだらかなり金がかかるって言われたもんで、途方にくれてこんな場所で露店を開いてみたんだが……まあ案の定鳴かず飛ばずといったところだよ」
慣れないものは扱うものじゃないな、といった困ったような苦笑い顔で首を横に振る。
「そうか……一ついくらだ?」
「お、買ってくれるのか? いくらでもいいんだが、反対に聞くがいくらがいい?」
あまりに売れないため、いくらに設定するのが正しいのかと店主は悩んでいた。
「だったら、全部を金貨一枚でどうだ?」
「なっ、き!」
小さな椅子に腰かけていた店主は驚きで腰を抜かし、そこから転げ落ちてしまう。
「おいおい、大丈夫か?」
蒼太が声をかけるが店主は未だ驚いているままだった。
「に、兄ちゃん、さっきのは本気か!?」
「あ、あぁ、本気だが……それより、ほら立てよ」
店主の反応の大きさに若干引きながらも蒼太は彼に手を貸し、店主はやっと態勢を立て直していた。
「すまんな、あんまりの金額だったからびっくりしちまった。それで、本当にこれ全部買ってくれるのか?」
「あぁ、ほれこれが代金だ。あんたが納得してくれるなら、早速もらいたいんだがいいか?」
蒼太の手から金貨を受け取ると広げた風呂敷でいそいそと原石を包んでいく。
「これ、商品。もう金は返さんぞ!」
店主は既に離さないと言わんばかりに大事そうに金貨をしまうと原石の入った風呂敷を蒼太に押し付ける。酔狂な客の気が変わらない内にと急いでいた店主だったが、蒼太は受け取った品に満足していた。
「ソータさん、それは何に使うんですか? 私にはただの色のついた石に見えましたが」
ディーナはあれが金貨一枚の価値があるのかと疑問に思ったが故の質問だった。
「あー、あのままだとただの石だな。言ってしまえばそこらへんに転がっている石と比べて、色が綺麗だねくらいのものだ」
「やはりそうですよね。それをソータさんならどうにかできるんですか?」
その質問に蒼太はにやりと笑った。
「これを削り出して加工すると宝石ができあがる。ただ加工には技術が必要だから、さっきの店主が言ったように職人に依頼したり、売りに出すのが普通だ。だが、これはサイズが小さいから加工したとしてもそんなにいい金額にはならないからああやって売っていたんだ」
蒼太は先ほど買った原石の一つを取り出すとにやりと笑う。
「じゃあ、それをソータさんが加工して売り出すんですか?」
お金に困っているわけではないので、それが目的だと本気で思っているわけではなかったが最初に思いついた案を持って質問とした。
「加工はするけどな、使い道はもっと面白いものだよ」
「その時は教えて下さいね」
手に持った原石を手の内で転がしながら蒼太が楽しそうにしているため、それが何であるのか知るのをディーナも楽しみにしていた。
「もちろんだ、ディーナも何か気になるものがあったら言ってくれよ」
広場に出店している露天商はなかなか普通の店ではお目にかからないようなものを売っていることがある。だからこそ、それを発見できるように注意深く見て回っていた。
一通りの露店を見て回ると、二人は気になるものが意外と多くあり、思い思いにそれらを購入していた。
「はー、結構買ったな……金はあるとはいえ最近ちょっと散財し過ぎだ。少し依頼をこなして金を稼いだ方がいいな」
「さっき露店で話を聞きましたけど、冒険者ギルドは北側の大きな道を進んだ場所にあるそうです」
ディーナはこの街の地理を少しでも調べておこうと買い物をしながらも情報収集に余念がなかった。
「そうか、ありがとうな。早速行ってみることにするか」
二人はその足で冒険者ギルドへと向かった。
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