第二百七十四話
前回のあらすじを三行で
もしかして預言者?
黒幕は蒼太!?
みんなへの信頼
宿屋で情報の共有を行った蒼太たちは、いよいよ帝国へと向かうこととなった。
一行は帝国入場の列に並んでいた。
「ふえー、ここが帝国かあ。すっごいねえ」
レイラが口にする『すっごい』。それは蒼太もディーナもアトラも、古龍ですらが感じていることであった。
「本で読んだ何倍もすごいですね……」
「あぁ……」
ディーナと蒼太はまだ、入り口までたどり着いていないというのに呆然とその入り口の門構えを見て口を開けていた。様々な本にも記載されていて立派だと有名な帝国の城門。視界いっぱいに広がる城壁はただ単に大きいだけでも、装飾が華美なわけでもない。だが荘厳な佇まいは覇気さえ感じられた。
古龍は全容を見るために飛び上がり、空に向かおうと考えるが羽根を羽ばたかせた瞬間に尻尾を蒼太に掴まれた。
『な、何をするんだのう』
驚いて蒼太のことを非難するが、蒼太が目を細めて見ていたため、はっとした。
「なんで止めたか、わかるよな?」
古龍はその迫力に気おされてこくこくと何度も頷く。すっかり城門周辺の雰囲気に飲まれていたことに気付いた。
『す、すまんのう。そういえばここからも見えるのう。竜騎士とやらが』
その声に全員が空に目をやった。そこには飛竜に乗った騎士たちが上空を飛んでいた。
「わー、たくさんいるねえ」
竜騎士部隊は丁度哨戒任務に出ようとするところであり、その前の準備運動を兼ねて帝国へ来た旅人たちへの歓迎の意味を込めて旋回したり、並んで飛行したり、交差したりと演技を行っていた。そして、尻尾に着けた魔道具から魔力の光を流してその線で色々な形を描いていた。
入場のため並んでいた他の者たちも初めて見たその動きに目線を奪われ、見惚れていた。
「あれは……演技をする航空部隊と同じ発想か」
蒼太だけは他の者たちとは別の意味でその光景に驚いていた。
地球にいる際に航空祭などで、戦闘機がああいった動きをするのを見たことがあったためだった。
「ソータさんはあれを見たことがあるんですか?」
他の者とは違う反応を示している蒼太を見てディーナが質問する。
「あー、国にいた時に似たようなものをな。もちろん竜ではなかったが、あんな感じで尻尾から出る光みたいなので形を描いていたりしていたんだよ」
「ふえー……すごいですねえ、蒼太さんがいた国と同じようなことを帝国はやっているんですね……ということはやはり」
感心して話を聞いていたディーナは一つの予想にいきつき、蒼太はそれに頷いて答えた。
「まあ、そういうのは抜きにしてもすごいものだな。というか、竜騎士部隊は敵対勢力の牽制のためのものだと思っていたが、これならいいイメージを持たせる戦略として成功しているな。遠目で見た限りになるが、騎士も飛竜も見た目に豪華な装備をしているのはそういう意味があるんだろうな」
蒼太の言葉通り、竜騎士部隊は一般的な帝国の騎士とは異なり質の高い装備をしていた。
「色々考えられているんですね」
そんなことを話していると蒼太たちの順番が巡って来る。かなりの人数が入場のために並んでいたが、入場審査は思っていたよりもスムーズに進んでいた。
「はい、みなさん馬車から降りて頂けますか?」
衛兵の指示の通りに全員が馬車から降車した。
近くまで来るとわかるが、入場のチェックは複数に分かれていたため、スムーズに進んでいるようであった。また、揉めた入場者に関しては現場で対応せずに、近くに建てられている詰め所の方で話を聞くという形をとっているようだった。
「ありがとうございます。次に身分証明書を見せてもらえますか?」
「わかった」
蒼太が返事をし、ディーナ、レイラは一緒に冒険者ギルドカードを提出する。それと同時にアトラと古龍の獣魔登録の首輪を見せた。
「はい、三名とも大丈夫ですね。そちらの獣魔二体も問題なしです。次にお約束となっていますが、そちらの水晶に順番に触れて下さい……はい、完了です」
男は三人が水晶に触れても問題がなかったことを手元にある書類にメモしていく。
他の街などでは、単純に入場可能かどうか確認するだけだったが、帝国では誰がいつ入場したかを記録に残していた。
「なあ、それ全員分記入しているのか?」
「えっ、あぁこちらの台帳ですね。そうです、一日の入退場の管理をこちらに記入して行っているのです」
蒼太は気になったため衛兵に質問し、衛兵も気さくに教えてくれた。仕方ないとはいえ紙媒体であることに蒼太は大変だな、と思ったが、それ以上にこういった管理をしていることに感心していた。
「これはなかなか楽しみになってきたな」
本来の目的があるものの、それはさておき入場だけでいくつも驚かされることがあった。中に入ったらこれ以上に色々と驚くことが待っているかもしれないと思うと蒼太は単純にわくわくする気持ちがあった。
「ふふっ、ソータさん楽しそうですね。気持ちはわかります、様々な面でレベルが高いと中に入ってからどうなるか気になりますよね」
それは他の三人も同じようで、あたりをきょろきょろと見まわしている。
「はい、記入完了です。それではごゆっくりしていって下さい。ようこそ帝国の首都『ジフライタル』へ、宿をお探しでしたら真っすぐお進み頂ければ商店の並ぶ道がありますので、それを抜けた先にあります」
「ありがとうな」
許可の出た一行は再び馬車に乗ると、衛兵に頭を下げ礼を言ってから帝国の首都ジフライタルへと足を踏み入れる。
衛兵はというと、頭を下げ返すと次の入場チェックへと取り掛かった。彼はこの仕事を気に入っており、色々な人物と関わることができ、帝国の玄関ともいうべき場所での仕事に誇りを持っていた。
「いよいよだー!」
馬車内にいるレイラだったが、興奮を抑えきれず身を乗り出して街中を見ようとしている。
「宿がとれたら後で散策する時間をとろう」
御者台にいる蒼太はみんなのために提案した、ように見えたが、馬車内からは見えない蒼太の顔はいつになくわくわくしたものであり、その顔を見たものであれば自分のための提案だとわかったであろう。
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