第二百七十話
前回のあらすじを三行で
蒼太たち撤退
蒼太、罠を仕掛ける
敵、罠にはまる
「とりあえず、ここが一時避難先になるようです」
ディーナがそう説明する場所は、前の集落から半日以上移動した先で大きな湖の周辺だった。
「ここなら水の確保もできるから、しばらく逗留するにはいい場所かもな」
住民たちも今回のような逃亡劇には慣れている様子で、すぐにここで休憩できるような準備を始めていた。
「おぉ、ソータ殿。おかげで誰一人欠けることなくここまで移動できました」
その様子を見ながら歩いていると族長のザムズが穏やかな笑顔で両手を広げて蒼太たちのもとへとやってきた。
「あぁ、だがあの集落にはもう住めないだろう。一時的な場所じゃなく、定住できる場所のあてはあるのか?」
蒼太の質問にザムズの表情はすぐれない。
「……いや、なかなか」
言葉もそれ以上は続かなかった。うつむいて思案する様子からもザムズが悩んでいることがわかる。
「だったら、トゥーラに行ってみるか? 小人族も一つの集落のやつらが住んでいるはずだぞ。おそらくだが、あいつらが住んでもまだ居住許容はあるはずだ」
「それは……とても魅力的な誘いですがの」
言葉の通り誘いに対してザムズの気持ちは動いている。しかし、この千年の間小人族は一族バラバラで定住せずに色々な地域を転々としているため、それをここで変えることに抵抗があった。
「一つの場所に、特に人の多い場所に住処を移す判断をするのは簡単ではないってことか」
「もちろん、その集落の長がそこに住むと決めたことは問題はありません。これはあくまでわしの考えが固いせいですので……」
トゥーラに居を構えた長へのフォローを入れつつも自分の考えは変わらないことを伝える。
「そうか、だったらしばらくの間は移動をしながら見つからないようにしてくれ。決して戦わないように、あいつらもかなり本腰を入れてきているようだからな」
そう言われて、ザムズは再び苦い顔をする。
「しばらく……ですか。一体我々はいつまで逃げ続ければ良いのですかのう」
悲しみをたたえた彼の眼差しを受けて蒼太はザムズの肩に力強く手を置いた。
「安心しろそう遠くない内に解決するはずだ。必ず俺が、何とかする」
真っすぐ彼の目を見つめてそう強く宣言する。
「それは、本当ですかな」
ザムズは目を大きく開いて、再度確認する。今までも力になってくれた蒼太が冗談で言っているのではないことはわかっていたが、それでも長年持ち続けていた不安は強く、念押しで確認せずにはいられなかった。
「あぁ、俺にはやらなければならないことがある。その結果あんたたちが追われることもきっとなくなるはずだ」
確証が得られているわけではなかったが、蒼太には自信があった。小人族を襲っているやつらの大元は千年前の戦いの際に自分たちを陥れたものであると。
「お願いします! わしは、わしらが自由に皆でともに過ごせるように、平和を享受できるように、助けて下され!」
その悲痛な願いが聞こえた小人族がザムズを中心として集まって来る。
「本当になんとかできるんですか?」
「もう、逃げなくてもいいの?」
「仲間を失うのはもう嫌だ!」
次々にそれぞれの悲痛な思いを蒼太に訴えてくる。その数はどんどん増え、あっという間に蒼太たちは囲まれてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
それだけ一族が不安になっていることを理解していた蒼太はなんとかそれを穏やかに止めようとするが、大勢の声にかき消されてしまう。
「ふう、仕方ない」
蒼太は一度深呼吸をすると、手と手を合わせてパンッと叩き大きな音をたてる。それは全員の耳に届く。風魔法を使い、音の大きさを調整しているため、近くにいる者でも急に大きな音がしたが耳をふさぐ程度で済んでいた。
「急にでかい音を出して悪いな、いったんみんな静かにしてくれ。一度に大勢から色々言われてもさすがに全部に俺は何も答えられない。ただ俺に言えることだけを言おう」
全員の注目が蒼太に集まる。大勢の小人族たちが見上げる中、一息置いて彼は声を上げた。
「俺たちは北の帝国に向かう、そこであんたたちを狙っているやつと戦うことになるはずだ! だから、それまで待っていくれ。あんたたちには不便をかけるかもしれない……だが、必ずやつらを倒してくる!!」
その宣言はじわじわと、だが確実に小人族の間に広がっていき、最初はざわざわとしていたものが徐々に歓声に代わっていた。
「おおおおおおお!!」
彼らが抱き合ったり手を叩いて歓声をあげている様子にザムズも笑顔になり何度も頷いていた。
「責任重大ですね」
ディーナは蒼太が昔のように誰かのために動こうとしてくれる人間であることを確認できたことを嬉しく思い、そっと後ろから肩に手をあてて笑顔でそう言った。
「あぁ、やらなきゃな。これまでずっと一族で秘密を守り続けてくれた。そのおかげで俺たちは今ここまでの情報を手に入れられている。ならば、小人族の千年に報いてやらなければならない」
蒼太は帝国の、そこにいる黒幕であろう将軍を倒す、もしくは止めるための理由が一つ増えた。
最初の内は自分のことでありながらも、どこか謎が解けることへの楽しさを感じていた。また、昔旅をした場所を回れることも、仲間と一緒に旅をできることも楽しかった。
だが、ここからは楽しいだけでは済まない戦いが待ち受けているであろうと考え、その表情は険しいものになっていた。
「私も微力ながら共に戦います!」
ぐっと両手で握り拳を作って同意したディーナは兄の無念を、そして千年前に出会った友の無念を晴らすためにも最後まで蒼太と共に行く決意でいる。
「難しいことはよくわからないけど、あたしもがんばるよ!」
どんと胸を叩いたレイラは世界の広さを教えてくれた仲間のために自分の力を少しで役に立てたい。その思いを強くもっていた。
『私はグレゴール殿が成せなかったことをソータ殿と成し遂げられればそれで満足だ。それにソータ殿は私の主だ、あなたが行くならもちろん私もついていく』
アトラは契約を遂行するために、そして前の主のためにも行くと宣言する。
『ふーむ、我には皆のように大層な理由はないのう。だが、お主らといるのは楽しい。理由はそれで十分だのう』
古龍は彼らと共にいるのが心地よかった、その彼らが行くのであれば誰と敵対しようと、どこへ行こうと関係なかった。
歓喜に沸く小人族たち、そして仲間の強い気持ちを感じ取った蒼太は自分の胸が熱くなるのを感じていた。
「みんなの意思も確認できた、世話になった集落も何とか助けることができた。次は……帝国だ!」
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




