第二百六十九話
前回のあらすじを三行で
レイラ先行
ためし斬り
撤退だ!
「そ、ソータさん。なんで逃げるの!? あたしたち完全に優勢だったよね?」
急に撤退の指示を出されたレイラは驚き、また納得がいかず並走しながら質問する。
「あいつらは斥候部隊だ、上空のやつらはディーナと古龍が倒してくれた。地上のやつらもあらかた殲滅した。だが、時間をかければ本隊がやってくるはずだ」
実際、距離は離れているものの後続の部隊が近づいて来ていたため、この予想は当たっている。
「そいつらも倒しちゃえばいいじゃない!」
自分とこの仲間たちであれば勝利は確実なものだ、レイラはそう確信していた。
「それもいいかもしれないが、俺たちは恐らく帝国で本格的な戦いがあるはずだ。いまから手の内を見せてやる必要はないさ」
前回戦った時にはレイラと古龍がおらず、装備もあれから一新されている。で、あるならばできるだけ戦力は隠しておこうという判断だった。もちろん今までに戦った魔物であれば、力技で強引に乗り切ることができた。しかし負傷・疲労していたとはいえ、蒼太の仲間である勇者を殺すことができるだけの腕を持っている相手には念には念をいれて挑みたかった。
「ふーん、そんなものかなあ?」
「それに俺たちの目的は敵の殲滅じゃなく、集落の人たちが逃げる時間を作ることだ。もう目的は達成されたはずだ」
最後まで残っていた族長も嫁に引きずられていったため、集落は空になっており、これ以上ここを守り続ける理由はなかった。
「ソータさん!」
ここで別の場所から駆け付けたディーナも蒼太たちに合流する。
「住民の避難は完了しています。避難先の場所も教えてもらいましたので、そちらへ向かいましょう」
ディーナは集落からそれほど離れていない場所で戦っていたため、ザムズの妻から避難先の情報を受け取っていた。
「その前に、罠を仕掛けておくか……先に向かっててくれ。俺はアトラと一緒に向かおう」
既に隣にやってきていたアトラの頭を撫でながら蒼太が言う。
アトラの気配察知能力は蒼太より上であり、更には嗅覚も敏感であるため、ディーナたちを追いかける際に役に立つと考えた。
『任せてくれ、ソータ殿をみんなのもとへ必ず連れて行こう』
みんなはアトラの返事に頷き、二人を残して出発する。
「行ったか……悪いな付き合わせて」
蒼太はアトラに謝罪しながらも準備を始めていく。
『いや、ソータ殿は私の主だ、問題ない』
それはアトラの心からの言葉であり、役に立てることを嬉しく思っていた。
「助かるよ。悪い、これを集落の周囲においてくれるか、大体でいいから一定間隔でおいてくれ」
『承知』
アトラは渡された結界石をくわえると集落の周りに置いていく。
「俺のほうも準備を進めないとだな」
蒼太は集落の外、魔物たちが攻めてきた方角にある程度わかりやすく罠をしかけていく。踏んだら爆発する。線にひっかかったら槍が飛び出してくるなどなど、シンプルなものを多く用意した。
「あとは、仕上げに……」
蒼太は集落の中に入るとその中央にわからないように魔法陣を書き、それを上から土をかぶせて埋めていく。魔力の残滓が残らないように周囲の魔力を吸収して消していく。
「よしこれでいいな。アトラ出発しよう」
蒼太はアトラの頭に手を乗せると自分とアトラに身体強化の付与魔法をかけていく。
「走るぞ!」
その声を皮切りに二人はディーナたちを追いかけ走り出す。蒼太は追跡を撒けるように途中まで魔力をばらまきながら走る。これならば魔力を探って追いかけた場合も途中で消えたところで追いかけられなくなる。
小人族撤退の一時間後
「わかりやすい罠が置かれてるな、こんなの誰がひっかかるっていうんだよ」
フードの男はぶつぶつと文句を言いながら魔物の背に乗って集落へと進んでいく。
蒼太の設置した罠はたまに知能の低い魔物がひっかかることもあったが、そのほとんどは誰もかかることなく放置されていた。
「どれだけ罠を仕掛けてもかからなければただの徒労だね」
数が多いため、その設置にかかった苦労を考えると男はにんまりと口元に笑みが浮かんでいた。
「さてさて、逃げ遅れたやつか、何か情報はないものかね」
集落に足を踏み入れ、部下の魔物たちに家探しをさせるが誰もいる様子はなかった。
「お前らなんでもいい、小人族の行き先につながるものを探せ!!」
あまりに情報が出てこないことに、苛立った男は自分の親指の爪を噛み始める。
「ちっ、こっちが徒労かよ。まったく、どうやって逃げ出したんだ、結構な数の魔物が戻ってこなかったけど……死体もなかったな」
男はイライラしていたが、現状を徐々に把握してくると疑念が浮かんできた。
魔物たちは命令を遂行するために、集落にどんどん入り込み、探索を始めていく。
その数が一定数を超えた時に、集落を囲んだように配置された結界石が大きな反応を示した。
「な、なんだ!」
強い光を放つと、集落を魔力の結界で覆っていく。入り口近くにいた魔物は慌てて飛び出ようとするが、結界は強く雑魚魔物程度では通り抜けることができず、はじき返されてしまう。
集落全体が覆われると更に結界石から魔力が集落の中央、男がいる周囲に集まっていく。
「くそっ、罠だ!」
そう男が叫んだ時は既に手遅れで、蒼太が用意した最後の罠が発動した。
足元がぬかるんで足をとられ動きがとれなくなる。そこに魔法陣を中心とした光魔法が発動した。
「ぐ、ぐわああああ!!」
目の前が真っ白になるくらいその威力は強く、男も思わず声を上げるほどであった。
部下の魔物たちはそのまま光魔法の力によって浄化され、その姿を失っていた。男は今回機動力と数を重視して大型の魔物を連れてこなかったことがわざわいし、この状況を乗り越えられる魔物は一匹たりともいなかった。
「く、くっそおおおおおおおお!!」
光魔法による苦しさとすっかりやりこまれた悔しさに満ちた男の叫びがあたりに響き渡る……。
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