第二十六話
領主の館を出て、ギルドへと向かう途中蒼太は空腹に耐えかねて食事を取ることにした。
昼時ということもあって、道沿いにはいくつもの屋台がでている。
その中でも、以前見かけた小麦粉を水で溶かしたものに野菜や肉をいれ焼いたものが特に気になっていた。
甘辛いソースがかかっており、地球で言うお好み焼きに似ていたが、鰹節や青のり、マヨネーズなどのトッピング要素は存在していない。
「これを二つもらおうか」
名前のわからないそれを注文する。
「あいよ、二つで銅貨40枚だ……ひぃ、ふぅ……お、ちょうどだな。今焼くから待ってくれ」
蒼太以外に並んでるものがいないため、作りおいている物ではなく新しく焼き始めた。
あたりにソースの香ばしい匂いがたちこめ、蒼太は唾を飲む。
「ほい、いっちょ上がり。二つだから、にちょう上がりか。熱いから気をつけて食いなよ」
屋台の店主が使い捨ての皿の上に乗ったそれを渡してくる。
「ありがとう、ちなみにこれはなんて料理なんだ?」
店主は目を丸くする。
「料理なんて上等な言われ方をするとなんか恥ずかしいな。これは俺の家で昔から作ってた食いもんでな、名前はないんだよ」
蒼太は受け取った一つを屋台の端に置くと、手に持った一つを食べ始める。
店主に見守られる中、あっという間に食べ終える。
「うん、うまいな。予想してた通り俺の故郷の料理に似てる」
「なんだと! 俺んち以外にもこれを作ってるとこがあるのか!?」
身を乗り出さんばかりの店主に対して、二つ目を食べながら返事をする。
「あぁ、俺の出身の国ではこれに似たものが名物になってる地方もあるくらいだ。といっても相当遠いからもう行くことはないだろうけどな」
「お前さんは、その本場でそれを食ったことがあるのか?」
「あるよ、昔な」
「それと俺のとを比べてどっちがうまい?」
蒼太は少し考え込む。
「そうだなあ……まあ正直に言うと、おっさんのより俺が昔食ったほうがうまい。おっさんのは最終的な味付けがこのソースだけだろ? 俺が食ったのはそこにトッピングが加わってた」
「ど、どんなのだ?」
「風味付けのものや、ソースと絡んで味付けが膨らむものとか色々だったな。俺は料理人じゃないからコレってのは言えない」
蒼太は地球での名称はもちろん知っているが、こちらでの代替品となるものの名前を知らないためそう言って濁した。
「そうかぁ……なあなあ、ここらでそれを食ったことあるのは多分あんただけだ。だからまた食いに来てくれ、そして俺が改良を加えたものの味見をしてくれ、もちろん金はいらない!」
「わかった、でもいつ来るとか頻度は約束出来ないぞ」
「それで構わない、俺はこの街でずっと屋台をやってるから、いつかまた来てくれればいいさ」
お好み焼きもどきの屋台の店主とそう約束し、サービスでもらったもう3枚目を食べながらギルドへと向かう。
隣の酒場では食事も出しているため、そちらはにぎわっていたが、ギルドの受付はすいていた。
蒼太はいつも対応してもらっているアイリの受付へと向かう。
「あ、ソータさん。いらっしゃいませ、今日はどういった御用でしょうか?」
「グランとミルファに話がある。この間の依頼の件と言ってもらえばわかると思うんだが、頼めるか?」
「マスターとミルファさんですね、わかりました。こちらで少々お待ちください」
掲示板に貼られた依頼を眺めながら待っていると、アイリが蒼太の下へやってくる。
「ソータさん、お待たせしました。お会いになられるそうです、いつもの部屋へどうぞ」
アイリはそういうと受付へ戻り、蒼太に階段を指し示す。
ノックをし、部屋に入るとグランはソファに、ミルファはその後ろに、といつもと同じ位置で待っていた。
「おぅ、ソータ。この間の依頼の話だってな、竜の肝は手に入れたのか?」
グランの質問に首を横に振る。
「ふー、お前でも無理だったか。そうなると現状ここの街で手に入れられそうなやつはいないな……エリナちゃんもかわいそうになぁ……」
「おい、勝手に話を進めるな。エリナは無事だ、石熱病は治った」
「……どういうことだ? 肝はとってこれなかったんだろ?」
グランは眉を潜めながら顎に手をあて蒼太へと質問する。
「結論だけ言おう、石熱病の薬を俺が用意した。それを飲んでエリナは治った。エルバスのじいさんは依頼完了と判断し報酬をもらった。以上だ」
「薬を用意した、だと? 肝よりもそっちのほうが難しいだろうに、一体どうやって用意したんだ?」
「それは秘密だ。大事なのは結果だろ? それよりも金貨200枚を払うから、家の手続きを進めてくれ」
ミルファは金貨の入った袋を受け取ると書類を取り出すために、部屋の片隅にある金庫へと向かう。
「話せ、と言っても無駄なんだろうな。えーい、もう聞かんわ! とにかくエリナちゃんを助けてもらったことに礼を言おう。エルバスはわしの古い友人だからな」
「今は歩く練習を進めてるとこだ。まだ家から出られないだろうから会いにいってやるといいだろう」
「うむ、ありがとうな。ソータのおかげであいつも苦しまずに済んだ、二度も同じ理由で身内を失うのは辛いからな……」
そう言い、座ったままだが深々と頭を下げる。その後ろでは書類の準備が終わったミルファも一緒に頭を下げていた。
「気にするな、それに礼なら領主の家で言われてるからそれで十分だ。それより……家のほうは大丈夫なんだろうな?」
ミルファに視線を送り、確認する。
「もちろんです! お金もお預かりしましたので、この書類を持って不動産屋さんへ行って手続きをすればあの家はソータさんのものになります」
蒼太は頷くと立ち上がる。
「じゃあ、早速不動産屋へ案内してもらおうか」
ミルファを伴ってギルドマスタールームを出る。
二人が部屋から出ていき扉が閉まろうかという瞬間、再度扉が開かれる。
「言い忘れたけど、詳細をエルバスに聞こうとしても無駄だからな。それじゃ」
部屋からはグランの唸り声が聞こえた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
そろそろ新しい展開へとシフトしていく……予定です。




