第二百六十六話
前回のあらすじを三行で
小人族に対するエルバスの対処開始
蒼太たちは旅立つ、いざ帝国へ
終わったらまた、あの家で暮らそう
古龍の提案の通り、途中から空を移動していくと小人族の一団が街道を移動しているのをディーナが見つけた。彼女はエルフ族の特性としてもともと目が良く、更に見張りを担当するために蒼太に頼んで視力強化の付与魔法をかけてもらっていた。
「人数は五人、いえ六人ですね。何やらみなさん険しい表情をしています……それにかなり急いでいるようです」
ディーナには彼らの表情まで見えており、それを皆へと伝える。
「何かあったのかもしれないな……よし、俺が聞いてくる。みんなはあとから来てくれ」
「それは、ど……」
どういうことなの? そう聞こうとしたレイラだったが、その瞬間に蒼太がジャンプして古龍の背中から落ちていくのを見て言葉が止まった。
「こ、ここってすっごく高いよね? だ、大丈夫なのかな?」
レイラはあわあわしながらディーナへと尋ねるが、ディーナは笑顔のままだった。
「大丈夫です、あのソータさんですよ?」
ディーナは蒼太を心から信頼しており、また彼の能力を考えればこれくらいの高さから落ちてもなんとかできると判断していた。
「あれか」
当の蒼太は落下に身を任せながらディーナが見つけた小人族の姿を確認していた。
しかし、さすがに蒼太といえどもこのままの速度で落ちてはダメージを受けてしまう。また、それ以上に地面に多大なダメージを与えることになると地上にいる小人族たちを驚かせてしまう。
「なら、あれだな」
蒼太は自分の周囲の風を操り、落下速度を徐々に軽減させていく。地上にたどり着く頃にはその速度もほとんどゼロに近くなっていたが、問題は別のところにあった。
「そ、空から人が降りてきたぞ!!」
「ひ、人なのか? もしかして……魔族!?」
「まさか、伝説の竜人族か!?」
気を使って小人族を驚かせないようにとの考えは見事に失敗していた。
「もう少し離れた場所に降りるべきだったな……」
蒼太は小人族の前方十メートル程度の位置に降り立ったため、結局余計に彼らの注目を集めてしまっていた。
「あー、驚かせてすまない。俺は人族だ、あんたらに話を聞かせてもらいたいと思ってやってきたんだが」
「ど、どこから!?」
驚きのあまりおびえた表情の彼らの当然の質問に対して蒼太は上空を指さした。
「あんたたちを見つけたから、ちょっと上から飛び降りてきたんだ。といっても信じてもらえないか……」
蒼太は困り顔で頭をがしがしと掻いていた。
一方の小人族は距離を保ったまま、目の前の男に対してどうするかひそひそと話し合っていた。
すると、後方からもう一人馬に乗った小人族の男が慌ててやってきた。
「おーい! 待ってくれー」
その男は他の小人族より少し遅れて出発していたため、ここでやっと追いついたようだった。
「お、やっと来ましたね」
ひそひそと話し合っていた彼らは馬に乗った小人族の男を見つけると安心したような表情を見せた。どうやらその遅れてきた男は彼らの集落の中でも上の立場の人間だった。
「すまんすまん、やっと追いついた。ん? あなたは……ソータ殿? そうだ、ソータ殿だ!」
「やっとこれで話が進みそうだな……覚えているやつがいて助かったよ」
話の分かりそうな小人族がいたことにほっと胸をなでおろした蒼太は彼らに近づき、その男に話しかけた。
「ソータ殿、これは一体どういうことですか? 何やら彼らの表情がおかしいような……」
「あー、それな。ちょっと俺が上から降りてきたもんで、俺の素性を怪しんでるみたいだ。まあ当然といえるだろうが……」
蒼太は再度頭を掻きながらそう言った。
「あー、なるほど。まああなたならそれくらいやりかねませんね。お前たち、大丈夫、この方は信頼できるお方です。我々の集落を守っていただいた方ですから」
そう言われて、みな驚いて蒼太の顔を見た。彼らは集落が蒼太に救われた時には別の集落に出向いており、彼のことは話で聞いただけだったため、その当人に出会った驚きと心のうちに広がる感謝の気持ちでいっぱいだった。
「あなたが……ありがとうございます!」
「ありがとうございます、俺の家族を救ってくれて」
「あなたたちがいなかったら、俺は仲間を失っていた!」
手のひらをかえして彼らは蒼太の感謝の言葉を投げかけてくる。その気持ちはわかるが、蒼太は話を進めたいと思っており、複雑な表情になっていた。
「おいおい、お前たち。ソータ殿が困っているだろ、そのへんでやめておけ」
馬に乗っていた小人族の男のこの言葉によって何とか蒼太が解放される。
「これでやっと話に入れそうだな。急いでいる様子だったが、あんたたちは何があって、どこに向かっていたんだ?」
そう問われて、彼らははっとした顔になる。
「そ、そうだ。我々は別の集落にあのことを伝えに向かっている最中だった! ソータ殿、我々は先を急ぎますので!」
「待て! 少し話をさせてくれ」
急いで出発しようとした小人族たちを蒼太は慌てて止める。
「あのことっていうのは、もしかして小人族の集落が帝国のやつらに襲われているって話か? それも以前と違ってかなり本腰をいれて」
「ご存じでしたか、我々はそれを他の集落に伝えるのが役目なのです」
蒼太が知っていたことに一瞬驚いたが、それでも彼ならばと小人族たちは謎の納得をしていた。
「俺が拠点としているのが、冒険者の街トゥーラというんだがそこにも一つの集落のやつらが逃げ込んで来た。今頃領主の計らいで何とか住まう場所が準備されているはずだ」
仲間が無事だということを聞いた彼らは安堵していた。
「よかった、一人でも多くの同胞が助かればと思っていたので。よかった、本当によかった」
「それで、あんたは確か族長がいたとこの集落やつだよな。今はまた場所を移しているんだろ? 族長の無事を確認したい、場所を教えてもらえないか?」
その蒼太の質問は彼を悩ませるに足る質問だった。部外者に教えてそれが理由で仲間を危険に陥れるかもしれない、しかし目の前にいる彼は自分たちの命の恩人である。その二つの葛藤が小人族の彼を悩ませていた。
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