第二百六十五話
前回のあらすじを三行で
竜騎士部隊
全員の意思を再確認
明日の午後か明後日には出発しよう
翌朝
蒼太たちは、旅に出られる準備をしてから北門に向かっていた。
そこにはエルバスとダン、それに領主の部隊がやってきていた。
「おー、ソータ殿。昨日はありがとう。あのような宿泊施設を用意してもらって、助かったよ」
蒼太の姿を見つけたエルバスが気さくに声をかけてくる。その様子は衛兵や小人族はもちろん、何事かと集まってきた住民からみても驚きの一言であった。
「おい、あんまり馴れ馴れしくするなよ。衛兵と小人族は昨日のことを知ってるが、住民にまで俺が領主と知り合いだって知らしめる必要はないんだからな」
蒼太は他に聞こえないくらい、エルバスにだけ届くくらいの声の大きさでそれを伝える。
「う、うむ、ご苦労だったな。もう行っていいぞ」
怪しい反応になってしまったが、エルバスはなんとか蒼太とのやりとりを無理やり終わらせることに成功する。
ダンであれば情報をある程度知っており、かつ話していても怪しまれないであろうと思い蒼太が声をかける。
「おはよう、今どうなってるんだ?」
「これは、ソータ殿。まずは小人族のみなさんから状況を聞いて、そして彼らが何を望んでいるのかを確認するところですね。彼らの長がエルバス様と話すことになったみたいです」
ダンは首の動きで小人族の長がエルバスのもとへ行く姿を指し示す。
「エルバスのほうでどうするつもりかは聞いているのか?」
蒼太の質問を受けて、視線はエルバスたちから外さずに返事を返す。
「えぇ、彼らがこの街への移住を望むのであればエルバス様は受け入れるつもりでいます。区画としては南西の区画は空き住居が増えていますので、そちらを整備してという形になりそうですね。それまでの間はソータ殿が作られた宿泊施設を使うことになるみたいです」
「そうか……まあエルバスならうまくやってくれるだろうな」
蒼太は今まさにやりとりしている長の反応からもそれを確信し、この場は彼らに任せることにして、その場を後にする。
「えぇ、小人族の方も話のわかる方のようですし、問題なく話は進むとおもいま……」
そこまで言ったところで、蒼太の姿が隣にないことに気付く。
「あれ? ソータ殿?」
ダンは慌てて周囲を見渡すが、蒼太の姿は既にその周囲にはなかった。
「もう、いいんですか?」
戻ってきた蒼太へディーナが声をかける。
「あぁ、下手に俺が間に入るよりも任せたほうがいいだろ。俺が口を出してるのを見たら住民からも不信感を持たれかねないからな。あとはあいつらの仕事だ。俺たちは俺たちがやらなければいけないことをやらないとだからな」
蒼太の言葉はエルバスへの信頼と、これから自分たちがやることになるであろう戦いのことを考えていた。そのため蒼太の表情は厳しいものになっており、一行もそれにつられて同じく厳しい表情になっていた。
「いつまでもここにいたら、止められるかもしれないからこのまま出発しよう」
「わかりました」
「うん!」
ディーナ、レイラの返事を確認すると、蒼太はエドを引いて門へと向かった。
その様子はエルバスからも見えていたが、彼は長と話している最中であるため蒼太たちの背中を見送ることしかできなかった。
衛兵はエルバスがどうするのか気になりながらも、蒼太たちの対応を行っている。
「悪いな、こんなタイミングで出立することになってしまって」
口では謝りながらも、蒼太は心の中では今のうちならどさくさに紛れて誰にも止められることなく出られると考えていた。
「いえいえ、これも大事な仕事ですから」
彼もそう言っていたが、内心ではエルバスがどうするのか近くにいってみたいと思っていた。
二人の心の内が同じ方向を見て一致していたため、手早くチェックを終え蒼太たちは出発することができた。
「さて、やっと出発できるな。エド頼んだぞ」
「ヒヒーン!」
これまで移動の際の役割を古龍に奪われていたエドは、やっと自分の出番が戻って来たことに喜んでいた。
「一つ言い忘れたことがある。次の目標は帝国にしようと思っていたんだが、ひとまずは変更する」
「えっ? じゃあどこに行くの?」
蒼太の発言に驚いたレイラがそう尋ねる。その疑問は最もであり、他の面々もその問いに対する答えを待っていた。
「小人族の族長のいる集落へ向かおうと考えている。もし無事なら、今回のことを伝えておきたい。無事でないなら……犯人を倒す理由が一つ増えるだけだ」
それを聞いた一同はなるほどと納得していた。
「そうですね、族長さんにはお世話になりましたし、救える命は救いたいです」
ディーナも蒼太の意見に賛同する。
「ソータさんが決めたのならあたしも問題ないよ。その人がいたおかげであたしたちも会えたんだよね? だったら、絶対に助けないと」
移動中に竜人族の聖地まで行くことになるまでの経緯を話したことがあったため、レイラも奮起していた。
『ありがとう、あの集落の者たちは私も多少ではあるが交流したから助けられるならば是非そうしたい』
アトラは蒼太に礼を言う。彼にとって小人族は他の種族に比べ思い入れが強く、族長の集落の者は彼に対して敬意をもって接してきたため、その思い入れはより強くなっていた。
『ふむ、であれば途中までこのまま馬車で移動して、その後は近くまで我に乗って移動したほうがいいだろうのう。少しでも早いほうがいいからのう』
古龍は小人族に対して特に思うことはなかったが、既にこのメンバーを仲間だと認識しており仲間が世話になったのであれば、それは自分にとっても恩人であると考えを持っていた。このことは、今まで数千年気ままに生きてきた古龍にとっても初めての感情であった。
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