第二百六十三話
前回のあらすじを三行で
飯の用意はゴルドンが
蒼太の帰りを待っていた衛兵
宿泊施設を作る蒼太
木を集め終えて戻ってくると、さっきよりも集まっている小人族は増えており、距離も近づいていた。
「おいおい、集まりすぎだろ。ちょっと下がってくれるか」
蒼太の声に小人族は徐々に下がり距離をとるが、離れすぎずにどんなものが出来上がるのかと期待と不安の表情で作業を見守っていた。
「それくらいならいいか、さて壁をつけていくか。まずは穴を……」
簡易的な施設であるため、基礎などは作らずに直接地面に木の板を差し込み壁を作っていく。そのために蒼太は土の魔力を地面に流し土壌に板をいれるスペースを作っていく。
その速度は見ている側が何をしているのかわからないほどの速さであった。
「次は壁と柱」
そういうと、次々に加工済みの板を壁になるよう先ほどの穴に挿していく。それを終えると壁の中で柱を立てていく。壁や柱は倒れないように設置を終えると魔法によって周囲の土を固めていた。
「あとは屋根をつけてっと」
あっという間に壁と柱を設置し終えた蒼太は屋根をとりつけ、その上に土と水の魔力で作りだした膜を貼り付けて雨などへの対策をする。
「扉だけ別につけて、あとは魔道具の設置だな……」
蒼太は数か所に出入りのための扉をつけ、いくつかの壁に穴をあけて簡易的な窓をとりつける。ガラスをはめ込むのはさすがに難しかったので、布をかけることで中が見えないようにする。そして、中は夜間でも灯りをとれるように魔道具をいくつか設置していた。
ここまでの作業を蒼太は数時間で、しかも一人で行っていることに見ている一同の口はぽかんと自然に開いていた。
「とりあえずだがこんなもので勘弁してくれ、用足しは衛兵の詰め所のやつを借りてくれると助かる。それでいいよな?」
蒼太は観客の中にいつの間にかいた衛兵に声をかけると。衛兵は口を開けたまま何度も頷いていた。
「食事は街の宿屋の主人が作ったものを俺の仲間が運んで来てくれるはずだ。それまで待っていてくれ、それ以降の対応は領主に任せた」
さすがに蒼太も疲れたらしく、それだけ言うと後ろを振り返らずに街の中へと戻っていった。
と、思ったが一度振り向く。
「念のため、魔物除けに結界石を四方に設置してあるから外すなよ? 外して襲われたらそれは自業自得だからな」
思い出したようにそれだけ言い放つと蒼太は、今度こそ振り返らずに街へと戻っていった。
そのあとを追いかけるのはディーナとアトラと古龍、そして小人族の長だった。ディーナが小人族へ説明をした際に、完了後のこちらへの同行を頼んでいた。
蒼太の屋敷
屋敷に戻るとエドが迎えてくれるが、蒼太は疲れから手をあげるだけしかできずにいた。
「疲れてるみたいなのでごめんなさいね」
「ぶるる」
構わないと察しのいいエドは首を横に振った。
そのまま中に入り、リビングへつくと蒼太はドカッと勢いよく座り込んだ。
「あーー、疲れた。とりあえず適当にかけてくれ」
蒼太はソファに身を預けると小人族の長へと声をかける。
「あ、はい。失礼します」
あれだけのことを一人でやってのけ、更にはこれだけの大きな家を持っていることに長は恐縮し、緊張していた。
「はあ、魔力回復薬だけでも飲んでおくか……」
蒼太はカバンからそれを取り出しぐびぐびと飲んでいく。元々の魔力量が多い蒼太でも百人以上の人が休める程度の広さのものを作るとなると疲れが出てしまった。
「ふう、少し落ち着いた……それで、一体何があってこんなことになったのか聞かせてもらえるな?」
そう問われた長は、一度座り直すと大きく頷く。
「もちろんです。あれだけの支援をしていただいて、かつ領主様に話をつけて下さったのですからそれくらいお安い御用です!」
長は胸をたたいて言った。
「我々は以前ソータ殿が来た場所から集落を移動したんです。新しく居住を構えたそこも少し入りくんだ場所で、魔物も周囲にはおらず安心して暮らしていたんですが、やつらがやってきたんです」
やつら、それを聞くだけでどこの手のものがやってきたのか蒼太たちは予想がついていた。
「帝国のやつらか」
その言葉に長は頷く。
「お察しの通りです。うちの集落に別の集落の小人族もやってきて、情報だけは知っていたんですが、それでも油断してしまったんです。とても分かりづらい場所に集落を移動していたので、ここまではやってこないだろうって」
そこまで言うと顔を曇らせる。
「そこをまんまと襲われてしまいました。念のため襲われた際の準備は多少していたので、あれだけの人数を連れてこられました。結果、仲間を何人も失ってしまいましたが……」
とうとう長は下を向き、その口も止まってしまう。
「そうか……やっぱあいつらか」
蒼太は話を聞いて苛立っていた。小人族といえば自分の仲間の子孫であり、帝国のせいで集落をわけることになってしまった。それが千年経った今でも帝国のせいで苦しんでおり、一族が集まることができずにいる。グレヴィンから思いを託され、彼らを守ることを約束していただけに歯がゆい気持ちを隠せずにいた。
「やっぱり行かないと、だよなあ」
蒼太は帝国に行くことを避けていたが、今回のことは帝国行きの背中を押す一助になっていた。
「私は!」
急にディーナが大きな声を出したため、一同は驚いて視線をそちらへ向ける。
「私は行きたいです。兄さんを、勇者のみなさんを、ソータさんを苦しめた相手が何者なのか知りたいです!」
その目には涙が浮かんでいた。
「そうだよな、やられっぱなしってのは性に合わないからな……行くか! お前たちはどうする?」
蒼太はいつの間にか戻っていたレイラ、アトラ、古龍に尋ねた。
「行くよ! もちろん行く!!」
レイラは蒼太とディーナのことを慕っており、蒼太が苦しめられたと聞き、ディーナが悲痛な表情でそう訴えているのを見てはそれ以外の選択肢は浮かばなかった。
『当然私もついていこう。ソータ殿と獣魔契約しているし、なにより彼を苦しめた者であろうからな』
『ふむ、我も同行しよう。そもそも移動するのに我を頼るのであろう?』
アトラ、古龍もついていくという意思を示す。
「まあ、そのために装備も用意したわけだからな……あー、あと移動は馬車でいくぞ」
『はっ?』
蒼太が付け足した一言は自分のアイデンティティを奪われたようで、古龍は思わず間抜けな声をあげてしまった。
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