第二百六十二話
前回のあらすじを三行で
食事
追加注文するレイラ
ゴルドン「飯が必要なのか?」
急にゴルドンに声をかけられた蒼太は振り返るが、驚いていたため一瞬間があいた。
「……あ、あぁ、今、小人族が結構な人数トゥーラに逃げて来ていてな。明日には対応について領主から何かしら話があると思うんだが、今日のうちは俺のほうで休む場所を作ることになったんだ。ただ食事の用意ができなくてな、とりあえず果物を樽で置いてきたんだがさすがにそれだけで一晩過ごしてくれというのも無理があると思ってな」
ゴルドンは料理をテーブルに並べると腕を組んで考え込んでいる。
「その小人族は何人くらいいるんだ?」
質問されて蒼太はしばし考え込む。
「おおよそになるが、百から二百ってところか。一つの集落の全員がやってきたみたいだな、理由は聞いていないが集落を捨ててまで来たんだからよっぽどのことがあったんだろうな」
何が起こったのか予想はついていたが、蒼太はあえて濁した言い方をした。
「ふむ、なら俺が手伝おう。食堂のほうはとりあえず臨時休業にすれば問題はないだろう」
何をもって問題がないと判断しているのかわからず、蒼太たちは呆気にとられてしまう。
「もう、あなたったらみなさんびっくりしてるじゃない。すいません、本日は今のところ宿泊されるお客様が少ないので、そちらの夕食さえ何とかなれば、食堂自体は休みにしてソータさんを手伝っても大丈夫だと言いたいんです」
驚いている蒼太たちにミルファーナが笑顔でフォローをいれる。
「そういうことだ。どうすればいい?」
「どこに食事を持っていけばいいのか。それと、どういった場所で食事をされるのか。それを聞きたいようです。」
元々口数の少ない彼は、端的に質問するため他の人からはわかりづらい人と思われることが多かった。今回の言葉も同様で何についての質問をしているか、少々言葉足らずだったためミルファーナが彼の隣でフォローの言葉をいれる。
彼女は長い付き合いであるため、ゴルドンが言いたいことの真意をくみ取れていた。
「その言葉からそこまでよくわかるな……とりあえず北門の外に集まっているから、そこからそう離れない場所に宿泊スペースを作る。食べる場所は……どうだろうか、まあ座って食えるだろうとは思うぞ。そうそう、レイラをここに置いていくからできた料理はこいつのマジックバッグにいれて運ばせてもらっても構わない」
蒼太の言葉にレイラは立ち上がって敬礼する。
「はーい、ソータさんについていってもできることは少ないだろうから、荷物運びならお任せだよ!」
それを確認したゴルドンはそのまま何も言わずに厨房に戻っていった。
「ご、ごめんなさい。あの人ったらほんと不愛想で……とにかく引き受けた仕事はしっかりやる人なので、そこは安心して下さい」
何も言わずに戻っていってしまったので、ミルファーナのフォローが再度入った。
「ゴルドンの仕事っぷりについては信頼してるよ。俺もさっさと飯を食って行かないとな」
そういうと蒼太、ディーナ、レイラは食事に手を付け始めた。色々と話をしていたが、短時間であったため運ばれてきた食事を温かいまま食べることができた。
食事を終えた蒼太たちは街の入り口に向かっていた。
「あーやっと戻ってきた!」
その声は衛兵のものであった。
「ん? 何かあったか?」
「何かあったかじゃありませんよ! ずっとあなたを待っていたんです。領主様は何かおっしゃってましたか? ずっとあの場所にいてもらうのももう限界で、なんとかしてあげて下さい」
詰め寄る衛兵は自分たちの苦労をなんとかしてほしいのではなく、小人族の状況を改善してあげてほしいという気持ちが強かった。初めて見たときは数の多さに動揺していた彼も今では落ち着いたようで、今度は着の身着のまま来た小人族たちを心から心配している様子だった。
「悪かったな、領主には話をしてきたが結論は明日になるとのことだ」
「えー! それじゃあ、明日まであの場所にいてもらうんですか!?」
驚いて声をあげる衛兵を蒼太は手の動きで抑えるようジェスチャーする。
「そういうわけにもいかないだろ。だから、俺のほうで簡易的にだが休める場所を街の外に用意することになった。食事に関しては宿のシェフがなんとかしてくれるということだから、とりあえず俺は俺のやることをやりに来たというわけさ」
「おー、本当ですか……でも、どうやって?」
蒼太が助け舟を出してくれると聞いて一瞬喜んだが、あれだけの人数の休む施設をどうやって個人で用意するのか? その疑問が頭に浮かんでいた。
「まあ、それは見てのお楽しみだな。さて……どこにするか場所を決めないとか。街を少し出た場所で作業をすることになるが、その都度出入りのチェックはしたほうがいいか?」
「あー、そうですねえ……他の方はできればチェックをお願いします。あなた、ソータさんでしたね、は最初に一度だけチェックして頂ければ今回の作業中に限ってはチェックなしにしましょう」
少し頼りなさのある彼はそれでもこの場の責任者であり、自身の判断で蒼太に出入りの自由を保障する。
「それじゃあ、早速チェックを頼む。夜になる前には準備しておきたいからな」
蒼太に言われるとすぐに衛兵は準備をし、手早くチェックを行っていく。
「はい、大丈夫ですね。それではよろしくお願いします」
蒼太は衛兵に見送られて門から外に出ると、小人族のところへは向かわずに少し離れた平地に向かっていく。
「ここならいいか……街からは少し離れているし、建物も立てやすいな」
蒼太がぶつぶついいながら場所を決めている間、ディーナはアトラと古龍を伴って小人族にこれからの流れの説明に向かっていた。
そのため、蒼太は安心して作業に集中できる環境にいた。
「まずはっと」
地面に手を当てると、土の魔力を流し込み整地を始めていく。
ごごごという音と共に地面がならされていく。普通であれば時間がかかるが、蒼太はそれを持ちうる魔力で強引に速度をあげていた。その様子を小人族たちが遠巻きに眺め始める。
「次は……とりあえず壁を作るか。板も必要だな」
ある程度の広さが確保できたのを確認した蒼太は手についた土埃を軽く払うとその足で近くの森に木を集めに向かった。
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