第二百六十一話
前回のあらすじを三行で
領主に相談
結論は明日
それより先に飯
「ソータさん、ディーナさんいらっしゃいませ」
宿に入ると柔らかな笑顔のミルファーナが蒼太とディーナを迎えてくれた。
「お仲間のみなさんは先に来ていらっしゃいますよ。こちらです、どうぞ」
レイラたちは前回蒼太と一緒に来ていたため、ミルファーナはそれを覚えていた。彼女は一度来たお客の顔は覚えているという特技があったからだ。
「あぁ、悪いな……というかあいつらまだいたのか」
蒼太たちがレイラたちと別れてからある程度の時間が経過しているため、いまだに居座っていることに驚いていた。
「食事を終えたあとも、お茶飲んでゆっくりされているみたいです。今は空いている時間ですし。ゆっくりされていっていただいて大丈夫ですよ」
長時間いることを蒼太が懸念していることに気付いたミルファーナが笑顔でフォローをいれる。
「まいったな、顔に出ていたか?」
「ソータさんはポーカーフェイスのつもりでも、意外とわかりやすいですからねえ」
隣にいたディーナも蒼太の反応を面白そうに言う。
「そうか? まあ、それより腹減ったから行こう」
照れ隠しではなく、空腹に耐えかねた蒼太は足早にレイラたちがいるテーブルを目指した。
「あ、ソータさん! 遅かったね。そろそろ出ようかって話してたんだよー!」
蒼太たちを見つけたレイラの反応が大きかったため、蒼太は手で声を抑えるようジェスチャーした。
「この時間は少ないとはいえ他にもお客がいるんだから少し静かにしような。周りの迷惑というものを考えろ」
「ごめんなさーい」
蒼太は嘆息しながらレイラをたしなめる。レイラは舌を出して謝り、蒼太は周囲に軽く頭を下げたが、客たちはレイラのそれを元気で微笑ましいと思っていたため、笑顔で気にしないようにと対応してくれた。
「さて、とりあえず俺たちも何か頼もうか」
蒼太は腰かけるとメニューをディーナに渡す、がディーナは既に注文は決まっているようだった。
「私はいつものシェフのおすすめをお願いします」
「じゃあ、俺もそれを。あとは果実水を……三つ頼む」
他にも頼む人がいればと顔を向けるとディーナとレイラも挙手したため、三人分注文することにした。
「ご注文を確認します。シェフのおすすめが二点、果実水が三点でよろしいですか?」
「あぁ頼む」
注文を確認すると、ミルファーナは軽くお辞儀をして厨房へ伝えに向かった。
「ここの料理ってとっても美味しいよねえ。もう、毎日でも食べたいくらいだよ!」
蒼太たちが来る前に大量に食べていたレイラだったが、更に頼むつもりらしくディーナからメニューを受け取って頼むものを悩んでいる様子だった。
「レイラ……俺たちが来る前に何か食べたんじゃないのか?」
「ドキッ、や、やっぱり駄目かなあ?」
レイラはメニューで顔を半分隠しながらすがるような視線を蒼太に送る。
「はあ、まあ別にいいけどな。ただ食いすぎには注意しておけよ、あと毎日同じだけの量が食べられるなんてことも考えるなよ?」
「う、うぅ。はあい」
注意されて少し涙目になりつつも、その心のうちは注文の許可を得られたことに喜んでいた。
「それで、何を頼むんだ?」
「ソータさんたちとお揃いで、ゴルドンさんのおすすめを!」
レイラが注文するその声は、ホールに戻ってきていたミルファーナの耳に届いており、蒼太に目配せすると追加の注文を伝えに再び厨房に戻っていった。
「よかったな、すぐに追加注文通ったから俺たちとさほど変わらないくらいでくるぞ」
そう言われてレイラはぱっと目を輝かせて喜び、待ちきれないといわんばかりにそわそわしだした。
「よかったですね」
「うん!」
ディーナは喜びを素直に表すレイラを微笑ましく見ていた。
「さて、料理が来るまで領主の館に行っての結果を話しておくか。いきなり訪ねて、それじゃあ援助します。という答えはさすがにもらえなかったよ、結論は明日ってことになった」
『そうであろうのう。それでも一日で結論を出すのはかなり有能な領主だのう』
古龍は過去に人間社会の中にいたこともあるため、エルバスのことをそう称していた。
「あっているんだが、それをお前に言われるとなんか変な気分だな……」
蒼太は複雑な表情で古龍を見ていた。当の古龍はといえば、どこか自慢げな表情で蒼太を見返している。
「うーん、でもさ、どうするの? あの人たちは今も街の前で待ってるんだよね?」
レイラの疑問は最もであった、小人族の人数は多くいつまでもあの場所にあのまま待機させておくわにもいかなかった。天候が崩れることもあるかもしれない、街に寄り付くのを敬遠するものも出るかもしれない。そんな問題もあった。
「とりあえず、俺の方であいつらが一晩過ごせる場所を用意するつもりだ。少し大掛かりになるだろうからみんなも手伝ってくれると助かる」
どんな方法なのか聞く前だったが、蒼太だったらなんとかするのだろうとその言葉に反論するものはおらず、みんな首を縦に振っていた。
「それで、具体的にはどうするの? 手伝うのは構わないけど、あたしにもできることがあるといいなあ……」
レイラはここにきて何をやるのか聞かなければいけないことに気付く。
「そうだな、まずは街からそう離れていない場所に簡易的な宿泊場所を作るつもりだ。方法は……見てもらったほうが早いだろうから、あとにしてくれ。それを作る時に材料が必要になるだろうから、それの調達を頼むことになるかもしれない。それと、大人たちはいいとしても子供たちの中には飽きてしまう者もいるだろうから、そいつらの子守だな」
「ふーん、なんかすごいことをさらっと言われてるような気がするけど……でもそれならあたしにもできそうだから手伝うね!」
「食事はどうしましょうか? ソータさんが渡した果物だけでは足らないと思いますが……量的にも栄養的にも満足度的にも」
そのことに関して蒼太も考えていないわけではなかったが、ディーナの指摘に閉口してしまう。
「飯が必要なのか?」
悩む蒼太たちに声をかけてきたのは料理を運んできたゴルドンだった。
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