第二百五十三話
前回のあらすじを三行で
ナルアスの予想
食事
そして、旅立ち
入国の際と同じ手順でエルフの国を出立した一行は、これまた同様にひと気のない場所へ移動すると古龍の背中に乗って移動をしていく。
「まずは、ドワーフの国から行こう。あっちのほうが長く空けているからボグディとアリサはまずいだろ」
二人は何度も頷いていた。工房を弟子たちに任せてきたものの、どちらも予定していた期間を既に過ぎていたため、内心焦りを感じていた。
「お二人とも作業している間はあれほど落ち着いていたというのに、一体どうしたというのですか?」
作業を何度か覗き見した時の二人は集中しており、今になって慌てていることにディーナは疑問を投げかけた。
「いやあ、なんと言いますか……作っている間はよかったんですが、気づいてみたらいつのまにか時間が思ったより経っていたんですよね」
ボグディは頬を掻いて答える。
「あー、わたしもそんな感じかも。いつもより力入って作ってたら、時間のことなんて完全にどっか飛んでたのよね。あんなの久しぶりだったわね、それこそ彫金を覚えたての頃以来かも」
アリサもボグディと同様時間を忘れて作業に没頭していたとのことだった。
「全くお前らはガキじゃないんだから、ちゃんと弟子たちのことも考えておかないとダメだろ?」
「「お前が(あんたが)言うな!!」」
アントガルの偉そうな態度に二人から鋭いツッコミとしての攻撃が入った。
「いってー!」
叩かれた後頭部を押さえてアントガルはその場にうずくまり頭を抑えていた。
「今のはアントガルが悪い。お前のとこは弟子がいないだろ? 大勢の弟子を抱えていて、色々なところから仕事を請け負っている二人の工房とは色々と比べものにならないからな」
「ぐむむむ」
痛いところを突かれたアントガルは、唸るだけで言葉を返すことができなかった。
「それより、少しでも休んでおけよ? 戻ったら休む間もなく激務が待っているだろうからな」
蒼太に言われ、これから先に待ち受ける自分たちの苦難を思い浮かべた二人は、アントガルに構っている暇はないと眠りについた。
数日をかけてドワーフの国にたどり着くと蒼太は彼らにそれぞれ謝礼を渡し、別れの挨拶もそこそこに職人三人は急ぎ足でそれぞれの工房へと戻って行った。余裕を見せていたアントガルだったが、彼もいくつかの依頼の締切を延長してもらっていたため実のところあまり余裕はなかった。
「あいつらには悪いことをしたな。かなりの時間を拘束してしまったからなあ」
蒼太もこれほどの期間かかるとは思っていなかったため、謝礼金は多めに渡していた。
「でも、みなさん楽しそうでしたね。満足のいくものができたって感じでしたね、すごくいきいきした表情でしたから!」
ディーナの言葉通り、作業中の彼らの表情はいきいきとしていた。そして去り際に見えた横顔も皆すっきりとした様子でこれからの創作がますます楽しみになるようなものであった。
「そうよ、あれはきっとあの子たちにいい影響をもたらしたはずだからね。きっと今までにないものを作り出すはずさ」
「えぇ、一流の職人なのにみんなプライドに目を曇らせてなかったから、もっとずっと成長していくはず」
カレナの言葉にローリーも同意していた。
「そう、だよな。まあ、お互いにいい経験になったということでいいか」
蒼太は職人三人の成長の一端を担えたと聞いて、納得することにした。
「さて、そろそろ戻るか」
三人の背中が完全に見えなくなったところで、蒼太がみんなに声をかけた。
「おー!」
レイラは職人ではないため、今までの話についていけなかったがやっと戻れることに喜んでいた。
「おい、レイラ。あんまり安心するなよ? 多分だが、戻ったら忙しくなるからな……」
「えっ? は、はい」
遠くを見つめながら言う蒼太の言葉に驚きながら返事をする。何を指して言っているのかわかってはいなかったが、それでも蒼太の表情から何か感じ取るものがあったため、レイラも気を引き締めていた。
そのやりとりを見ていたディーナも、アトラもエドも厳しい表情になっていた。
『ふむ、まあ今からそんなに気合をいれても仕方ないのう。それでは、本番を疲れきった状態で向かえることになってしまうのう』
「だな、俺の言い方が悪かった。忙しくなるから、それまではゆったりしてよう」
蒼太の言葉にみんなはほっとした表情になった。
『では、行こうかのう』
古龍に促され、蒼太たちはドワーフの国を後にする。
それからの数日はあえてゆったりとした進行で、途中で訓練をしたりしながらの旅だった。
トゥーラの街に戻ると、カレナたちと別れ自宅で休息をとる蒼太たち。
リビングで雑談をしながらくつろいでいるとそこへ、来訪者があった。
「誰だ?」
「あ、私が出てきます」
ドアノッカーが断続的に数回鳴らされていたため、ディーナがそれを迎えにでる。
しばし玄関でやりとりがあり、ディーナはその来訪者を連れ立ってリビングへと戻ってきた。
「あ、あのお邪魔します」
そこにいたのはミルファだった。
「おー、ミルファか。久しぶりだな、何か用か?」
用事がないと来ちゃいけませんか? そんな言葉が蒼太の脳裏をよぎったが、そういった関係ではなかったと思いなおしそう質問する。
「はい。ギルドのほうに手紙が来たためそれをお届けに来ました」
彼女の手から蒼太に渡された手紙には見慣れない紋章が記されていた。
「これは?」
表にはソータの名前が書いてあったが、裏に差出人の名前は記されていなかった。そのことがより怪しさをかもし出していた。
「この紋章が記載されているということは帝国からの手紙ということになります。差出人の名前がないため、どなたが出したのかはわかりませんが、蝋のマークから見るにそれなりの地位にある方が差出人なのかと思われます」
この手紙は帝国から直接トゥーラのギルドあてに送られてきたため、ミルファにも差出人はわからなかった。
「ふーん、とりあえず開けてみるか」
蒼太は封を開けて、中に入っている手紙を取り出していく。
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