第二百四十八話
前回のあらすじを三行で
蒼太が求める装備のレベルの高さ
防具組はうまくいくか?
アクセサリ組の作業は進む
アントガルの作業は蒼太、ナルアスが加わったため進行速度があがっていた。蒼太とアントガルは途中に休憩はいれるものの、興が乗ってきていたため作業に没頭し、その結果各自の武器が次々にできあがってきていた。
また、アリサも速度はそれほど速くはないが順調に、確実に一つ一つを作り上げている。その精巧さにカレナは舌を巻いていた。
「なるほど、それはいいね!」
「でしょー、わかってるじゃない!」
最も心配されていた防具組だったが、ナルアスがボグディにローリーの性格についてのアドバイスをしてからは順調に進んでいた。ボグディがローリーの言葉を理解しようと努力し、それがうまく噛み砕けるようになった時が作業効率アップのスタートだった。
ディーナたちは時折要望の確認やサイズ合わせのために工房に来る以外は基本的に訓練に明け暮れていた。
「できたな……」
「あぁ……」
蒼太とアントガルは仲間の武器から作成していた。そして、今できあがったのは蒼太用の武器だった。
「これは……見事ですね」
ナルアスは武器は専門外だったがその武器の持つ力を感じ取っており、思わず見とれてしまっていた。
二人が最終的に選んだのは夜月と同様に日本刀だった。夜月の黒い刀身とは異なり、今度の武器は蒼太の名前と同じように青い刀身をしていた。試作として何本も作っていたがそのどれもが銀色の刀身で性能も仕上がりとしても納得するものではなかった。
しかし、二人が満足いくできだと胸を張って言えるこの刀のみが青色をしていた。
「うーん、なんで青なんだ?」
アントガルは刀身の色に首を傾げていた。彼は今まで数十、数百、ともすれば数千の武器を作ってきたが、青い刀身をしたものはこれが初めてだった。
「偶然、という言葉が一番相応しいだろうな。通常金属は青色になることはあまりないらしい、後付で染色した場合はもちろん除いてだが……だから、たまたま奇跡的にこの色になったと思うのが一番適していると思う」
アントガルは蒼太の説明を聞いて何かを理解したわけではなかったが、とりあえず納得することにした。
「まあ、色はいいとして銘はどうする? 最初に作ったその黒い刀が夜月だろ?」
じゃあ、その青い刀は? その質問を口にする前に蒼太はそっとその青い刀身を撫でてにやりと笑った。
「もう決めてある」
ナルアスとアントガルは続きを聞くため、身を乗り出していた。
「この刀の名前は……『蒼月』だ。俺の本来の名前から一字とっている。青と同じ意味を持つ字でな、そして夜月と対になる刀だから後半の月をつけてみた」
蒼太の言葉を聞いて、二人はなるほどと頷いていた。
「とりあえず武器はこれでひと段落ってところか」
蒼太は蒼月を刀として組み立てていきながらそう二人に向かって言うが、アントガルの表情はこれで終わりだと思っていないようだった。
「まだまだだ、だがこっからは俺一人でやらせてもらおう。そっちの完成品は持っていってくれてかまわないぞ」
アントガルはそう言うと別の作業に戻っていった。
「じゃあ、俺たちはこの武器たちに色々付与させていくか」
「わかりました」
サイズに合わせて変化する機能は既に組み込んでいたので、別の特殊効果をつけるために蒼太とナルアスは錬金術の工房へと仲間たちの武器を持って移動して行く。
防具組、アクセサリ組も蒼太が納得いくであろうレベルの装備を徐々に完成しつつあった。しかし、最初からそのランクを狙っていた彼らには及ばず、未だ作業は道半ばといった状況であった。
ボグディもアリサも蒼太たちが作業を終えて部屋を出て行ったのは気づいていたが、それでも焦りは感じていなかった。
「あっちは終わったのか……よし、こっちもがんばろう」
ボグディは彼は彼、自分は自分と考えており、それ以上は思うこともなく作業に戻る。
ボグディも基本的には竜鉄をベースとした防具を作成している。しかし、蒼太が前提条件として求めたのが動きやすさだったため、あくまでベースとしているだけであり、別の金属と複合させたり蒼太が用意した様々な素材を使うことで強度と動きやすさを両立させていた。
「へー、すごいねえ。まさかそんな方法で解決するとは思わなかったなあ」
ローリーは自分の担当部分を既に終えていたため、ボグディの技術を見て素直に感心していた。
「わりと単一の金属を使う人が多いんですけどね、複数を使う場合は上手く合わせないと反発したり、強度がさがったりするので難しいんですよ……アントガルが作ったカタナという武器も複数の金属を合わせてるみたいですけどね」
ボグディは説明しながら、最後には横目でアントガルのことを見ていた。
「悔しいけどやっぱりあいつは才能がありますよ。だからこそ考えすぎて、一時期スランプになってたみたいですけどね」
ボグディは自分には才能がないと思い込んでいる。その分、彼は色々な工房に弟子入りして理論を覚え、それを自己流にアレンジしているため、出来上がった作品はあくまで自分の才能ではなく誰かの模造品だと思い込んでいた。
「ボグディくんも才能あると思うよ」
ローリーの声のトーンが一段下がったため、ボグディは顔を勢いよく上げてその顔を見た。
「才能、あると思うよ?」
再度言い直した彼女のその顔はいつもの明るさはなく、何か確信しているかのような表情だった。
「な、なんでそんな」
驚いたボグディは何とかそう口にした。
「うーん、なんだろう。ここまでずっと作業を見てて、すごく緻密だと思った。もちろん防具作りは専門じゃないから的外れなことを言っているかもしれないけど、一つ失敗したら次のアイデアがすぐ出てそれをうまく組み込んで使っているように見えたよ」
真面目な表情のまま、ローリーは思ったことを素直に口にしていた。
「で、でも、それは色々な先輩が教えてくれたから……」
「それを自分流にアレンジしたのはボグディくんだよね? 多分同じことをアントガルくんやアリサちゃんにやれって言っても難しいと思うよ? それこそ、三人が別々の才能を持ってると思う」
ボグディの言葉に被せるように言った彼女の言葉は彼の胸を打った。はっと見開いたその目からは自然と涙がこぼれていた。
「な、なんで泣くの!?」
いつもならその行動で周囲を困らせるローリーが反対に困らされている。この光景は珍しいものだった。
「で、できて当然って、才能ないって、誰かの真似事って言われてきたから」
ボグディの父は厳格で、アントガルやアリサと彼を比べてもっと努力しろと叱責してきたため、彼は自分に自信を持つことができなかった。今まですごいと言われることはもちろんあったが、それは同業者からの言葉であり、どうせ父におびえて言っているキレイゴトだろうと思っていた。実際、その通りの者も確かにいた。
全く専門外であり、父のことも関係なく、しかし凄腕の技術者であるローリーの言葉は彼の心に強く響いていた。
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