第二百四十六話
前回のあらすじを三行で
蒼太からの素材提供
蒼太について話す
レイラを鍛えよう
「さて、じゃあ昨日の続きだ」
「お願いします!」
レイラは早めに休んだため、心身ともに充実した状態で今日の特訓に臨むことができていた。
「いい返事だ。それじゃあ、昨日言っていた次の技について話そう」
レイラはなぜか地面に正座したまま、わくわくと身体を揺すりながら聞いている。
「これは竜種と竜人族に伝わる魔法で、龍魔法というものだ。聞いたことあるか?」
「初めて聞きました!」
蒼太の質問にレイラは目を丸くして大きく首を横に振っていた。
「そうか、まああの場所にずっといたら使う必要もないだろうからな……とにかくそういうものがあるんだ。そして竜人族がこれを使う上での前提条件が竜化になる。島でディーナと戦った時や神殿で戦ったときはその片鱗が見えてきた程度だったが、今のレイラなら竜化した状態で戦うことも可能だろう」
その言葉にレイラは頬をやや赤くして大きく頷いていた。
「じゃあ、とりあえず俺が先に使って見せるからよく見てろよ、といっても何もないところに撃ったら被害が出るか……おーい古龍、今から龍魔法を使うから受け止めてくれるか?」
蒼太はディーナとアトラの模擬戦を眺めていた古龍に声をかけた。
『ふむ、人の身で龍魔法を使うとあっさりと言ってのけるところに驚愕を覚えるが……わかったのう』
古龍は蒼太の人を超越した能力に疑問を持ちつつも、こいつならやるんだろうと納得して元の姿に戻って魔法を受け止める姿勢を作る。
「レイラ、少し離れてろ」
指示通りにレイラは距離をとると、ディーナとアトラも模擬戦を一旦中止して側に集まってくる。
「何か始めるみたいですね」
『古龍殿があの姿になってソータ殿と対峙しているな』
二人は何を始めるのかわからないため、そう話しているとレイラがその答えを伝える。
「ソータさんが龍魔法を見せてくれるって!」
その言葉の意味を知らないレイラはただただ好奇心から嬉しそうに言うが、ディーナとアトラは驚いて口が開いていた。
龍魔法は竜種でも年齢を重ねたものしか使えず、竜人族では竜化を自在に操れるようになってからが使えるかどうかの勝負だといわれている。しかし蒼太はどう見ても竜種ではなく、もちろん竜化も使えない。
「いくぞー!」
それを使うのだというから、知っている者が驚くのは当然のことであった。
蒼太がすっと目を閉じて集中していく。あたりは静まりかえりその様子を皆が固唾をのんで見守っていた。
「ぐらあああああああああああ」
するとカッと目を見開いた後に人の声とは思えない咆哮が蒼太から聞こえると口からすさまじい勢いの龍力の塊が放たれ、真っすぐ古龍へと向かっていった。
『ぐむむむむおおお』
古龍は両手を前に出して障壁をはり蒼太の魔法を止めようとするが、その威力をなかなか押さえ込むことができずに声をあげていた。
「はぁはぁはぁ」
蒼太はこの一発を撃つだけで肩を大きく揺らすほど息がきれていた。少し姿勢を崩しながらも視線は古龍を向いてその結末を確認していた。
『こ、このおおおおおおお!』
その声とともに古龍は手に龍力を集中させて、蒼太の魔法をなんとか相殺させていく、がそれも時間がかかり完全に消えるまで数分を要した。
『ちょ、ちょっと本気すぎやしないかのう』
かなり力を出させられた古龍は、内心では押さえ込めたことに安堵していた。
「わ、悪いな。調整がきかないんだよ。本来なら俺に使える魔法じゃないのを加護があるからとレジナードの見よう見まねでやってみたんだが……思っていたよりかなりきついな」
蒼太は玉の汗を額に浮かべていた。疲労感だけでなく、身体への負担も大きいらしくその場に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
ディーナが近寄るが、蒼太は手をひらひらと振り大丈夫だとアピールした。
「今のがドラゴニックロアって龍魔法だ。俺が使えるのはこれくらいだな、ふう」
レイラも蒼太に近づいてくるが、古龍ですら止めるのに苦労したその威力に圧倒され、今も驚いたままであった。
「……す、すごい」
今までの彼女の攻撃手段はグニルによる攻撃、竜化することで更に強い威力の攻撃を繰り出すだけだったが、ディーナたちとの訓練で徐々にフェイントなども身につけつつある。
しかし、今の魔法を自分が使えたら戦略が広がる、彼女はそう考えていた。
「レイラは魔力の上限が低い。だから、戦闘の際にグニルに魔力を流すのにも限界があるだろ?」
蒼太の問いにレイラは無言で頷いた。大事なことを話している。そう感じ取った彼女は真剣な表情で聞いている。
「だがな、龍魔法ってのは魔力を使うんじゃないんだ。竜力というものを使う、それは竜種はもちろん竜人族なら誰しもが持っているものなんだ。そして、竜人族の場合は竜化した場合にその量が一気に高まりを見せる」
ごくりとレイラが唾を飲む。
「威力はさっき見てもらった通りだ、俺がなぜ使えるかは……まあいいとしよう。それよりもあれをレイラが使えればかなり戦術の幅が広がると思う。俺は竜力の扱いが下手だから、調整できずに全竜力を放つ形になってしまったが、竜化したレイラであればもっと細かい調整ができるようになる、はずだ」
それを聞いたレイラの目に火が灯ったのを蒼太とディーナは感じていた。
「使えるようになりたい! どうすればいいか教えて下さい!」
強くなれる、その可能性を強く感じたレイラはすぐにやり方を教えてほしいという欲が抑えきれないといった様子だった。
「まずは、竜化だな。今は短時間、それも切羽詰った時や気合が入った時だけ使えるようだが、それをいつでも自在に使えるようにするんだ。それができる頃には竜力のコントロールも自然と身についているはずだから、そこで竜魔法の使い方を教えよう」
「わかった!!」
そう言うとレイラは蒼太たちから少し距離をとって竜化の特訓を始めたが、大きな声を出しているだけでなかなか結果に結びついていないようだった。
「これは時間をかけたほうがいいな……」
「そうですね」
そんなレイラを見て二人がつぶやいた。
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