第二百四十二話
前回のあらすじを三行で
それぞれの紹介
名人は驕らない
作業開始!
試作していくにあたって大きな流れを考えるために、職人三人と錬金術師三人がリビングで打ち合わせを始めていく。同じような構図でトゥーラでも議論していたが、その時とは違いナルアスがいることで話はスムーズに進んでいた。
アレゼルとエルミアは歳が近いためすぐに打ち解けて、二人で料理の下ごしらえをしたり、知っている錬金術師の知識を語り合ったりしている。
一方の蒼太たち戦闘要員は外に出ていた。
サイズの確認などは打ち合わせがひと段落してから行うこととして、ディーナとレイラの申し出により特訓をしていた。特訓の内容は至ってシンプルで、蒼太VSディーナ・レイラの一対二の戦闘だった。ただし、蒼太は武器を装備せず女性陣はフル装備というハンデもオマケでついていた。
「そんなんじゃ俺にダメージは与えられないぞ」
レイラがグニルを使って近接攻撃を繰り出しながら迫っていき、遠距離からディーナが銀弓で攻撃をしていく。
どちらかが蒼太の隙を生み出して、どちらかが攻撃をあてる。そう考えていたが、銀弓程度では蒼太が展開している魔力障壁を崩せず、レイラの槍さばきでは蒼太の隙を生み出すことができなかった。
「こんのおおおおぉ!!」
レイラは訓練によって身につけつつある竜化を使い、グニルの魔力を込めて蒼太へと一撃を放つ。グニルの周囲に強力な魔力が纏われているため今までのような最小限の動きでの避け方では避けきることができず、蒼太は大きく避けることになる。
「使えてるじゃないか」
蒼太が感心してそう漏らしたところへ距離をとっていたはずのディーナがアンダインと水魔法で蒼太に迫っていた。
「お覚悟!」
レイラは自分に集中させるためわざと大声を出し自分の変化に注視させることでディーナの存在を隠し、その影からディーナが迫る。これは事前に二人が打ち合わせしていた作戦だった。
「すごいな」
蒼太は完全に意表を突かれて、そのままディーナの攻撃を受けてしまう。
「えっ!?」
と思ったディーナだったが、目の前の光景に驚きの声をあげてしまう。
蒼太の周囲の水球は全て蒸発していた。そして、手元にあるアンダインの水の魔力も全て霧散していた。
「作戦も方法もよかった」
蒼太は硬化させた手でアンダインを握ると振り上げる。
「きゃっ!」
ディーナはアンダインをしっかりと握っていた為、そのまま共に遠くに投げ飛ばされてしまった。
「ディーナさん!」
レイラは声をあげるとディーナへと視線を向けてしまう。
「それは悪手だろ」
その隙を逃す蒼太ではなかった。既にレイラの前に移動しており、その拳がレイラの腹部を狙っていた。
「しまっ!」
『た』を言わせずに蒼太の拳による一撃でレイラが崩れ落ちる。
「効かない!」
と思ったが、レイラの竜化は腹部にも及んでおりその防御力を上げていたため、蒼太の拳は固い壁にあたったかのような感触で止められてしまった。
今度こそ蒼太は完全に意表をつかれレイラの竜化した拳による一撃の直撃を受けてしまった。
「ぐっ、やるな」
蒼太のダメージは軽かったが予想外の攻撃だったため、態勢を崩されてしまっていた。
「まだです!」
ディーナは水の精霊を呼び出して自らの魔法の威力を底上げして、そこに風の魔力を込めて繰り出した。水の水圧と風の切り裂く力が蒼太に襲いかかっていく。
「ぐおおおお」
蒼太は急いで魔力障壁を張ろうとしたが、間に合わずにその直撃を受けてしまった。
「止めだ!」
魔法による攻撃を受けている蒼太の姿は見えなかったが、先ほどまで立っていた場所に向かってレイラは思い切りグニルを投擲する。
「あっ!」
それを見たディーナが思わず声をあげた。途中から本気になって二人とも最大の攻撃を放っていたが蒼太は何も武器を装備していないことを思いだしたため、さすがにグニルを投げるのは、止めをさそうとすることになりやりすぎなのでは? そう思ったからである。
「あっ!!」
ディーナのその声で正気を取り戻したレイラもやりすぎたのではないかと考え始めていた。
「ど、どうしよう。まずかったかな?」
「ソータさんのことだから、大丈夫だと思います……多分」
ディーナはレイラから目を逸らす。
「ちょ、ちょっと目逸らさないで下さいよ!」
二人がそんなやりとりをしている間、当の蒼太は既に魔法の中から出てグニルも回収していた。
『ソータ殿、今のを一体どうやって切り抜けたのだ?』
その蒼太にいち早く気づいていたアトラが質問を投げかける。
「結局のところディーナが使った魔法のベースは水だからな。ディーナとの近接戦の時に防いだ方法と同じだ、火魔法で蒸発させて俺と魔法の間にスペースを作ったんだ。それで余裕ができたとこに魔力障壁と同時に強固な土の壁を作って後方に距離をとる」
蒼太の答えにアトラは合点がいった。
『なるほど、その余裕があればレイラ殿の槍も掴み取ることができたというわけか』
「さすがにあれが油断しているところに直撃してたらさすがの俺もかなりのダメージを負っていたはずさ。あれだけ竜化を使いこなせるのであればかなりの戦力にはなりそうだな……途中のよそ見はいただけなかったがな」
褒めたと思ったが、蒼太は最後に問題点を口にしていた。アトラもあれはまずいと思っていたためそれに対する反論はしなかった。これがレイラの耳に入ってたら、笑顔のあとに肩をがっくりと落としていたであろう。
『そろそろ姿を見せたほうがいいのでは?』
「そうするか」
アトラに言われ蒼太は二人のもとへと近づいていった。
「あ、あれ? ソータさん?」
それに気づいたレイラが間の抜けた声で驚きを見せる。
「よかったあ。ソータさん無事だったんですね」
ディーナはほっと胸をなでおろす。
「まあな、それより俺にダメージを与えるなんてかなり成長したな。いいコンビネーションだったぞ」
蒼太に褒められた二人は頬を赤くして照れていた。
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