第二十三話
入ると、そこには広い部屋があり、様々な器具が設置されていた。
「さて、まずは材料を見せてもらおうか」
カレナに言われ、テーブルの上に素材を出す。
竜の涙をいれた小瓶、バジリスクの爪を一欠け、小瓶に入った聖水、そして癒しの木の葉を一束。
「これで足りるはずだが」
「……本当に揃えているとはねえ、やるじゃないか。しかも素材から見るに最近じゃ使われなくなったレシピのほうだね」
「使われなくなった? もしかして竜の肝を使う方が最新のレシピなのか?」
「ほう、そっちも知ってるのかい。そっちは肝の入手難易度が高いんだけどね、残りの素材が聖水とバジリスクの爪の二つだけで作ることが出来るのさ」
蒼太は怪訝な顔をする。
「元々の依頼が肝を持ってくることだったからな。それにしても肝が大変なら、涙を使って作った方が楽なんじゃないのか? 材料に癒しの木の葉が増えるだけだろ……あの木はエルフの国に大量にあったはずだ」
「その癒しの木が問題なのさ。2、300年前くらいだったかね、石熱病が大流行したため癒しの木の葉がどんどんとられていったのさ。竜の涙は一滴で大量だし、爪も少量で間に合う、聖水は作ることが出来る。でも葉だけは自然のものだからね」
「そんなことがあったのか……それで絶滅したのか」
カレナは首を横に振る。
「いや、絶滅はなんとか免れたんだけど、それに近いくらいに減少してしまってね。なんというか……エルフ族が外部への流出を制限するようになって流通量が極わずかになってしまったんだよ。手に入れるには高価になりすぎてしまったし、王族でもなかなか手に入れることが出来ない」
蒼太は得心がいったという表情で頷く。
「それで別のレシピが考案されたのか。肝を狙うほうが現実的とか、癒しの木の葉は相当レアなんだな」
「そうだねえ。使用枚数は管理されてる上に、国内で消費されるのがほとんどなのさ。石熱病以外にも使うものがあるからね。で、国外に出るのは一月に数枚でればいいほうなんだよ、困ったもんだ」
「いつ手に入るかわからない、手に入るかどうかも怪しい葉よりも、倒せば手に入る竜の肝か……ということは、俺は竜の涙を持ってることより、いやしの木の葉を持ってることがばれたほうがやばいな」
「……私としては持ってるのもそうだけど、貴重だってことを知らないとこも気になるよ。まあ聞かれたくないだろうから、聞かないけどね」
「そうしてくれると助かる。それで、俺が用意したのは使われなくなったレシピってほうの材料だが、そっちでも作れるか?」
「あったりまえさね! かれこれ500年は生きてるからね、使われなくなったといっても昔は私も作ったもんさ」
カレナは胸を張り、ドヤ顔で言う。
「それは心強いな……じゃあ、早速頼む。あんまり悠長にもやっていられない」
「まかせな、まずはいやしの木の葉をそっちの薬研を使ってすり潰しておくれ。私は別のほうから手をつけるよ」
その後もカレナの指示に従いながら、作業を進めていく。
それから作業は進み、夕方になりエルミアが二人の様子を見に来るのとほぼ同時に声があがる。
「「完成だ!!」」
蒼太は完成品を鑑定してみる。「石熱病特効薬」と表示されたことを確認し、再度表情が緩む。
「助かったよ、これでじいさんの孫とやらを助けられる」
「ふむ……思うんだけど、私がついていった方がいいだろうね。元々は肝を持ってく依頼だったといっただろ? それだと、薬を持っていったら依頼と違うことを責められるかもしれない。それに本当にその薬なのかも疑われるだろうさ」
「そうだな、俺もどう話すかは悩んでたんだ」
「私は錬金術士として、ここらじゃそこそこ名前が通ってるからね。領主とも会ったことがある」
「何から何まで悪いな、頼めるか?」
カレナは大きく頷く。
「それと、私からのアドバイスだが、エルバスには本当のことを言ったほうがいいだろうね。あいつも口は固いし、大事な孫のことだからこそ隠しごとはしないほうがきっと話はスムーズに進むはずさ」
「わかった、ついてきてもらうんだ。信頼の証としてその助言を受けよう」
「よし、それじゃ早速行こうか。着替えてくるからあんたも準備しときな」
そう言うとカレナは身支度をするため、奥の部屋へと入っていく。
蒼太も薬を鞄にいれ、テーブルの上を片付ける。
二人の準備が整うと、店の入り口でカレナはエルミアに声をかける。
「準備はいいね、じゃあ行くよ。エルミア、悪いが留守番頼むよ。領主の館に行ってくる」
「うん、わかったよ。気をつけて行って来てね」
エルミアはカレナにそういうと、蒼太に会釈をし送り出す。
外に出てみると、日は陰りあたりは徐々に暗くなってきていた。
領主の館は街を出て、西に少しいった所にある。
カレナの店も街の中では西に位置しているので、このまま歩いて向かうことにした。
★
領主の館前
領主の館は、館とは言うものの城に近いつくりをしている。
館の門の前にいた衛兵に蒼太は取り次ぎを頼む。
「すまない、領主に取り次いでもらいたい。依頼を受けた冒険者のソータだと言ってもらえばわかるはずだ」
「私は街の錬金術士のカレナリエンだよ、知ってるだろ? 今日はソータの連れで来たんだ。早くエルバスにとりついでおくれ」
衛兵は蒼太のことは事前に聞いており、近いうちに来る可能性があるといわれていた。
カレナもこの街では有名で、薬の調合において絶大な信頼を得ていたため衛兵は強い警戒感を持たずに、領主へと報告に向かう。
「わかりました、中で聞いてきますので少々お待ちを」
二人揃ってこの場を空けるわけにはいかないため、もう一人はそのまま門の前で待機する。
程なくして先ほどの衛兵が戻る。
「確認がとれました、応接室にお通しするよう言われたので、中へどうぞ」
衛兵の誘導に従い蒼太とカレナは中へと入る。
そこで待っていたメイドが引き継ぎ、二人を応接室へと案内する。
「いらっしゃいませ、領主様は応接室でお二人をお待ちしておりますので、私が案内をさせて頂きます」
そう言うとお辞儀をし、嫌味のない笑顔を見せる。
「あぁ、頼む」
応接室に入ると、大きなテーブルを挟んで奥のソファに領主エルバスが座っており、その後ろにはこの間もエルバスについてきた騎士ダンが立っていた。
エルバスは立ち上がり両手を広げて二人を迎えた。
「やあ、よく来てくれたね。二人ともそこにかけてくれ」
向かいのソファに座るよう促され、二人はそこへ腰掛ける。
「まさか、カレナまで一緒に来るとは思わんかったが、薬の調合はカレナに依頼しようと思ってたから手間がはぶけてよかったかな……それでソータ殿、依頼の品は取ってこれたのですかの?」
「それなんだが……」
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