第二百二十五話
前回のあらすじを三行で
レイラ秘密の修行
古龍の名前
次はドワーフ
「無事に出てこられたな。帰りはゴーレムが起動してなくてよかったよ」
「どうして動かなかったのかな?」
神殿の中は行きとは違って静寂に包まれており、一行は何事もなく真っすぐ来た道を戻ることができていた。
グレヴィンとしての意識はなくとも、防衛機構としては動くものではないか? そこまで考えたか否かはわからないがレイラがそう疑問を口にする。
「一つはグレヴィンが言っていたように魔力切れだろうな。グレヴィン自身の意識を保つためには、かなりの魔力を消費するんだと思う。一日二日では回復しないほどのな」
「へー、そっちに使い切っちゃったから動かないのかあ……ん? 一つはってことは、他にも理由あるの?」
蒼太の言葉にひっかかりを覚えたレイラが続けて質問していく。
「あぁ、おそらくだが起動するための手順とかスイッチになるものがあるんだと思う。例えばみんなが飛ばされたワープの罠とか、扉が開いたところから誰かが通過した瞬間とか」
蒼太の予想は正しく、ワープで飛ばされた先、もしくは正面から部屋へと進入した場合に防衛としてゴーレムが起動することになっている。また、蒼太は気づいてはいなかったが一度部屋に入ったものは一定期間起動対象から除外される仕組みになっていた。
「まあ、グレヴィンのことだから色々仕掛けがありそうだけどな」
この言葉もまた正解であり、グレヴィンの人格が出てくるのは蒼太が来た場合のみに限定されている。
「ですねえ、たまたま引っかからずに出てこられただけのような気もします」
『うむ、あんな感じだが色々と抜け目がない御仁だった』
ディーナとアトラはグレヴィンの性格から色々と勘ぐっていた。
「何にせよ、次に会いに来るとしたら色々が片付いてからだろうな……」
話をしている間に神殿の外に着いた蒼太は出てきたばかりの神殿を振り返り見て、そう呟いた。
『それで、ドワーフの国に行くんだったかのう? おおよその方向はわかっておるが、道案内は頼めるかのう?』
外に出たところで、既に本来の古龍の姿になっていた。
「あぁ、悪いな足代わりにして」
『構わん、さっきも言ったがお主らといるのは楽しいからのう』
そう言うと、みんなが乗りやすいように身体をかがめる。
全員が乗ったのを確認すると、古龍は大きく羽ばたき一気に空へと舞い上がる。
『とりあえずドワーフの国のほうへ飛ぶが近づいてからの細かい指示はお主らに任せるのう』
「わかった、近づいてきたら声をかけてくれ」
蒼太の返事を聞くと、古龍は飛行に集中していく。その速度は速すぎず一定で、乗っている蒼太たちへの影響は最小限に抑えられていた。
「わー、高ーい! 気持ちいー!」
今回で二度目となるが、レイラは一回目と同様に喜んでいた。
現在地はドワーフの国からかなり離れていたが、陸上移動と比較して古龍での飛行移動は格段に速く、数日で到着することができた。古龍自身は夜間の飛行も問題ないと考えていたが、上空はぐんと気温も下がってくるため地上へと降りて休憩をとりながらの移動であった。
「そろそろまた地上に降りてもらえるか?」
『うむ、了解した』
蒼太の指示に古龍は地上へと降りていく。
降り立った場所はドワーフの国まである程度距離のある場所であり、かつ周囲から見られないよう木が多い森の中心を選んだ。そこで馬車を取り出すとみんなで乗り込み、通常の旅人一行を装うことにする。レイラが希望したことで、御者役は彼女に任せることになった。
「エド、よろしくね!」
「ヒヒーン!」
レイラの言葉にエドが応える。基本的な操縦は蒼太に軽くレクチャーを受けており、あとはエドの実地指導に任せることになった。レイラは一番目に付く場所にいるため既にこの段階で偽装の腕輪を着用している。
馬車に乗り込んだ面々はこれからの話し合いをしていた。
「さすがにあのままドワーフの国に乗り付けたら大騒ぎになるからな。ここからは子竜サイズでいてくれ。アトラも頼むぞ……古龍もあとで獣魔登録したほうがいいかもしれないなあ、同意してくれればだが」
竜人族の集落のように限定された場所とは違い、一般の街に向かうにあたってはアトラのように獣魔登録をしておくことで余計なトラブルを避けられると蒼太は考えた。
『我は別に構わんよ。お主にこの身を供するのも悪くないと思ってるのでな。本気でやりあったら恐らく我が負けるだろうからのう』
最初の蒼太との戦闘やここまで同行した上で見た実力を踏まえて、古龍は力の差を感じ取ったゆえの言葉だった。恐らく、と付け足したのはせめてもの強者の矜持だった。
「じゃあ、どこかのギルドで登録をしとくか……ドワーフの国にもあるよな?」
「ありますよ。買い物の時に見かけました、トゥーラより一回り小さい建物でしたけど」
以前蒼太たちの作業中にディーナは一通りの場所を見て回っていたため、工房にこもっていることの多い職人ドワーフよりも街に詳しくなっていた。
「じゃあ、まずはそこに行って登録。その後にアントガルの工房だな」
「はい、着いたら私のほうで案内しますね」
ディーナは街を頭の中で浮かべ、最短ルートを模索し始めていた。
降り立った場所から街まで馬車で一日かからない距離であったため、街道に出ると何も問題は起こらずに順調な旅路を歩むことができた。そろそろ夕方になるかという頃にはドワーフの国にたどり着くことができた。
入国後、蒼太たち一行は真っすぐ冒険者ギルドへと向かう。そこでの手続きはトゥーラで行ったものと同様で、獣魔登録の作業自体はさほど時間がかからず終えることができた。問題があったといえば、古龍が登録用の鱗を一枚はがす際に大暴れしたことくらいであった。
「ふぅ、なんとか登録できたな……」
『ふぅふぅ、ひどいではないか! 我の鱗をはがすなど、極悪非道もいいところだのう!』
ギルドを出た後、珍しく古龍は怒りをあらわにした。最初は古龍も抵抗なくされるがままでいたが、蒼太が選んだ鱗の張り付きがよかったようで、はがす際に強烈な痛みを伴っていた。しかも一度で一気にべりっとはいかず何度か挑戦したため、その痛みを何回も味わうことになったことが余計にストレスとなり強い怒りを蒼太にぶつけていた。
「悪かった。なんかうまくいかなかったんだよなあ……慣れてなかったから許してくれると助かる」
『むぅ、まあこういうことはもうないと思うから許してやってもいいがのう……その代わり美味い物を食べさせてくれ』
古龍はここまで食べた蒼太やディーナが用意する食べ物に味をしめ、それで手を打とうと提案してくる。
「……なんかそれが最初から狙いだったような……まあいいか。それくらいだったら用意してやるよ」
蒼太の言葉に古龍はその場でくるくると回り喜びを身体で表していた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




