第二百二十四話
前回のあらすじを三行で
朝から作業
荷物整理の思い出
みんなで朝食
「……これで、終わりだ!!」
蒼太が大きな声で宣言して、そのまま仰向けに倒れるとディーナたちが近くにやってきた。
「お疲れ様です。これ、どうぞ」
蒼太が朝食を終えて作業を始めてからかなりの時間が経っており、迷宮の中からは確認できないが外は既に日が落ち始めていた。
「あぁ、ありがとう。うーん、気持ちいいな」
ディーナから冷たいタオルを渡された蒼太はそれで顔を拭いた。作業をしていく中で、徐々に頭に熱が集まっていたため、すーっとその熱が引いていく。
「よかった。あと、夕飯も用意してあるのであちらへどうぞ」
「もう、お腹ぺこぺこだよー」
レイラは疲れきった顔をしていた。途中で休憩を挟んではいたものの、丸一日模擬戦を行っていたため疲労困憊といった様子だった。
「なんだ? いやに疲れた顔だな。何かしてたのか?」
「ふっふーん、内緒だよー。ねー」
レイラは蒼太に成長した自分を見せたいと考え、みんなにも口止めをしていた。
『うむ、約束したからのう』
『ソータ殿すまない。レイラ殿と約束をしてしまったのだ……』
古龍はレイラに頷き、アトラは申しわけなさそうに蒼太に頭を下げた。
「そうか、まあ秘密にしたいなら深く聞くのはやめておこう。とりあえずメシにするぞ、昼を抜いてやってたからさすがに空腹だ」
蒼太は立ち上がって、ディーナが用意したテーブルへと移動していく。他の面々もそれについていくが、あっさりと引いた蒼太に対してレイラは不満に思っていた。
「ちぇっ、少しくらいは食いついてくれたっていいじゃない」
その呟きは誰の耳にも届かないくらいに小さい声で言ったつもりだったが、蒼太の耳には届いていた。
「何か知らんが楽しみにしてるよ」
立ち止まり振り返るとレイラへとそう言って、移動を始める。
「うん!!」
嬉しそうに頷いたレイラの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
夕食はバランスの取れたメニューで、その味も申し分なかった。食後のデザートを食べながら蒼太は今後の方針を話していく。
「とりあえず、ここのアイテムの整理は終わったから次に進もうと思う」
「次、ですか。どこか目標は決まってるんでしょうか?」
ディーナはこれまで集めた情報から繫がる手がかりは小人族、竜人族、そして宝玉から得たこの迷宮の情報で頭打ちだと考えていた。
「今まで俺がいった国をいくつか回ろうと考えている。移動に関しては古龍がこのままついてきてくれるなら時間はかからないだろうからな」
蒼太はそう言って視線を古龍に向ける。
『お主らが構わないのであれば、このまま同行しようかのう。お主ら、特にソータと一緒に行くと面白い目にあえそうだからのう。我がまさか吹き飛ばされるなどということがあるとは思いもしなかったしのう。かっかっか』
ゴーレム戦を思い出し、古龍は豪快に笑った。
「まあ、理由はどうあれついてきてくれるのは助かるよ。ところで、いつまでも古龍と呼ぶのもなんだから名前で呼んでも構わないか?」
蒼太は以前の古龍との戦いで鑑定を使い名前を確認していたことを思い出す。
「そうですね。せっかく一緒に旅をするんですから、ちゃんと名前で呼びたいです」
『名前、名前のう。一応あるにはあるが、というかソータは知っておるだろうが……昔きまぐれにつけられた名前なのでな』
古龍は自分の名前を気に入っていない様子で、その名を口にすることを逡巡する。
「まあ、嫌なら今まで通り古龍と呼ばせてもらおう」
『うーむ……それなら新しく名前をつけてくれんかのう?』
古龍の思ってもみない提案に蒼太は面をくらってしまう。
「いいね! ソータさんつけてあげてよ!」
レイラはノリノリだった。
「うん、いいかもしれないですね」
ディーナも賛同する。
『ふむ、私もグレゴール殿につけてもらった。パーティリーダーだから古龍殿の名前をソータ殿がつけるのは道理だな』
アトラも深く頷き賛同する。
「ヒヒーン!」
自分も蒼太に名づけられたため、仲間が増えると喜んでいた。
「……そうみんなに言われたらつけるしかないだろ。はぁ、あんまり期待するなよ?」
そう言うが、みんなは期待の眼差しで蒼太をみていた。
「そうだな……といってもすぐに浮かぶものでもないから、少し時間をくれ」
みんなが落胆する様子が見られたが、これからしばらく、少なくとも同行する間はずっと呼ぶ名前と考えると即興でつけることは難しかった。
『まあ急ぐものでもないからのう。ゆっくりと決めてくれ、それまでは今までと同じで頼むのう』
当の古龍自身はさほど気にしている様子はなく、時間をかけて決めてくれることに好感を持っていた。
「まあ、名前の件は置いておくとして……俺たちの今後の指針だな。まずはドワーフの国に向かおうと思っている。あそこにはアントガルという俺の知り合いのドワーフの鍛冶師がいる。そこで、みんなの装備を新調しようと思う。今度はエドの装備もそろえないとな」
「ヒヒーン!!」
暗にエドにも戦ってもらうと言っている蒼太だったが、エドの鳴き声には迷いがなく首を大きく縦に振っていた。
「俺は自分専用の武器を用意したし、ディーナにもアンダインと銀弓が、レイラにもグニルがあるんだが……防具の面で不安が残るからその点を改善したい。ダメージを受けなければいいんだが、今後はかなり手ごわい敵とあたりそうだからな」
帝国のフードの男と鎧の男を思い出して話す。
「確かに……一緒に戦っている時であればフォローしあえますが、分断された場合も考えるとその方がいいですね」
ディーナはアントガルの腕前を知っているため、その提案に異論がないようだった。
「うん、あたしももっと強くなれるなら反対しないよ!」
レイラも快く賛成し、アトラ、古龍、エドは蒼太の視線を受けると頷いて肯定を返した。
「よし、まずはドワーフの国に……の前に迷宮からの脱出が先だな」
この迷宮には脱出装置が見当たらなかったため、一行は元来た道を戻って行った。
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