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再召喚された勇者は一般人として生きていく?  作者: かたなかじ
再召喚された勇者は一般人として生きていく?

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第百四十一話

前回のあらすじを三行で


魔力込め

最終作業

美しい

 蒼太は自分専用の道具を取り出し鳳木を二つに割り、刀に合うように削りだしていく。その様は職人のそれであり、すっかり魅入ってしまったアントガルとディーナは声をかけられなくなる。

「……とりあえずアントガルさんだけでも、食事を召し上がって下さい」

「いや、だがあいつは」

「いいんです、集中したソータさんには何も届きませんよ。アントガルさんも疲れているんですから、先に食べちゃってください」

 アントガルはこれまで一緒に作業をしていた蒼太を気にして残ろうとするが、ディーナが背中を押していく。

「お、おい押すな。わかったから」

 思いのほか力強いディーナに抵抗できずにそのままダイニングへと押されていった。


 残された蒼太はそのことに気づくことなく、鞘を削り続けていた。鳳木という名称だが実際の木とは違い硬度が高く、通常の工具では削りだしが難しかったが、蒼太の工具はそういう素材を扱うように作られていた。更にはその道具を魔力で強化しており、鳳木の硬度にも負けずに作業が手早く行えていた。

 ある程度削ると、刀と合わせて掘りや角度を調整していく。それを繰り返すことで、鞘は徐々に形を成していく。

「いい感じだな。これで、あとは接着にはこれを使うか……」

 接着には、樹液に薬を混ぜ粘度と接着力を高めた特製の接着剤を使っていく。二つに分かれた鳳木をあわせ、しっかりと縛り固定していく。

「とりあえずは乾くの待ちだ」

 蒼太は作業がひと段落したため、気を抜いて辺りを見渡すと誰もいないことにここで初めて気づいた。


「あれ? 二人は飯にでも行ったか?」

 自分が集中して周りが見えなくなっていたことに気づき、頭を掻き立ち上がろうとする。そこへ作業場の音の変化に気づいたディーナがすぐにやってきた。

「あ、休憩できます? アントガルさんは先に食事をしてもらってますが」

 ディーナの予想通り蒼太の作業は終わっていたため、休憩へと誘う。

「あぁ、さすがに腹が減った。俺の分もすぐに用意できるか?」

「もちろんです!」

 ディーナは蒼太の質問にややくい気味で答えた。その様子がおかしくなり、気が緩んだ蒼太は笑った。


「ははっ。よし、それじゃ食事にしよう!」

「はい、すぐ準備するので手を洗って食卓に行っていてください」

 ディーナは蒼太に笑われたことも気にせずに、さっそくキッチンへと向かう。

 蒼太はディーナの言葉通りに裏で手を洗い、さらに魔法で綺麗にしてからダイニングへと向かう。


 部屋へ入ると、アントガルは食事を終えて食休みをしているところだった。ディーナは自分の前にある食事に一切手をつけておらず、蒼太のことを待っていた。現在の時間はすでに昼を過ぎておやつの時間も過ぎ、そろそろ夕食の準備をする時間帯だった。

「ん? ディーナもまだ食べていなかったのか?」

「ちょっと食欲なかったもので、でもせっかくなのでソータさんと一緒に少し食べようかと思って」

「そうか、じゃあ食べようか」

 ディーナの言葉は明らかに嘘だとわかっていたが、蒼太はあえてそれを口にはせずに席についた。


「それでは……」

「「いただきます」」

 二人が食べ始めた頃にアントガルの腹は落ち着いたようで、蒼太へ話を振ってきた。

「それで、作業はどこまで進んだんだ?」

「鞘の作りのほうはできた今は接着中、後は表面の仕上げだけだな。刀の鍔は昔に作ったものの中から選べばいいから、それ以外だと柄くらいか」

 作業のはやさにアントガルは感心する。

「早いな、俺だったら数倍の時間がかかりそうだ。あんたに任せて正解だったな……俺は休ませてもらっても大丈夫か?」

 アントガルは残りの工程を考えて、自分の作業はないと判断していた。


「もちろんだ、仕上げは俺の手でやっておく。多分今日中には完成するはずだ」

「あぁ、完成したら起こしてくれ。俺が手がけたものだから完成形は見ておきたい」

 アントガルは既に眠そうな顔をしており、それだけ言うと返事を待たずに寝室へと向かった。そのころには蒼太たちも食事を終えており、一息つけるころだった。

「ソータさん、作業してるの近くで見ていてもいいですか?」

 ディーナは食事が終わってすぐ席を立って、彼らが話し終わるまでとやっていた洗い物を途中で切り上げ、蒼太へと見学の確認をする。

「ん、あぁ別に構わないが……面白いものでもないぞ?」

 蒼太はこれから行う作業工程を思い浮かべなら、反対にディーナへと問いかけた。


「面白いです! 昔からソータさんや長老さんやラウゴさんの作業見てるの好きだったので!」

 ディーナは蒼太の言葉に真っ向から反する言葉を選ぶ。蒼太にとっては作業であっても、自分にできないことをやっているのを見ることはディーナにとっては新鮮に映るため、いつも楽しみにしていた。

「わ、わかった。あとはそこまで大きな作業はないから、別に構わないぞ」

「じゃあ、急いで洗い物してきますね」

 蒼太の言質をとれたディーナは急いでキッチンへ戻り、洗い物の続きにとりかかった。


「……まぁいいか」

 蒼太はその背中を見送ったあと、一人で作業場へと向かった。

 接着していた鞘を手に取ると既に乾いており、さっそく蒼太は外観の仕上げ作業へと入る。おおよその形にはなっているため、やすりがけから始めていく。やすりも市販されているような通常の物では鳳木を削ることができないため、蒼太とラウゴが作成したオリジナルのものを使っている。

 その作業は無言で行われていく。そこへ洗い物を終えたディーナがやってくるが、蒼太の視界に入らないような場所へ自分の場所を作り、そこへと腰掛ける。もちろん、ディーナは声を発することなく蒼太の作業をそっと見守っている。


 蒼太は黙々とやすりがけを行っていくが、気配からディーナが来ていることには気づいていた。

「そうだ……ディーナ、どれがいいか見ておいてくれ」

 ふと、蒼太は作業の手を止めると、亜空庫から取り出した袋をディーナへと渡す。

「これは……?」

「この刀に使う鍔だ。昔に俺が作ったものなんだが、どれがいいか選んでおいてくれると助かる」

 それは蒼太がいつか刀を完成させることができたら使おうと、昔の旅の途中に作り溜めておいたもので、数も一つや二つではなかった。


「これは、責任重大ですね……わかりました、一番合うものを選びます!」

 蒼太に任された指令をこなそうと、ディーナはそれをテーブルの上へと順番に並べていく。

「あぁ、頼む。俺はこの地味な作業を続けていく」

 真剣な表情で選ぶディーナの様子を見て笑みを浮かべながら、蒼太は再び鞘のやすりがけに戻った。

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