第百三十三話
前回のあらすじを三行で
馬で戻れた、衛兵有能!
色々準備中
ディーナのメシは美味い!
蒼太は工房で作業を進めるアントガルの様子を見に行ったが、アントガルは作業に集中しており、蒼太に気づく様子はなかった。声をかけようと思ったが、その背中が職人のそれになっており邪魔をすることが憚られたためリビングへと戻ることにした。
「あれ、ソータさん。工房に行ったんじゃなかったんですか?」
「いや、そのつもりだったんだが……アントガルが思った以上に真剣でな、邪魔にならないようそっと戻ってきた」
蒼太は苦笑いでそう言った。先ほどアントガルを見て、昔、ラウゴが真剣に作業をしていた時に声をかけて怒鳴られたことを思い出していた。
「あー、それは正解ですね。職人さんの邪魔をしたら……怖いことになります」
ディーナの言葉にも実感が篭っていた。千年前にディーナは蒼太が再びエルフの国に来てくれたことが嬉しくて、作業中に乱入したことがあるが蒼太たち一同の非難を受けた記憶があった。そのことを思い出したディーナは蒼太のことをジト目で見ていた。
「ん? どうかしたか?」
蒼太は自分が怒られたことは覚えていたが、ディーナのことを怒ったことは覚えていなかった。
「いいえ、別に何でもありませんよー」
「そうか」
何かあるのは確かな反応だったが、追及するとそれこそ虎の尾を踏みかねないため、蒼太はそこで話を打ち切る。
「さて、俺たちは明日に向けて寝るか。宿に戻ろう、明日には準備が整っているだろう」
「そうですね」
ディーナは蒼太の提案に賛同する。そして、二人はアントガルの邪魔にならないようにそっと工房を出て宿へと戻っていく。念のためテーブルの上にはアントガル宛のメッセージを残しておいた。
翌昼前
二人がアントガルの工房へと入ると、作業場の方から豪快ないびきが聞こえてきた。そこには、金属の山に頭を突っ込んだまま大いびきをかいて寝ているアントガルの姿があった。
「ぐおおおおおぉぉ」
その音はまるで地の底から何かが唸り声を上げているようであり、この周囲一帯からは鳥たちが何事かと逃げ出していた。
「おい」
蒼太が声をかけるが、アントガルのいびきは収まることがない。
「ぐおおおおお、んがっ。ぐおおおおおお」
「おい、起きろ!」
乱暴に身体を揺らしてみるが一向に起きる気配はない。身体を揺らされたことで、金属の山がゆれガチャガチャと音をたてる。顔に食い込んでいるように見えるが、余程眠いのか痛みは感じていないようだった。
「いい加減、起きろーーーー!!」
蒼太は耳元で大声を出しながら、軽度ではあったが威圧をアントガルへと放った。
「わわわ、な、なんだ!! 何があった!?」
威圧を感じ取ったアントガルは慌てて飛び起きると、混乱のまま作業場の中を走り回っていた。
「おい、落ち着け!」
自分の近くまで戻ってきた際に、蒼太はアントガルの肩を掴んでその場へ留まらせる。
「えっ、おっ、おぉ……あんたか。さっきなんかでかい音がしたんだ!」
アントガルは未だ混乱の最中にあり、蒼太の顔を見ても落ち着く様子は見られなかった。
「だから、落ち着け。その音は俺の声だ、お前を起こすために大声を出しただけだ」
自分が悪いということは棚にあげ、アントガルへ落ち着くよう促した。
「あ、あぁ、あんたの声だったのか。いや、なんかそれだけじゃなかった気がするが……」
アントガルは蒼太の威圧を感じ取っていたが、それが具体的に何なのかはわからずにいた。
「気のせいじゃないか? それより金属の準備はできてるみたいだな?」
さっきまでアントガルが頭を突っ込んでいた山を指差しながら蒼太は確認する。
「おう、遅くまでがんばったからな。とりあえず竜鉄の準備は終わってるし、他の金属もいくつか用意はしてみた」
そう言うと、箱の中に入った金属を蒼太に見せる。
その中には、ミスリルや鉄や銅などのインゴットが入っていた。
「ふむ、俺のほうでもいくつか金属を持っているからそれも出そう」
蒼太はマジックバッグからいくつかの金属を取り出していく。それを空いたスペースに置いていくが、その種類にアントガルは目を丸くしている。
「こ、これは」
アントガルの驚きをよそに、蒼太は次々に金属を出していく。
「ふぅ、こんなものか。これくらいあれば何か役にたつかな?」
それらは、アントガルが用意した金属の量を遥かに越える量だった。
「役にたつどころの騒ぎじゃないぞ! こんな金属ここらの工房でもなかなか扱えないぞ。これがあれば……」
アントガルは興奮した様子で、金属を手にとっていく。
「そんなにいいものなのか。結構普通に手に入ったものがほとんどだった気がするが」
それらは時代の変化によって、埋蔵量が減少し今では手に入りづらいものだったり、埋蔵量があっても国に管理されている金属などもあった。
「これを普通に……ほんとあんた何者なんだ? って千年前の勇者様だったか。なんとなく信じてたけど、これを見せられたらより一層真実味が増してくるな」
蒼太が出したものは、千年前の人間だということを信じさせるだけのリアリティがあった。
「そんなことより、これがあれば俺の刀は創れそうか?」
「もちろんだ! あんたから聞いた話を総合すると、刀は複数の金属を使って作るものだ。一つは竜鉄で決定だが、他の金属はこの中から選び放題っていうのは強みだからな」
もちろん、組合せによっては武器にならないようなものが出来上がるが、そこはアントガルの経験によってある程度ふるいにかけることができる。そのあとはトライ&エラーで最もマッチする一つを探す。
「竜鉄にしたってまだまだ鉱石があるから、全てのパターンを試したとしてもおつりがくるくらいだろう」
アントガルの顔からは既に眠気は消えていた。大声で起こされたことも既に頭の中から消え去っている。
「よし、それじゃ早速始めるか!」
蒼太もアントガルにつられたのか、気分の高揚を感じておりいつも以上に気合が入っていた。
ディーナはそんな二人を少し離れたところで笑顔で見ていたが、自分の役目を果たすためにキッチンへと篭ることにした。
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