第百三十話
前回のあらすじを三行で
待ち受ける将軍たち
俺を倒せたらな
検問所の一室を借りる
部屋の中にはカチャカチャと手入れの音と、アントガルの寝息だけが聞こえていた。
アントガルが目覚めるまでの間、蒼太とディーナは部屋の空いたスペースに毛皮を敷いて座り込みそれぞれの武器の手入れをしている。衛兵は休憩小屋を蒼太たちに開放し好きに使っていいと言ってくれていたため、二人はその言葉に甘えることにした。
ベッドで眠りについているアントガルは未だ目覚める様子はない。竜との戦いで負った傷も完全には癒えておらず、その状態であれだけの量の鉱石を一人で採掘したため、身体への負担は大きかった。
普段この検問所へ来る者はほとんどいないため、小屋へと聞こえる音もほとんどなく静まり返っていたがその静寂を破る声が突如として聞こえる。大声で揉めているようであり、その声は徐々に小屋へと近づいていた。
「何か騒がしくなってきましたね」
「あぁ……」
蒼太は徐々に近づく声の主に心当たりがあり、扉を睨みつけていた。そして、その扉が大きな音とともに勢い良く開かれる。その音でもアントガルは目覚めることはなかった。
扉を開いた先にいたのは、ディーナと手合わせをした将軍であった。
「むむ、ここにおったか。そこのお主、表へ出るがよい!」
将軍の視線は蒼太に送られている。
当の蒼太は将軍を一瞥したが、すぐに無言で武器の手入れに戻った。
「聞こえなかったのか? 外へ出ろと言っている!!」
「でかい声を出すな、聞こえている。俺も相当だが、あんたも大概礼儀がなっていないな。寝ている者がいる、その状況で大声をだす。そしてここに来るなり理由も何も言わずに表へ出ろとは一体どういう了見だ?」
蒼太は怒りを隠さずに、将軍を睨みつけている。ディーナもアントガルが寝ているここで大声を出されたことに苛立っており不快だという視線を送っていた。
「む、むぅ。すまん、気ばかり急いてしまって配慮がなっていなかったな。申し訳なかった」
将軍は蒼太の指摘に素直に頭を下げる。
「そういう態度なら、こっちだて聞く耳くらいは持とう。それで一体どういうことなんだ?
立ち上がると、蒼太は将軍の近くへと歩み寄る。
「う、うむ。先程洞窟の前でお主が言ったことを実践しようと思って来た。話を聞きたければお主を倒せ、そう言ったじゃろ?」
そう言われたが、忘れてしまっているらしく。蒼太は頭を掻いていた。
「ま、まさか忘れてしまったというのか? わしにあれだけの啖呵をきったというのに」
「言った、かもしれないな。あの時は疲れてイライラしてたから、反射で思わず言ってしまった可能性はある」
蒼太の言葉に将軍はぽかんとしてしまう。
「な、何と、疲れているところにすまんかったな。しかし、これではわしの矛先をどこにもっていったらいいのやら……」
将軍は困惑の表情になってしまう。お付きの騎士たちは、将軍とは異なり怒りの表情で蒼太を見ていた。
「将軍、構いません。この男、一度痛い目にあってもらいましょう」
「そうです、こんな男将軍の手を煩わせるまでもありません。我々で対処しましょう」
二人の騎士は困り顔の将軍の前に一歩踏み出すと、蒼太に向かって挑発的な視線を送る。
「反射で、と言ったが貴様も男だ。一度言った言葉を撤回するなどということはするまいな。私が貴様を倒せたら話を聞かせてもらおう」
その内の一人が蒼太を倒す、そう言った瞬間、ディーナの肩がピクリと動いたが、それに気づいたのは蒼太だけだった。騎士たちはというと気分が高揚しており、自分の言葉に疑問を持っておらず、蒼太が相手をするのが当然だと思っている様子だった。
「はぁ、やらないと収まらないみたいだな……わかった。外にでろ、相手をしてやる」
蒼太は肩を落としながら仕方ないといった様子で外へとでる。そこでは、先ほど蒼太たちに丁寧に対応してくれた検問所の衛兵が申し訳なさそうな顔で待っていた。
「すいません、止めたんですが聞いてもらえませんでした……」
「気にするな。昔も今もこういう輩はどこにでもいるもんだ」
すれ違いざまに大丈夫だと衛兵の肩を軽く叩くと、そのまま広場の中央まで行き、振り向いた。
「さて、このへんでいいか。さっさとかかってこい」
蒼太は竜斬剣を鞘に納めたまま二人の騎士へ言った。
「貴様、我々を愚弄しているのか? 剣を抜け!」
騎士の一人は既に抜剣しており、無手でいる蒼太を怒鳴りつける。
「そっちこそふざけているのか? 二人同時にかかってこい。それでも決着はすぐにつくだろうがな」
「貴様!!」
抜剣している男が蒼太に飛びかかろうとするが、それをもう一人が止める。
「まぁ待て。せっかくこう言ってくれてるんだ、お言葉に甘えようじゃないか。二人でやろう、この男に思い知らせてやればいい。勇気と無謀を履き違えているということをな」
蒼太はそのやりとりに思わずため息をつく。
「はぁ、ぐだぐだ言ってないで早くかかってこい。日が暮れてしまうぞ」
それが開始の合図になった。二人の騎士はそれぞれ片手剣の使い手であり、将軍のお供をするだけの実力は持っている。
「くらえええええぇ!」
「覚悟おおおおおぉぉ!」
その動きは素早く、並みの剣士であれば太刀打ちできなかったかもしれない。
蒼太はその二人に向かって歩を進め、剣による攻撃を避けるとそのまま二人の間を通り抜けていた。
その結果に対して、騎士二人はわけもわからずに振り返る。そこには二人の腹に向かって拳を振りかぶっている蒼太の姿があり、次の瞬間には騎士たちはその場に倒れこんでしまった。
それを見ていたディーナは当然の結果だと頷いていたが、衛兵と将軍は目の前で繰り広げられた一方的というにはあまりにも一瞬のできごとに目を丸くし、驚いていた。
騎士たちが気絶していると判断した蒼太は将軍へと振り返る。
「それで、将軍さんも俺と戦うのか?」
蒼太の言葉に将軍は顔を青くしながら大きく首を横に振った。
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