第百十八話
前回のあらすじを三行で
折れた剣で人形を斬る
さらにそれを……
城には一人でいってこよう
翌日、約束の時間に合わせて蒼太とディーナはアントガルの工房へと向かった。昼食を途中で摂ってから行ったため、少し昼を過ぎたくらいだったが、工房につくとちょうどアントガルが入ろうとしていた。
「お、あんたたちか。丁度いいタイミングで来たな。俺も城から戻ってきたところだ」
「それはよかった。それで、許可は降りたのか?」
「あぁ、何とかな。ただ、いくつか条件を出された……それについては中で話そうか」
蒼太の質問にアントガルは頷いたが、表情は険しかった。アントガルの反応に蒼太とディーナは顔を見合わせたが、アントガルは先に入って行くので、遅れまいとついて行った。
リビングへ行き席に着くと、アントガルは昨日と同様紅茶を用意してくれた。
「ふぅ、少し落ち着いた」
アントガルは紅茶を一口飲むと、伸びをしてソファへともたれかかった。
「疲れたみたいだな。城での手続きで揉めたのか?」
蒼太の質問にアントガルは首を傾げながら曖昧に頷いた。
「揉めた、と言う程ではないが何かあったのはその通りだ。順を追って話そう」
アントガルはそう言ってからもう一口紅茶を口に含む。
「まず、俺は王城の鉱山受付窓口へと向かった。そこで、件の鉱山への入山許可の申請をだした。何人でどこまで行くのか聞かれたが、俺を合わせて三人でいけるところまで、そう答えた」
蒼太は頷き、先を促した。
「通常だとこれで許可が降りて、入山料を払って通行許可証をもらう。そういう流れなんだが、その、王様に呼ばれてな……」
蒼太とディーナは目を細めてアントガルのことを見ていた。
「い、いや、俺だってびっくりしたんだ。まさか、入山申請程度で謁見することになるなんて……俺が申請に行った時点で、上の方に話が行ってたらしい。申請の時に出した鍛冶師免許でばれたみたいだ」
アントガルは自分には非がないと慌てて弁解をしようとする。
「それで、王様には何て言われたんですか?」
今度はディーナが話の続きを聞くために質問した。
「あ、あぁ。俺がやる気になったことを喜んでくれていた、一応勇者の子孫だから気にかけてくれていたらしい。それから、やはり同行者についての質問が出た。実力は確かなのか? 信頼できる人物なのか? 一体どこの誰なのか? 次々に質問された」
アントガルは、謁見を思い出してげんなりとした表情になっている。
「そこで何か言ったのか?」
蒼太の視線は厳しいままでアントガルのことを見ていた。
「い、いや、俺が言ったのはあたり触りのない情報だけだぞ。人族とエルフ族の冒険者で、武器の扱いを見せてもらったが十分な実力があると判断した。話してみて信頼できると判断したし、報酬は俺の創る武器だから、裏はないはずだってな」
最初は慌てていたアントガルだったが、自分が話したことに自信があったため徐々に落ち着きを見せていた。
「まぁ、問題のない言い方だな。嘘はついていないし、それでいて俺たちのことはあまり話さずに済んでいる」
「でも、それならどこが問題なんでしょうか? 何かあったというのが謁見のことなら、問題はなさそうですよね」
蒼太はアントガルの答えに頷き、ディーナは質問を返した。
「あー、鉱山に行く前に城に寄って欲しいと言われたんだ。そこで同行者の実力を確かめたいって」
蒼太の眉がピクリと上がった。
「だ、大丈夫だ。それは断った。だが、入山の際に入り口であんたたちの力を計るために城から騎士が派遣されるってことになってな。それも断ったんだが、それなら許可はしないとまで言われて……」
「じゃあ、そこで俺がそいつらと戦うことになるのか……はぁ」
蒼太は、思わずため息をついた。
「すまんな、勇者の子孫といっても何の権力もないからな。そこまで言われたら何も言い返せなかった」
「あー、まぁ気にするな。悪いのはあんたじゃないからな、それにあんたのことを気にかけていたなら同行者のことを調べようと思うのも納得はできる。仕方ない、騎士は適当にあしらうか」
蒼太がやる気なさそうに言うと、ディーナが挙手をする。
「私に任せてもらえないでしょうか? 武器はアンダインを使います。あれなら武器として優秀ですし、私の魔法とも相性がいいはずですから」
ディーナは両方の手で握りこぶしを作り、やる気をみなぎらせていた。
「……まぁいいか。それじゃアンダインはディーナに渡しておくか。もう獣人の国は出たから問題はないだろう、一応柄の装飾は変えておいたぞ」
蒼太はアンダインを取り出すと、ディーナへと手渡した。受け取るとディーナは両手で抱えた。
「アンダイン……よろしくね」
そう言って優しくアンダインをなでるディーナは笑顔になっていた。
「騎士ってどれくらいのやつが来るかは聞いたのか? 下っ端が来るのか、そこそこのやつが来るのか、将軍クラスが来るのか」
「いやそれは聞いていないが、あの鉱山に挑む者の実力を計るっていうくらいだから、そこそこの騎士か……将軍クラスという可能性もある、と思う」
アントガルは不安そうにそう言った。彼はディーナの実力を見ておらず、更に外見も可愛らしい令嬢そのものの女性であるということでより不安が強くなっていた。
「アントガル……言っておくが、ディーナは強いぞ。こいつの兄貴も相当な実力者だったが、そいつが自分よりも才能があると言ってたくらいだ」
蒼太のその言葉にアントガルだけでなく、ディーナも驚いている。
「兄さんがそんなことを……」
ディーナは思いがけず兄の言葉を聞いたため、憂いを帯びた表情になっていた。
「まぁ、あんたがそう言うなら信用するが……」
それでもアントガルの表情はやや懐疑的だった。
「明日になればわかるさ。その時は今言った言葉を後悔することになると思うぞ。それに騎士を派遣した王様もな」
蒼太の自信に満ちた表情にアントガルは息を飲んだ。
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