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MissionComplete

 ペトルシアの夜は今日も平和だ。

 警察署長は、ランプと満月の灯りで、封を切った手紙を読み終えた。

 警察書の建物自体は古い煉瓦造りだが、内部は改装したてだ。当節流行りの無駄な装飾をはぶいた機能重視の調度。だが、夜でも月明りでほぼ十分なのが、辺境と呼ばれるペトルシアである。もっと国境に近づけば、軍基地の灯りがあるのだが。

 とかく、署長は手紙を読み終え、苦情を言う。

「実質事後報告じゃないか。困るんだよ、こういうの」

 ペトルシア領主ギルマン辺境伯の執事は、なんともあいまいにうなずく。

「ごもっともでございます。主人が後日お詫びに参りますので、今夜のところはどうか――」

「ああ、いや。まあわかる。本来なら戒厳令ものだからね。内内(ないない)に処理したいという事情はわかるよ」

「ええ、国家の大事に至る前にと……。おそれいりますがなにとぞ……」

「まあ、万事よろしくだ」

 場面移動。警察所長の頭上。ペトルシア警察署屋上。伏射(ふくしゃ)(伏せて構える)姿勢でライフルを構える女。スコープのレンズに写る山中の風景。

 春の山中を、猛スピードで駆け抜ける馬車。国境を超えるルートと推察。馬車は二頭立て。粗末な作りながら、内部はカーテンで見えない。

 馬車は、生い茂った樹木の切れ目に差し掛かる。障壁物なし。

 引き金を引く。

 場面転換。ペトルシア山中。

 馬車から馬が二頭とも突如はずれ、馬車を置いてきぼりに馬が逃げていく。

 大きくバウンドした馬車に、御者は地面に転げ落ちる。泡を食って飛び出してくる三名の男。馬車とは不釣り合いに仕立てのよい服装だ。

「なんだ!? どうなってるんだ!?」

 男たちの眼前に、女が降ってくる。黒髪黒目の異国風の顔立ちで、メイドのお仕着せを着ている。

「ご確認いたします。皆様が、反乱罪の重要参考人の方々でございますね」

「な、なんだこの女!?」

「知らねえよ! どけクソアマ!」

 メイドは男たちの怒声を意に介さず、話を続ける。

「当家の奥様より言伝がございます」

 満月を背に、白いカラスが舞い降りる。

 カラスは、落ち着いた女の声で告げた。

『かどわかしたレイモンド・ギルマン伯爵を、すみやかに解放願います。すみやかになされない場合』

 また、馬が逃げた時と同じ、バシュッという音が響いた。

「ぎゃああああッ」

 馬車の屋根の一部が吹き飛び、破片が男の一人に突き刺さる。

『私は好きな場所を吹き飛ばします。解放した後は、両手を頭の後ろで組んでひざまずいてください。あなたがたの生殺与奪は私が決めることを、くれぐれもお忘れなく』

 またバシュっという音。屋根の一部がさらに吹き飛ぶ。白いカラスが屋根に留まり、今度は馬車の内側に向かって女の声を発する。

『レイ、わざと自分を餌にした件について、帰ったらお仕置きですので覚悟してくださいね』

 びくっとした声が、馬車の内側から上がった。

「待ってサラ! 秘密にしないとだめだったんだよ! 怒らないで!」


 ペトルシアの夜は今日も平和だ。ごく一部をのぞいては。

2025/7/18

どうしても、ハードボイルドな狙撃アクションが書きたくて書いてしまいました。

いつもブクマ評価などありがとうございます。今回もよろしくお願いいたします!

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