十二月二十四日⑨
十二月二十四日⑨
「さて、そろそろいい時間だね。今日最後のパレードやるからベストスポットを探しに行こう」
アトラクションを終え外に出ると、開口一番こう宣言した。日はすっかり落ちしばらく時間が経った。確かに、いい時間である。ここはパレードが有名な場所だし、こう来るだろうことは予想ができた。もう疲れ切っている俺からしたら、まあまあありがたい提案だった。それにしても、探しに行く、ねえ?
「パレードが通る場所は把握しているのか?」
「まあだいたいは。でもやっぱりその日によって人の偏りも違うし、やっぱり足で探さないとねー」
「別にどこだっていいじゃないか」
探しに行く労力が惜しい。正直寒いし疲れたしで、あまり動きたくない。
「また成瀬君はそんなこと言って。最後まで協力してよね。私が楽しめるように、頑張ってくれるんじゃないの?」
その気はあるが、肝心の藤村がそれを口に出してくれないのでは頑張りようがない。
「はいはい。まあいいだろう」
「気のない返事だなー」
言って、藤村は歩き始めた。俺もそのあとに続く。それからしばらく並んで敷地内をぶらついた。会話はあったが、星野は会話に全く集中していない。相槌は打つが、視線は固定されておらず、しきりに辺りを見渡していた。パレードを見るためのベストスポットを探している、などと俺は思わなかった。もしこれが最初なら、そう考えたかもしれないが、今日はこれまでいくつも伏線があった。藤村は今日ここで何かを探し続けている。一体何を探しているのか。それが分かれば、藤村の目的も分かりそうな気がするのだが。
思考を巡らせるが、当然ながら何も思い浮かばない。そもそも藤村に関する情報がなさすぎるのだ。これではまともな仮説が立てられない。俺が持っている情報と言えば、昨日と今日見て、聞いたことだけだ。藤村が本音を語っているかどうかも分からず、そもそも依頼そのものが嘘のような気がする。
俺は焦っているのかもしれない。ヒントもろくになく、味方もいない。さらには時間もない。刻一刻と時間が過ぎる中、藤村は自分の目的に向けて、着実に前に進んでいるのだろう。そして、おそらくこのパレードが終わるとき、何かを実行する。
俺に全く関係のないことならば、知らぬ存ぜぬで無関係を押し通すが、ここまで関わってしまった以上、もはやそれはできないだろう。ああ世間はクリスマスイブだというのに、俺は何をしているのだろうか。
そこに例のカップルが視界に入る。またあんたらか。きっと俺たちと同じく、パレードを見るための場所を探しているのだろうか。それにしてもよく会うな。これで最初にあったときから数えて三度目。この広い園内で三度も同じ人に会うだろうか。会話に夢中になっている二人を見る。やっぱり見覚えはない。なぜ最初に会ったとき、どこかで見たことあるような気がしたのだろうか。今となってはその影もない。ただ、『見たことある気がする』と思った記憶が残っている。似ている誰かと勘違いしているのか。それとも別の場所で見かけたことがあるだけか。
「成瀬君」
不意に藤村に話しかけられる。と同時に、腕を組んできた。
「何だ?」
「もうだいぶ人集まってきちゃったね。これ以上移動しても同じだと思うから、ここで見よう」
ここで?どう考えても見やすい場所じゃないと思うが。
口には出さなかったが、顔に出ていたようで、
「何?ここじゃ不満?成瀬君が探すの嫌そうだったから、少しは気を遣ったつもりなんだけど」
まあ俺は常に着いていくだけだったから、今更不満を言うつもりはない。しかし、こいつは本当に突然だな。俺が少しでも不満そうな顔をすると、声を荒らげるし、理解できん。行動に脈絡がないのだ。俺に気を遣ったというのも、取って付けたような言い訳にしか聞こえない。この行動にも意味があるのだろうか。まだ分からない藤村の目的と関係があるのだろうか。
「いや、俺はどこでも構わないぞ。ここでも見えるし、問題ない」
「そう。物分かりがよろしくて、大変結構です。やっぱり成瀬君は大人だね」
またしてもそういうことを言う。あんたの言う『大人』とは、あんたに対して都合がいい人間、という意味じゃないだろうな。そういう意味で考えたら、元カレが『大人じゃない』と評されるのは、何だかかわいそうな気がしてきた。
ここで不意に閃きがやって来た。そういえば、いや待てよ。だが、しかし……。
俺の逡巡をよそに、またしても俺の腕に、自分の腕を巻き付け、抱き付くように体を寄せてくる藤村。
「…………」
「あれ?文句言わないね。ようやく観念した?」
この行動も、俺の閃きを補強する。こいつ、もしかして。




