第39話.ダーカーザン闇鍋
「お嬢様、夕食までまだ暫く時間が御座いますので、皆様とゲームなどしてお待ち下さい」
「わかったわ」
「和哉殿は、申し訳御座いませんが、少しこの部屋の片付けをお手伝い頂けますか?」
「わかりました」
「じゃあ、女性陣は、娯楽室でゲームをしましょ」
「咲夜さん、どんなゲームがあるの?」
「限定ジャンケン,地下チンチロ,Eカード,鉄骨渡りとか、何でもできるわよ」
ダーツとかビリヤードじゃないんだ···
内容の偏りが酷いな。
てか、それ本当に娯楽室か?
そんな姦しい女性陣がシアタールームを跡にし、俺と爺やさんだけが残った。
「爺やさん、俺は何を手伝えばいいんですか?」
「和哉殿、すみません。手伝いというのは、2人きりになる為の方便で御座います」
「え?」
「改めて、和哉殿に感謝を伝えたく···この度は、咲夜様の”願い”を叶えて頂き、ありがとう御座いました」
深々と頭を下げる爺やさん。
「あと、楓ちゃんに巡り合わせて頂き、本当にありがとう御座います」
三つ指をついて、土下座する爺やさん。
「か、顔を上げてください、爺やさん」
いい歳した男のそんな姿、見てられないので···
「俺たちは、目的の抗体が手に入りましたし、何より、俺自身結構楽しかったので。きっと、円香や春子だって···」
緑川は知らんけど。
「そう言って頂けますか···そんな和哉殿に、この爺やから1つお礼の品が御座います」
そう言って”男”の顔になった爺やさんに先導され、あるモノの前へ。
先程咲夜が使用していた、アヒルデザインの”おまる”だ。
「和哉殿、コレを」
爺やさんが手渡してきたのは、調理などで使用する700ccまで入るサイズの計量カップだった。
爺やさんの手にも、同じモノが握られている。
「和哉殿、ここは男同士、潔くきっちり2等分といきましょう」
咲夜、お前のお抱えのこの”紳士”は、かなり話しのわかる御仁のようだ。
爺やさんと”男の友情”を深めた後、娯楽室へ向かうと、美少女4人が姦しくゲームに興じていた。
「円カン、蛇でいてくれてありがとう······!」
「夢だよ····これ····夢に決まってるよ······!」
「円香、ところがどっこい···夢じゃないわ···!現実よ···!これが現実···!」
「ノーカウントッ···!ノーカウントッ···!ノーカン!ノーカン!」
「青山さん、胸を張りなさいっ···!手痛く負けた時こそ···胸をっ···!」
何のゲームやってんだ、こいつら···
「皆様方、闇鍋の準備ができました」
爺やさんの案内で、和室へと通される。
室内には、5人で入っても十分に余裕のあるサイズのコタツと、卓上にはそれに見合った大型の土鍋が用意されていた。
「やっぱ、鍋といったらコタツでしょ!」
ナイスだ咲夜。
お前のお陰で、冬を待たずして”コタツの中覗きプレイ”が楽しめそうだ。
みんながコタツに脚を入れたのを確認する。
では、失礼して···
俺は、コタツの中に顔を突っ込んだ。
「グエッ!」
パンツビューが目に飛び込んでくるかと思いきや、俺の顔面に物理的に飛び込んできたのは、緑川の25.0cmの足裏だった。
「堂々と覗こうとしてんじゃないわよ、ヘンタイ!」
「いててて、容赦ねーな」
「でも、良かったんじゃない、お兄ちゃん」
「まぁ、緑川の足裏を味わえたからプラマイゼロというか、むしろかなりプラスだとは思うが···」
「そうじゃなくて、今”コタツの中覗きプレイ”を消費しちゃったら、冬の時期にネタ切れして苦労するかもしれないじゃん」
なんだ、そんな事を心配してたのか。
案ずるな、円香。
ネタのストックなら腐る程あるから安心してくれ。
お兄ちゃんが恐れているのは、ただ1つ。
”BANされないか”
俺はそれだけが不安だよ。
「みんな、準備は良い?電気消すわよ」
「おう、いいぞ」
心の準備はできていないが···
プツン。
部屋が闇に包まれる。
「さぁ、みんな、食材を入れて!」
ポチャン。ボトボト。ドポンッ。ヌチャッ。
頼むぞ、お前ら、せめて”食材”を入れてくれよ···
「ちょっと!青山君!あなた今、私の胸触ったでしょ!」
暗闇の中で、緑川が声をあげる。
「え?いや、俺は何もしてないが···」
「いけませぬな、和哉殿。闇に乗じて楓ちゃんにお触りとは···」
くそっ、スケベジジイが。
俺に罪を擦り付けるつもりか。
ピカッ。
咲夜が、前触れなく電気を点けた。
緑川の隣に、暗視スコープを装備した爺やさんが立っていた。
「···まぁ、和哉殿も年頃の童貞ゆえ、致し方ないかと···」
「いや、流石に無理があるよ」
緑川がスケベジジイをボコボコにして縛りあげたところで、丁度鍋が煮立って食べ頃となった。
「じゃあ、ここからは俺が仕切らせてもらおう。まず、この中で、我こそは”マトモな食材を入れている”という自信のある者は挙手してくれ」
「はい」「はい」「はい」
円香,春子,咲夜が揃って手を挙げる。
意外にも、緑川は手を下ろしたままだった。
「緑川、お前、何を入れたんだ?」
「いや、私、鍋に食材を入れてないの」
「なんで?」
「···青山君、特別に、あなたにだけ食べて欲しいものを持ってきたの···だから、あなたの取り皿に直接入れさせて欲しいのだけど···」
珍しくモジモジと上目遣いの緑川の仕草に、ドキッと胸が高鳴る。
「あ、あぁ、わかった、じゃあこの器に入れてくれ」
「ぬぅ〜、和哉殿、抜け駆けですぞ〜、羨ましいぃ〜!」
うるせぇジジイだ、黙ってろ。
緑川は、自前のタッパーから、”食材”を取り出して器へ入れた。
···何、この草?
野菜?山菜?
「これは何だ?」
「言わなきゃ、ダメ?」
「ダメだ」
「···アジサイの葉,スイセン,チョウセンアサガオ,トリカブト」
「おい待て、それ、全部毒あるやつだろ」
「ちっ、知ってたか···」
こいつ、俺が知らなかったらそのまま食わせる気だったのか···
「嫌がらせするにしても、せめて無害なモノにしてくれ」
「無害なら良いの?」
「あ、ああ」
「じゃあ、コレ、あげるね♡」
ボトボトボトボト。
器に投入されたのは、十数本のチョークだった。
「いやいや、緑川、チョークが無害なわけないだろ」
「···お兄ちゃん、今検索してみたけど、チョークは体内に入っても大丈夫なんだって」
「マジかよ···」
「青山君、私のチョーク、残さず食べてね♡」
「爺やさん」
「なんで御座いましょう、和哉殿」
「”楓ちゃんの”チョーク、欲しい?」
「”楓ちゃんの”チョーク···欲ちい♡」
とりあえず、チョークを全部まとめて、爺やさんの口の中にぶち込んでおいた。
これでこのジジイも静かになるし、一石二鳥だ。
「じゃあ、次は···」
「はい」「はい」「はい」
とりあえず、円香、お前は最後確定だ。
「咲夜、いってみようか」
「あたしは、ちゃんとした食材を入れてるから安心して♡」
「言ってみろ」
「タガメ,サソリ,カブトガニ,タランチュラ,臭豆腐,シュールストレミング,ホビロン,なんかよく分からん国のよく分からんイモムシ」
「世界中のゲテモノ詰め合わせじゃねーか!」
最後のイモムシとか、もうヤケクソだろ。
「パパに頼んで、産地から直接買いつけたの」
黒峰グループのコネクションの無駄遣いが過ぎる。
「ホビロンとか、いったいどんな料理なんだ···」
「あ〜、画像検索はしない方がいいかも」
そんな食材を採用してんじゃねーよ。
「次は春子、お前だ」
「ご指名、ありがとうございます」
好きで選んでるわけではない、消去法だ。
「私が入れたのは···」
···ごくりっ。
「きゅうり,ズッキーニ,ナス,ゴーヤ,バナナ,フランクフルト,魚肉ソーセージです」
なんだ、普通の食材じゃないか。
心配して損したぜ。
ホッと胸を撫で下ろす。
コイツにもまだ、大和撫子の片鱗が微粒子レベルで存在していたようだ。
···ん?
待てよ、この面子は···
「な、なぁ、春子。ソレって、お前の”使用済み”だったりするのか?」
「···はい///」
ポッと頬を赤らめる春子と、対照的に青ざめる俺。
マジでコイツ、トチ狂ってやがる···
「···ちなみに、どれが1番好みだったんだ?」
「ゴーヤですね///太さと固さに加え、あのイボイボがとても良かったです///」
「そ、そうか、まぁ、程々にしておけよ···」
今日から、”大和撫子”の対義語は、”桃瀬春子”だ。
「円香、最後はお前だ!」
「よっしゃー!待ってましたー!」
「言え、お前がこの鍋の中に入れたもの全部、白状しろ!」
「ん~とね、お兄ちゃんが昨日履いてた未洗濯のパンツと靴下でしょ。あとは〜、お兄ちゃんの枕カバーと、子供の時に抜けた乳歯と、”へその緒”も入れたよ」
「色々とツッコミたいのは山々だが、これだけは言わせてくれ···母さんが大切に保管していたであろう俺の”へその緒”を、こんなしょうもないギャグの為に消化すんじゃねーよ!」
「でも、お母さんには衛星通信で確認してOK貰ったよ。『和哉が主人公の作品の為ならいいわよ』って言ってたよ」
母さん、愛が軽いのか重いのか、判定が難しいよ···
「そういうお兄ちゃんは、何入れたの?」
「俺か?俺は普通の食材だけど···」
「怪しい···お兄ちゃんも白状しなさい!」
「俺が入れたのは、えのき,練乳,ひじき,アワビ,レモンティーだ」
「「「「···」」」」
どうした4人とも、何もオカシイ事なんてないだろ。
言葉通り、そのまんまの意味だぞ。
えのき,練乳,ひじき,アワビ,レモンティー。
俺はただ、普通に”食材”の話をしているだけなんだが。
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