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『金属バットの女』風

電車の外は都会だった。ビルだった。壁面だった。ポストモダン的建築物だった。グレーってのは嫌いじゃなかった。中々のもんだった。目を落とした。座ってるカップルの膝が見えた。カップルだった。明白だった。確信だった。七面倒くさい見間違いや勘違いも皆無だった。そりゃあトラストミー、パーフェクトに俺を信じてくれってほど自信ありじゃないが、まあそれでもそれなりには確信していた。カップルはカップルだ、間違いなく。ファイナルアンサー。

「食べ残し冷蔵庫に入れなかったでしょ」

女は怒っていた。おこだった。アングリーだった。でも怒髪天をつくとまではいかなかった。本当に怒髪天をついたらどうなるんだろうな。俺はどうでもいいことが気になってる。囚われてる。脳髄がオーバーヒートする。

渋谷についた。アライブアット渋谷。目の前の二人は立ち上がった。手を繋いだ。電車から出ていった。

「オレたち幸せだぜ」

そんな声が聞こえた。それは脳内だった。だから聞こえたと言うのは嘘だった。頭の悪い俺の頭の悪い勘違いだった。もしくは聞き間違いだった。ミステイクだった。俺は馬鹿みたいに電車から降りないまま馬鹿みたいに突っ立ったまま馬鹿みたいに目の前でドアが閉まるのを待っていた。ドアは実際に閉まった。降りられなくなった。最悪だった。圧倒的に。超絶的に。クソを漏らしたくなるほどに。

「クィーン」

山手線は走り始めた。当たり前のように、つーか実際当たり前に、次の駅まで走った。十年後も二十年後も同じように走るはずだ。もしくは五十年前とか。

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