◆拍手お礼ss 【異世界人だらけ】
【異世界人だらけ】
「……」
人気の無い森へ出張調査に出て二日目。
ニヴルは目の前でカタカタと震える少女を見て眉を顰めた。
「……ライカ、寒いのですか?」
「……う、うぅ……」
来夏は呻りながら首を横に振る。
寒くないのなら一体どういうわけで震えているのか。
今は昼間なので気温は割と高く、森の中とはいえもちろん日差しがあるので木漏れ日が美しい。霧魔の気配も今のところ感じないし、周囲が不気味だなんてこともない。
震える要素など皆無なのだが。
「ライカ」
「……」
ニヴルが己のあるかなしかの良心に促され名を呼ぶと、来夏はゆるゆると顔を上げた。
暫くフラフラと彷徨っていた視線がニヴルの瞳で焦点を結ぶ。その目を見て、ニヴルは盛大に眉を顰めた。
(……心の底から嫌な予感しかしませんね。)
「っ!」
次の瞬間、ニヴルは気づけば鹿よりなお機敏にその場を飛び退いていた。
条件反射とは素晴らしいものだ。ニヴルは目の前でたたらを踏んだ来夏の背中を眺めて思った。
「ど、ど、どうして逃げるのぉおおお、私のブルーハワイ……!」
「誰が貴女のブルーハワイですかッ!」
振り返った来夏は涙目だ。だが、ニヴルは一切の同情を覚えなかった。むしろ、何度もこんな状態の来夏から襲われて来た経験から、憎らしくさえある。いっそのこと木に縛り付け、この深い森に置き去りにしてしまいたいくらいだ。
つくづく、導書師のパートナーでさえなければ、と思う。プライベートならまだしも、仕事中に離れるわけにはいかないのが口惜しい。
とにかく、ブルーハワイ、ブルーハワイ、と呟いている様子から見るに、来夏が錯乱しているのは、どうやら彼女がいつも持ち歩いている真っ青な飴を切らしてしまったかららしい。
欠乏による禁断症状で震えていたようだ、とは理解したものの。
「ブルーハワイとやらが麻薬だったとは知りませんでした。薬に手を出すなど、貴女も地に落ちましたね。気持ちが悪いので近づかないでください」
う、う、と泣きながら尚もニヴルのスカイブルーの瞳目掛けて迫ってこようとする来夏を鞘に収めたままの剣で押さえつけながら、ニヴルは冷ややかに言った。
麻薬云々よりもそもそも動き気持ちが悪いですね。などと酷い言われようをしているが、半泣きで錯乱状態の来夏は幸いにも気づかなかった。
後日おまけ更新しますー




