◇拍手お礼ss 【ホームステイ】 前編
こんなハロウィンがあるかもしれない。
しかし今はまだパラレル。
【ハロウィン・パラレル(本編の季節等、設定いろいろ無視しています)】
獣耳と悪魔角を通販で購入した。
獣耳は狼のようなフサフサ大き目のやつで、悪魔角は山羊の角のようなやつ。
え、何に使うかって?
それはあなた、十月三十一日という日付を考えて察してください。
え、誰が使うのかって?
それはあなた、うちには今、これらのアイテムがとっても似合いそうなヤツがいるじゃあないですか!
ウチにいる地球外イケメンなら、こんなコスプレアイテムでもばっちり着こなしてくれるはずだと思うの。
あ、既にヤツがこれを装着することは決定事項だよ。
きちんと例の決まり文句は言うつもりだけど、あの人はそんなに甘いモノが好きじゃないみたいだからお菓子なんて常備していないだろうし、下手をすると決まり文句の意味自体が通じない可能性もある。なんてったって、あれは日本語じゃないからね。
もし通じなかったとしても、アイテムは強制的につけてもらうよ?
だって結構高かったし!
今の仮装って、作り込まれている所為か結構いい値段がするみたいでね。良さそうなのを見つけて購入ボタンを押そうとしたとき値段を確認して、思わず声を上げそうになってしまった。
予想外の出費に一瞬天井を仰いで考えたけど、せっかくだから妥協はしたくないし、他に適当なのがなかったから思い切って買っちゃった。
ある意味、衝動買いだった気もする。
でも、届いてみればまあ、想像以上に作りがしっかりしていたし、悪い買い物ではなかったと思う。
何より、無駄になることは無いんだから、よしとする!
そんなわけで無事に道具を手に入れ、十月三十一日を迎えることになった私は、嵩張る獣耳と悪魔角を後ろ手に隠しながら、客間でくつろいでいるはずのアシュールのもとへ向かった。
短く声を掛けて襖を開けると、アシュールは畳に座って剣の手入れをしているところだった。
日本刀の手入れはかなり大変と聞いたことがあるけど、アシュールの世界の剣はどうなんだろう?
邪魔しちゃったかな、と少しだけ気が引けたけど、これからすることを考えて開き直った。
ほぼ騙し討ちのような、悪戯というより罰ゲーム的なものを仕掛けようとしている私が、その対象者の都合を考えるなんておかしな話だもんね。
「アシュール、ちょっといーい?」
「……?」
でも一応、聞いてみる。
剣から顔を上げたアシュールは問うように小首を傾げた。
白金の髪がさらりと横に流れる。
その動きに合わせて光が散る幻が見え、さらにはキララン、と謎の効果音が。
もちろん幻覚に幻聴ですが。
流石、地球外イケメン。
漫画やアニメだけの効果ですら使いこなすとは!
夏の強い日差しなんか無い秋の室内ですら輝く美形っぷりに舌打ちしたい気持ちをなんとか抑える。
こんなところでイラついている場合じゃない。私にはやらねばならぬ指名があるのだ!
私はさっと素早くアシュールの周りに視線を走らせた。
よし、少なくとも手近なところにお菓子は無いな、と確認。
それから不思議そうにこちらを見上げているアシュールに微笑みかけた。
「今日が何の日か知ってる?」
「……?」
もちろん、知らないだろう。
でも遠慮はしませんよ。
私は笑顔を深めて元気よく言い放った。
「トリック・オア・トリート、アシュール!」
「――っ!」
ふっふっふ!
どうだ、お菓子どころか、ご馳走も持っていない君は、大人しく私の悪戯を受けるしかないのだよ!
今日は一日中、アシュールには一人仮装大会で過ごしてもらうんだから。
動揺するお父さんやキラキラした視線を向けるお母さんと孝太。そんな中、存分に居た堪れない思いを味わうがいいよ!
と、意地の悪いことを考える。
にやける顔をなんとか普通の笑顔に修正しながら、私はアシュールの様子を窺った。
――あれ?
「……アシュール?」
なんだろう、何故、彼は、耳を赤く、染めているのだろう……か?
アシュールは片手で口元を隠すように覆い、さっと私から視線を外した。
――え、何その反応。
さっぱり意味がわからない。
お前は何かに恥じらう乙女か、と言いたくなるような反応だった。
だけどどんなものでも反応を返してきたということは、日本語以外でもアシュールには意味が通じるということだろうか?
そういえば現代日本には外来語が溢れているし、それを考えると日本語以外が通じていてもおかしくない……って、いやいや。
意味が通じているなら、余計に反応がおかしいでしょ。
横を向いたことで私の正面にさらされたアシュールの耳は、見れば見るほど本当に真っ赤だ。熟れて落ちるんじゃないかと思うくらいに赤い。美味しそうとは思わないけど、もぎたいとは思うかもしれない。
っていうか、これってまるで照れているみたいじゃない……?
今の台詞にどこに照れる要素なんて?
と、眉を寄せて訝しんでいると、ふいにアシュールが口元を手の甲で拭うような仕種をして、スッと立ち上がった。
ほんの少し私の顔よりも視線を下げて、何故かこちらへ迫ってくる。
「ちょ、何――ぎゃっ!」
な、何この人――!!
咄嗟に出た可愛くない悲鳴について乙女として言い訳させていただくなら、すべてはアシュールが悪いと思う!
だって急に抱きつくから……!
ぎゅう、と頭を抱え込むように腕を回され、硬い胸に顔が埋まる。お陰様で、抗議の声を上げたくても「むぐむぐ」という意味不明な呻きにしかならなかった。
ついでに持っていた袋は抱きつかれた拍子に見事に私の手から脱出を果たしている。背後でドサリと畳に落ちる音が聞こえた。袋には獣耳と悪魔角が詰め込まれていたというのに! 高かったのに!
アイテムに破損が無いかが大変気になったけど、今はとにかく奇行に走る地球外イケメンをどうにかしなくては!
私は自由になった手で必死にアシュールの服の背中を引っ張ってみた。伸縮性に優れたシャツはみにょーんと間抜けに伸びる。
今は個人的にシリアスなとこー! という突っ込みは、もちろんシャツには通用しない。
みにょんみにょんと伸びるシャツの感触はアシュールには痛くも痒くもないだろう。それを証拠に、まったく放してくれる気配がない。それどころか――。
「――ひゃぅ!」
なななななな、何か耳にーーーっ!
待った! 今のは何だ!
ざらっとして、ぬめっとした……今のは何だーーーっ!
何だ何だと心の中で叫んではいるけど、それが何かわからないほど子供じゃない。
溝をなぞるように這う感触にゾクリと背筋が泡立った。
あまりの衝撃にいつの間にか、無駄にシャツを伸ばしていた手まで止まっている。
ああまずい。
何がまずいって、大きな身体に包まれている、その体温が気持ち良すぎてまずい。




