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異世界のかけら -断片集-  作者: 滝底
本編的断片
27/48

◆混沌の細工師? 後編



 頭には色鮮やかなコバルトブルーのバンダナ。

 襟と袖口がたっぷりとしたシャツに、臙脂のベスト。それから肩には同色の、どこか貴族を思わせるようなしっかりとした生地のジャケットを掛けている。下は黒のズボンだ。

 腰にはバンダナと同じ色の布と、もう一枚、真っ赤な布が巻き付けてあって、先の広い湾曲したナイフのようなものを左に二本、右に一本佩いている。鞘には色とりどりの宝石がちりばめられていて、なんとも派手だ。

 有名な映画に出てくる船長のような帽子は被っていないけど、腰に吊るされたナイフの鞘の裏側、ほんのちらりとだけ見えたそこには、妙にリアルな髑髏のマークがあった。


(海賊って、本当なのかな)


 あたしはレイの肩からこそりと顔を出して、その人を観察する。

 確かに、肌は日に焼けているし、どこか豪快で粗野な雰囲気もある。口調も声量も、とても上品な貴族とは言えないのはさっきの会話でわかった。

 でもなんて言うんだろう、あまり乱暴そうではないというか。大口を開けて笑う様子は、気のいいお兄さん、って感じ。


「で、今日はなんなの。僕も暇じゃないんだよね」


 陰気でひ弱そうなレイも、お兄さんを恐れているようには見えない。海賊って言えば、略奪が基本の危険な人たちじゃなかったっけ? 短気で、怒らせたら直ぐに命を奪われちゃいそうなイメージだったんだけど……。

 でも、海賊のお兄さんはあからさまに迷惑そうなレイの様子にも全然キレる様子はない。ずっと笑顔で白い歯を覗かせている。


「まあまあ、そう邪険にするなよ。俺がお前に用があると言えばひとつだろ」

「…………だろうね」


(何だろう? やっぱりあれかな?)


 海賊のお兄さんがレイに用事っていうのが想像できなくて一瞬不思議に思ったけど、レイの仕事を思えば一つしかないかな、って思いなおした。


「必要なもの選んだらさっさとお金を置いて帰ってくれる? ――それと。次から営業時間外に来たら、あんたには飴、売らないから」


(やっぱり飴を買いに来たんだ!)


 お兄さんが本当に海賊だとしたら、ものすっごく意外だ。海賊の人って、飴なんて舐めないと思ってた。糖分ならお酒で取ればいいんだし、むしろそっちが似合ってる。まあ確かに、レイの工房の怪しげなモチーフの飴細工たちなら、海賊の人が持ち歩いててもおかしくはない気もするけれど。

 それに、はっきりしたことはわからないけど、どうやらレイの作る飴は普通の甘いだけの飴じゃないみたいなんだよね。まず香りがおかしいし。

 かと言って、犯罪的な何かを混入しているわけでもないみたいなんだよね。


(うーん、レイって謎だらけだ)


「わかったわかった、次からはちゃんと夜に顔を出すようにするって。今日はとりあえず見せてくれんだろ? 適当に見繕って行くから、工房に戻っていていいぜ。――っと、その前に」


 レイの肩で一人腕を組んでうんうん頷いていたら、急に身体が浮いた。


「これは何だ?」


 ――パリンッ


 海賊のお兄さんに見つかったんだと気づいたのは、背中で嫌な音がしたときだった。


「うわ、虫かと思ったら、なんだこりゃ。――妖精、か……?」

「――おい!」


 身体を鷲掴みにされて驚愕のまま見上げた先、お兄さんの随分整った顔が間近にあった。

 コバルトブルーのバンダナから零れる真っ赤な髪と同じ色の瞳が、大きく見開かれてあたしを見ている。


「き、」

「き?」

「きひゃぁぁぁあああっ!!!」

「うおっ」


 レイ以外の人とこんなに接近したのは転生してから初めてで、次の瞬間あたしは思いっきり叫んで暴れてお兄さんの手に噛み付いていた。

 驚いたお兄さんが褐色の手を放す。


「――あっ」


 身体が宙に浮いて、思い切り羽ばたいて逃げようと思ったのに、身体が浮かばない。

 さっきの嫌な音は、翅が割れる音だったらしい。

 羽ばたくときの音でわかるように、あたしの翅は虫のそれとは違って硬質なもので出来ているのは知っていた。だけど、こんなに脆いものだったなんて――。


「やっ――」


 必死で翅を動かしても、少し浮いては沈みの繰り返しで、全然飛びたてない。

 思わずレイの方へ手を伸ばすと、呆然としていたらしいレイもハッとしたように手を伸ばしてくれた。


 だけど、悪いことって続くもので――。


「――あ!」

「!!!」

「――っ!」


「――にゃあ」


 気づくとあたしは、猫に捕まっていた。

 どうやらお兄さんの背後の扉から、入ってきてしまったらしい。


(やっぱり海賊って危険だ――)


 朦朧とする意識の片隅で、レイが大声であたしの名前を呼んでいたような気がする。

 レイは、あたしがいなくなったら少しは寂しいと思ってくれるんだろうか。

 そんなことを思ったところで、猫に咥えられたあたしの意識は、ぷっつりと途絶えて消えてしまったのだった。







食べられました。



微妙なところですが、『混沌の細工師』の断片はここで終了にしたいと思います。

ナナ、奇跡の復活なるか!?(注:死んだら話になりません。



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