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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
緑の縁 2024 5月

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83 ただの棒きれ一本でも日常は壊れる。

 ときに、冷静な狂人ほど怖いもの。

 ただの棒きれ一本でも日常は壊れる。

 彼らはそんな世界のルールを身をもって知った。


 彼らは今朝から行われている手荷物検査から逃れるために、部室に置いていた私物を隠すための場所を探していた。

「たく、なんだって今更、手荷物検査なんて漫画の世界の話じゃないのかよ。」

「でも、ここまでやるか?」

「持って帰るわけにもいかないだろ。親にばれたら、何を言われるか。」

 彼らが隠そうとしていたものは、お遊びで買ったタバコとライターほか、彼らの年齢では持っているのがちょっとアレなものの数々。知り合いから譲り受けたり家から持ち出したものなど出自は様々だが、そういうちょっとしたものを持っているのがかっこいいと思うお年頃だった。

 持っているだけでほとんど触ったことはない。それでも持ち物検査で見つかれば取り上げられてしまうもの。朝からドキドキした時間を過ごしていた彼らは放課後になってすぐにソレらを持ち寄って隠し場所を求めていた。


 人目を避ける人間の心理は大きく二つに分かれる。


 木を隠すなら森の中と、目の届く範囲で雑多な場所を探す。

 あるいは、人気がない場所、人の気配がない場所を探す。


 本来ならば、前者の方が安全であるのだが、彼らが選んだのは後者だった。そして、人目を避ける思考が、室外機の影に希望を見出すのは自然の流れとも言える。

「おい、なんか焦げ臭くないか?」

「まさか、裏庭になんか、人なんかこねえよ。」

 焦げ臭い、それによく見れば煙のようなものが見えた。

 彼らは火事の可能性を疑った。季節柄、室外機は動いておらず、煙がでる要因がないからだ。

 だというのに、周囲に知らせることよりも、現場を確認するという選択をしてしまった。

 

 なぜ、そんな判断をしたのか、彼らにもわからない。まるで明かりに引き寄せられるかのように彼らは金網で囲まれた場所へと近づいていく。

「おい、やっぱ、こっちだ。」

「まてよ。」

 壊れた南京錠と開いていた扉。それを見て、2人はまず安堵した。

 誰かが中にいるなら、火事ではないはず。

 その上で、この匂いはなんだろうか?

 安堵した後で、彼らは火元に興味を持ってしまった。

 一体、何が起こっているのか?

 正義感だったのか、邪推な好奇心だったのか、どちらにしろ彼らはこの選択を後悔することになる。


「「あっ」」

 奥まった場所にたどり着いたとき彼らが目にしたのは、此方を睨む女性徒だった。血走った目に長い髪をマフラーのように巻いた姿。それだけならどこにでもいる女性徒だが、その手には物騒な棒きれが握られていた。

 棒や剣をもった不審者、もとい敵キャラというのはゲームや漫画でもでてくることがある。そうでなくても、折れたモップなどを拾って片付けをしていただけかもしれない。そんな色々な憶測が頭をよぎるが、それは致命的な空白を生み出してしまった。

「消すしかない。」

 ぼそりと漏れた彼女の言葉は彼らには届かなかった。

 代わりに届いたのは、鋭く飛びすまれた悪意と、棒の先端だった。


 振り下ろすのではなく、突き出す。


 振り下ろす、振り回すというのは、関節の可動域も考えるともっとも力が発揮しやすい。しかし、棒きれでそれをおこなっても少女の腕力では限界がある。

 だが、突き出すとどうなるか、体重を乗せてまっすぐに相手を狙った一撃は、折れてとがった棒きれを凶器へと変える。そして、女の狂気が詰め込まれ溢れていた。

「はっ?」

 反応はできなかった。

 だが幸運なことに、最初に狙われた男子生徒は箱を持っていた。腹を狙った一撃はとっさにでた防御反応により箱にぶつかって軌道がそれ、えぐるように二の腕にかすった程度ですんだ。

「ひ、ひいいいいいい。」

 肉がえぐり取られる感触、それと共に腰が引けそうになる。それでも走って逃げるという選択肢をとれたのは、もう一人の反応のおかげだった。

「いやああ。」

 少女のような悲鳴を上げて後ろに走り出すもう一人。彼は傷ついた友人の腕をつかんで引っ張っていた。それはとっさの行動か、友情からなのか本人も分からない。だがその結果として、2人の生徒はお互いを支え合うようにしてその場から逃げ出すことに成功した。

「待て。」

 彼女がすぐ追わなかったのは、一撃で仕留めるために勢いをつけて室外機にぶつかったからだ。少女の華奢な身体でも勢いをつければ殺傷力はつく、だが、その代償にしばし動きが取れなかった。

「逃がさない。」

 それでも、怯える彼らの足は決して速くない。すぐに追いかければ十分に追いつける。幸いこの時間、この場所に人が来ることはない。

「問題は、潰したあと。」

 冷静にその後を考えながら、彼女は棒を槍のように構えてその背中に向かって駆け出したのだった。


 

消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ消さなきゃ

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廃棄の傘で突き刺してくるのは普通に怖い
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