82 自分の手際の良さに彼女は鼻唄を歌っていた。
とある少女の独白
時系列と一部の文字が化けていのは、仕様です。
自分の手際の良さに彼女は鼻唄を歌っていた。
彼との素敵な時間は秘密だった。それを他人に見られたのは自分の迂闊からであり、あせった。
彼に迷惑をかけないように、普段は近づかないようにしていたいし、出会う場所は不自然にならず、人目につかない場所を選んでいたが、出会う頻度が増えればおのずと限界がくる。
やがては彼との関係も隠しきれなくなるだろう。
でも、まだその時ではない。
カクサナイといけない。
だから、自分は想定して、準備をしていた。
だから、彼との時間のときは変装をした。いつもは縛っている髪をほどき、伊達メガネをかけていた。それが彼の好みに近いというのも分かっていた。
だから、普段は髪を結って別人に見えるように工夫していた。
彼の私物を盗もうといする不届き者がいるのも悩みのたねだった。
自分は新しいものと入れ替えているだけなのに、不届き者のせいで、余計な気を使わせてしまう。
いずれ、見つけ出して、罰を与えないといけない。
が、その前に、そうすればどうなるか、知らしめる必要がある。
毛糸が足りないのも困った。
ミーハーな連中がこぞって緑の毛糸を求めるのだから、自分までそういうバカと疑われた。
だというのに、あのオンナは手芸部という隠れ蓑を利用して緑の毛糸を手に入れていた。
オモエバ、アノオンナモ?
同じ小学校だからといって、彼が気に掛けるには、地味すぎる。
女だからって、愛想がなさすぎる。
そうやって素っ気なくすることで、彼の気をひく、クソオンナ。
キットアイツモ?
「まあ、もう仲良くはできないな。」
彼がアレのことを寂し気に語るのが気に入らない。
いや、彼の孤独はわかっていた。
才能に恵まれた彼を理解できるのは自分だけだ。
彼に愛されるのは自分であるべきだ。
自分ほど、彼を知っている、理解者はいない。
私だけが彼を幸せにできる。
彼は長髪が好みということで髪を伸ばした。
昔、仲良かった子と似ているとほめてくれた髪。自分を通して、別のコをミているコトが腹立たしい。
ダカラ、ハメてやった。
彼の私物が時々なくなっているという噂はあった。
だから、憎らしいアイツの恰好をして、いつもの日課をこなした。
時間をずらして、誰かに見えるように。
いや、それでは不十分だと思ったから、スマホで動画を撮った。
とっさに撮ったと思えるように角度や高さを調整し、用意周到に準備した。
コレであのオンナもオシマイダ。
彼も目を覚ますに違いない。
あとは、徹底的に叩いて、彼に近づこうとする輩にも牽制までできる。
ジブンハナンテ、カシコク、コウウンナンダロウ?
「おっと、急がないと。」
それはさておき、今日も日課のおまじないだ。
今、先生たちに詰め寄れているあのオンナの顔を思い浮かべながら彼女は、いつもの場所へと忍び込む。
彼がいらないと言っていた雑誌と痛みのある靴下。それを毛糸で結び。
「ジェレイン。ジェレイン、ジェレインジェレインジェレインジェレイン」
本来は3回だけれど、彼へのきもちを表すために何度もその名を唱える。
できるならば、毛糸も大量に使いたいが、限りがあるのである程度で我慢する。こればかりは仕方ない。
ジブンの名前も唱えつつ、左手とジェレインの私物を結んでいく。
そして、火をつける。
ただ、火をつけるだけでは時間がかかるので、油をかけるのも忘れない。
このときは何時もドキドキする。
使わなくなったといえ、彼の私物を燃やすのは胸が痛むし、火を使うというのは危険がともなう。
初めのころは匂いがついてしまい、親にも疑われた。
レインコートを着て作業するようにしたし、必要な道具は、この場所を含めて数か所に分けて隠していた。
大変でなかったと言えばうそになる。
それでも彼を思えばこそだ。
幸運なことにうまくいった。
家のガレージから道具を持ち出すのは上手くいったし、おまじないが流行る前に買い込んだので緑の毛糸は確保できた。
日常的に彼のフォローをしていたので、私物にも困らない。
まるで自分のためにこのおまじないがある。
ソレハキット、ワタシとカレのウンメイダ。
今まで彼のためにしてきた努力が認められたのだ。
この場所を見つけたのもそうだ。
空調の室外機が並ぶこの場所なら、めったに人は来ないし、普段は鍵もかかっている。鍵は南京錠なのでどうとでもなる。
室外機の廃熱のおかげで多少の火でも気づかれない。
出入りする場所も隠れる場所もいくつもある。
この場所は特別だ。
ソノハズダッタ。
「おい、なんか焦げ臭くないか?」
「まさか、ここは裏庭だよ。人なんかこねえよ。」
ふと敏感になっていた聴覚が会話を捕らえた。
なぜここに人が?
慌てて火を消し、用意しておいた箱に残骸を放り込む。
慌てていたので、手のひらが熱かったが今はしょうがない。
ここで見られるわけにはいかない。
迅速に証拠を隠す。
声が聞こえてから迅速に片づければ問題ない。そう思っていた。
「おい、やっぱ、こっちだ。」
「まてよ。」
無遠慮な輩は空気を読まない。
間に合わなかった。2人の生徒が姿を見せたとき、
彼女の左手はほどけないように固く結んだ、緑の毛糸が残っていた。
「「「あっ!」」」
目が合った。
見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた。
「消すしかない。」
相手を、
見られた事実を
存在を、
気づけば彼女は近くにあった廃棄の傘を持って駆け出していた。
狂った女子の視点って難しい。
お気づきだと思いますが、ミザリーさんはジェレイン先輩関係もおまじない関係も巻き込まれただけです。




