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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
緑の縁 2024 5月

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80 男女がいれば、関係を邪推するのやつは必ずいる。

 さあ、ホラー展開をはじめよう。 ミザリー先輩視点です。

 男女がいれば、関係を邪推するのやつは必ずいる。

「かわいい子たちでしたね。」

「そうだね。」

「はい、緊張して、彼氏君にべったりなのが萌えました。彼氏君もさりげなく気遣っているのが王子様みたいでしたし。」

 部活動の取材ということでやってきた一年生たちを思い出しながら、上機嫌な部長に私は同意した。

「リーフちゃんだっけ、美人なのにぬいぐるみやセーターに目を輝かせているのは面白かったね。」

「なんか、めっちゃピュアな反応でした。あんな後輩が欲しい。」

「なら、勧誘したらいいんじゃない?別に兼部だっていいし。」

「ああ、確かに。」

 学校全体でみると手芸部は小規模だ。何十人と在籍しているスポーツ系のクラブに対して、在籍しているのは各代に4人程度、それも毎日参加しているわけではないので、小さな部室は荷物置きとして使われていることが多い。作った作品の置き場としてだけ利用している幽霊部員もいる。

「あの子と一緒に編み物したい。いや、着飾りたいなー。」

 それでもおしゃれが好きな人間の集まりなので、可愛い子がいれば着飾りたいとと思うし、作品を褒められれば機嫌がよくなる。

「たしかにあんな子がいたら、楽しいかもね。」

 私は手芸が好きだ。将来は作るのも好きだし、将来は服飾系の仕事につきたいなんて、ゆるい願望もある。だからこそ、雑貨屋で毛糸の量や話に驚いていたホーリーという新聞部や、リーフという、大きい身体のわりにぬいぐるみを大事している姿は微笑ましかった。

 そんな妄想をしながら、2人でえへへと笑っていた時だった。

「ああ、ミザリー、部室にいたのか、ちょっと生徒指導室まで来てもらえるか?」

 不意に扉が開かれて、顧問が部室に現れた。

 別に悪い事をしているわけじゃないけど、ノックはしてほしいなー。お飾りの顧問で手芸の知識もない先生だけど、デリカシーにも欠ける。

「先生ー。入るときはノックしてくださいよー。マナーですよー。」

「ああ、すまん、急いでいてな。で、ミザリー大丈夫か?」

 この先生が忙しないのはいつものことなのだが、今日はいつにもまして余裕がない。

「なにかあったんですか?」

「うー、うん、ともかく来てくれ。」

「・・・わかりました。職員室でいいんですよね?」

 なにか怪しい。これが資材運びとか別の教室だったら断るレベルの怪しさだ。

「ああ、ついてきてくれ。」

 そう言ってこちらの返事を待たずに外へいく顧問に部長とともに肩をすくめてため息をつく。

「じゃあ、片付けは任せても?」

「はい、鍵も返しておきます。」

 断りを入れて外にでると、顧問はずいぶんと先まで進んでいた。

「メンドクサイことになりそう。」

 顧問の勘違いで、色々と振り回されたことは何度かあった。

 そして、悲しいかな、私は妙なところで運が悪い。手芸のデザインを考えたら、狙った色の毛糸や布が売り切れているし、ビンゴ大会などの運が伴うイベントでは勝てたことがない。昨日は、片付け忘れのモップにつまづいて転んでしまい、花瓶をわって、縫うほどのケガをしてしまった。そのわりに、教師が適当に選んで指名するときは高確率であたるし、じゃんけんの勝率は絶望的に低い。

 だが、運が悪い人間は、運が悪いわりに、そういう空気を感じ取る力がある。

 だからこそ、妙な雰囲気を感じ、入室前に買ったばかりのスマホの録音機能をオンにした。

「ミザリー君だね、部活中に悪かったね。」

 生徒指導室には、カウンセラーとソーシャルワーカー、そこに顧問が加わり大人が3人、そして、

「ジェレイン?」

 最近すっかり縁のない元友人の姿があった。

「ミザリー、ひ、久しぶり。」

 どこか緊張した様子のジェレイン。小学校のときに悪戯がばれたときから変わっていない。

「ここに呼んだのは、君に訪ねたいことがあったんだ。」

「はあ。」

 おそらくはジェレイン関連なのだろうが、彼女にはまるで見当がなかった。確かに彼とは同じ小学校出身で、小さいときは交流があった。だが、高学年になるころから、ジェレインは女子を遠ざけるようになり、ミザリーとの交流はほとんどなかった。

「実は、先日から、このジェレイン君の私物が紛失する事件が何度か起きていてね。」

「先生、事件というのは。」

「そ、そうだったね、紛失している事例があったんだ。」

 立ったままそんなことを聞かされるが、先生たちはそれに気づいていない。顧問も立ったままだ。

 私は首をかしげてその先を待った。ジェレインの私物が盗まれているという噂は、なんどか聞いたことがある。だが、それと自分が呼び出される理由が結びつかない。


「君がやったんじゃないか?」


「はああ?」

 そして投げ込まれた話題は、とんでもないものだった。

「急に呼び出してなんなんですか、それは。」

 当然の抗議の声を上げると、大人たちは彼女をなだめるように手をあげる。

「う、うん、実はな、君がジェレイン君のロッカーから私物を運び出すところを見た生徒がいるんだ。」

「やってませんよ。」

 そもそもロッカーに近づいたこともない。

「だがね、見たという生徒がいるとなると、事情を聞く必要があるんだ。」

「はあ。」

 それで、わざわざ生徒指導室へ呼び出して話を聞こうとしたと、それはなんとなく理解できる。

「座ってもいいですか?」

 長くなりそうと思った彼女の最初の要求は椅子に座ることだった。

「ああ、すまない。我々も緊張していてね、座り給え。」

 指摘されて初めて生徒を立たせたままだと気づいた先生たちは慌てて開いている椅子をすすめてきた。

「で、一昨日のことなんだけどね。」

 代表として話すのはカウンセラーの先生だった。ソーシャルワーカーはメモをとり、顧問とジェレインはキョロキョロと視線を泳がせている。

「とある生徒が、君がバスケ部のロッカーへ入っていくのを見たという生徒がいたんだ。」

「はあ、放課後ですか?」

「ええっと、うん、放課後だね。部活動の時間だ。」

 即否定してもいいが、まずは話を聞くことに集中した。

「その生徒の話だと、バスケ部の活動中、キョロキョロと周囲を見ながら君がバスケ部のロッカールームに入り、出てきたときには、彼のユニフォームを持っていたというんだ。」

 ずいぶんと主観が強い。

 そう思いながら、私は昨日の出来事を振り返るるが、ここ数日は体育館へ近づいたこともない。

「で、どうなんだ。君がやったのか?」

 柔らかい物腰、だけど、何か確信を持っている感じがした。子どもの悪戯に気づいて正直に言うのを待っている大人、そんな感じがした。

「まったく関係ないです。ここ数日は体育館に近づいてすらいないので。」

 だから、正直に答えても、大人たちの顔は微妙なものだった。

「ほんとかね、もしジェレイン君がいると言いづらいなら彼にはでていってもらうが。」

「いや、まったく、もってこれっぽちも。ジェレイン君と会ったのも数年ぶりですし。」

「な、おまえ、この前会っただろう?」

「はっ?」

 まったく覚えがない。思春期をこじらせて女子離れした面倒になった男とは、友人達と一緒に距離をおいた。彼と付き合いがあるのは、変人と名高い新聞部の部長かバスケ部の男子ぐらいだろう。

「ほんとかね、正直に話してくれるとありがたいのだが。」

「こちらとしても、物が返ってくる、あるいば弁済で済ませたい。」

 やっぱり決めつけられている。

 これは最近、くだらないおまじないの所為で噂をされているときに感じた嫌悪感に似ていた。

「そもそも、その話はいつのことなんですか?」

 手芸部で緑の糸をもっているというだけで色々と邪推されて、質問攻めにされたとき、今日になって包帯のせいでへんな噂を立てられた。その経験が、この緊張状態でも私を冷静に、そして嫌悪感に染めていくのがわかった。

「あ、その、一昨日の放課後だ。例のボヤ騒ぎがあったときだ。」

「はあ。」

「我々はボヤ騒ぎの対応に追われていて、監視が緩かった。そんな中、君が目撃された。」

「人違いということはありませんか?」

「そんなことはない!」

 どんとテーブルを叩いて威圧的な態度になったのは、まさかの顧問だった。

「お前を見た生徒がいた。証拠だってあるんだ。」

「はあ?」

 もはや、それしか言葉がでてこない。

 証拠というのがなんだかわからないが、この顧問が自分を疑うことはあってはならないはず。

「動画だ、お前がロッカールームに入り、ユニフォームをもって出ている場面は撮影されていたんだ。」

 自信満々に言う顧問に、私は目を丸くした。その反応に顧問は勝ち誇った顔になり、ジェレインは気まずそうに視線をそらした。まるで、あるはずのない証拠を出された犯人のように見えたのだろう。

 まあ、あるはずはないものが、あることにはおどろいたけれど。

「動画ですか?」

「そうだ、なんなら、みせて。」

「ボブ先生、落ち着いて。」

 慌ててカウンセラーの先生が顧問をなだめる。ジェレインは悲しそうな顔、ソーシャルワーカーの先生が冷静を装ってこちらを見る。

「こちらとしては、君が正直に話してくれれば、大事にはしたくない。ジェレイン君はその、なんだ人気のある生徒だからな。いぜんから私物がなくなることもあったわけだし。」

 なるほど、そういうことか。

 私は冷静に怒りを募らせながら、状況を理解しつつあった。

 どんなものか知らないが、動画という証拠があり、先生たちは私が盗難の犯人だと確信している。その上で、大事にしたくないから、自白させて内々に解決したいということだろう。

 

だが、私が犯人でないことは、私が知っている。


「私じゃないですよ。」

「とぼけるのもいい加減にしろ。」 

 顧問が必死になるのも分かる。部活動の時間での出来事ならば、顧問の監督責任にもつながる。おのずと部活動に関心の薄い彼の勤務態度も指摘される。それでいて、ジェレインは有名人であり有名校への推薦が決まった有望株。私にささっと謝罪させて、この話を終えたいのだろう。

 また、自分でも言うのもあれだが、私は地味な生徒だ。色々と問題が起きている中、そんな生徒によって騒ぎを大きくしたくないのだろう。

 それでも双方に事情を聞いて、時系列をはっきりさせるという大事な過程を無視して、犯人と決めつけることはいただけない。

 こういうのは、しかるべきところに訴えるべきだ。というのは、新聞部の変人部長の言葉だ。

(新聞部のあの子には感謝だな。)

 直前に取材を受けていたからこそ、録音という判断ができた。まるで探偵小説のような展開だが、誰が好き好んで冤罪の犯人なんてものをしないといけないのか。

 あとで、文句は言ってやろう。

 それは別として。

「とりあえず、昨日の放課後なら、私は犯人ではないですよ。それを証明できます。」

 勘違いなのか、悪意なのか、どちらにせよ。自分をハメようとした生徒や先生たちに、私は反撃を開始することにした。

 ミザリー・アンという生徒は変り者であるが、変り者には変り者としての強さがあるのだ。


 

 直前に色々経験していたせいで、図太くなっていたミザリー先輩。

 次回は、論破タイムです。

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キチンと調べれば判る雑な嘘を信じてしまって疑って掛かるのは悪手だろ
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