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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
緑の縁 2024 5月

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79 事件は起こっても、大抵の人には他人事だ。

 事態が動く?

 事件は起こっても、大抵の人には他人事だ。

 持ち物検査は粛々と受け入れられ、生徒たちは一時的な不自由をめんどくさがりながらも、ちょっとした非日常に興味を持っていた。

「手荷物検査で一限の授業は自習なるとかすごいよなー。」

「先生たちもめっちゃ疲れたし。」

 一番の理由は、予想以上に時間がかかってしまい一限目の授業が自習になったからなんだけど。


 ボヤ騒ぎのあと、生徒たちの反応は大きく3つに分かれた。

 一つは、文句を言いつつも気にしない生徒。大半の生徒がおまじない関連だと思いつつ余計なトラブルを避けるために、その話題を避けて大人しく日常を過ごそうとした。

 一つは、影響に不満を持つ生徒。事件の影響で活動を制限された化学クラブや、記事の変更のために忙しくなった僕たち新聞部などがそうだ。表立っておまじないとの関連を口にはしないけど、迷惑を掛けられたと思っているため、ふとした拍子で、誰があんな馬鹿な事をしたんだという話題が上がる。

 最後は、ごく一部、事件の真相を噂する生徒だ。表立って口にすることはないが、理科室でボヤ騒ぎを起こした生徒が誰なのか、持ち物の盗難をしたのは誰なのか探偵気取りで噂をする連中だ。根拠はなく目撃情報もない。当事者や関係者は身を守るために口を閉じているので、憶測や妄想に近い話をこそこそとしている。ごく一部であり、まともな思考をしていれば、そんな連中とは距離を取る。

「私、やっぱりあいつだと思うのよね。」

 そんなバカな生徒が1人。

「だってさあ、あんな地味なのが、ジェレイン先輩と知り合いって絶対おかしいもん。」

 派手な見た目に軽薄な物言い。ホラゲーなら真っ先に死にそうな女、おバカな方のサラである。

「でも、あの人、事件の次の日も登校してたって。」

「そんなのウソよ、うそ。欠席しているって嘘をついて犯人を誤魔化しているのよ。」

 断っておくが聞き耳を立てているわけじゃない。あいつと仲間の声がうるさいのだ。

「私、見たもん、あのメガネ、昨日は包帯を巻いて登校してたし、あのメガネが事件の日に理科室のほうへ行ったのを私は見たもん。」 

 うん、それはない。

「それに手芸部なんだから、緑の毛糸だって手に入るもん。」

「だからって、先輩の私物を持ち出せないって。」

「そこは、うまい事やったのよ。」

 どや顔で自分の推理(と言う名の妄想)を話すサラだが、それを間違っていることを僕は知っている。

 なぜなら、ボヤ騒ぎがあった日とあの時間、ミザリー・アン先輩は、学校の外の雑貨屋にいた。直接話した僕を含め、やり取りをした店員さんが彼女を目撃している以上、ボヤ騒ぎを起こしたのが彼女でないことはすぐに証明されるだろう。

 というか、救急車が呼ばれた時点で、先生たちも犯人はわかっているだろう。

「ミザリー・アンっていうんだっけ?たしかジェレイン先輩とは同じ小学校だったんでしょ。」

「そうそう、幼馴染って話らしいけど、あやしいよねー。」

 話がおかしな方向に流れた。

「でも、あのメガネとジェレイン先輩が一緒に歩いてたのを見たって噂もあるもん。」

「そうそう、部活の先輩が見たって、言ってたよ。」

 課題を進めつつ、そんな会話を聞き流しつつ、僕は噂の原理の面白さを考えていた。


 ジェレイン先輩に女性の影なんて噂は、おまじないの流行で流されたと思っていた。しかし、ボヤ騒ぎの一件で、おまじないは禁句となってしまい。ほとんどの生徒は噂話そのものを控えた。

 しかし、噂が娯楽である以上、それは形を変えて生き残っている。


 ジェレイン先輩には付き合っている女性がいる。

 そんな女性はありえない。ありえない女性とはだれか?

 ありえない女性なら、何か理由があるはず。

 もしかして悪い事をしているのではないか?

 悪い事といえば、あのおまじない?


 そんな連想ゲームが行われた結果、生まれたの噂。

 ミザリー先輩とジェレイン先輩がお付き合いをしており、そのきっかけは、ミザリー先輩が部活の備品を持ち出して「例のおまじない」をしていたから。そして、ミザリー先輩は理科室でおまじないをしようとして、失敗したから左腕をやけどした。 

「ふふん、みんなは気づいてないけど、私は気づいたもん。」

 それは、お前がバカなだけだ。

 クラスメイトが冷めた視線を向けていることに気づかないサラ。だが、その内容はどことなく信じたくなるリアリティがある。

 でも、それはでたらめだ。それに気づいている僕は少しだけ優越感を覚えた。 

 部活動に熱心なミザリー先輩や素のジェレイン先輩を見てしまった僕だからこそ気づける視点。逆に言えば、同じ小学校出身の部長や3年生などはこの状況を鼻で笑っているだろう。

 

 そんなわちゃわちゃして落ち着かない授業を終えた放課後、僕は、手芸部を訪ねていた。

「・・・ここ?」

「うん、ここだよ。」

 理由は取材半分、残り半分は、リーフさんに相談されたからだ。

「すいません、新聞部です。昨日、お願いしていた取材の件できたんですけど。」

「はい、どうぞ。」

 文科系のクラブが並ぶ部室棟。各部屋の大きさは7畳ほどだが、専用の建物があるのは珍しいことだ。うちの学校は公立学校のわりにクラブ活動が充実している。

「いらっしゃい・・・君か。」

「ど、どうも。」

 扉を開けて出迎えてくれたのは赤い眼鏡とくせっ毛が特徴的なミザリー先輩だった。後はテーブルに腰かける大人しそうな生徒が1人。事前に聞いていた新部長さんは彼女だろうか?

「てっきり、あいつが来るんだと思ったんだけど。」

「あいつ?ああ部長なら、今日はほかの部員を手伝っています。」

「あいつで通じるのもどうかと思うけど、まあ、はいって。ええっと。」

「ホーリーです。一年のホーリー・ヒジリです。」

「・・・リーフ・リドルです。」

「ああ、宜しく、私は3年のミザリー・アン。今日は新部長に頼まれて同席させてもらうよ。よろしく。」

 そう言って手芸道具が置かれたテーブルに案内してくれた。

「あ、あの。2年、ティム・レイと言います。部長です、一応。」

「よろしくお願いします、ティム先輩。」

「・・・よろしくお願いします。」

 緊張した様子のティム先輩に、僕たちは頭を下げる。赤系の髪をみつあみにした髪型にそばかす、どこか親しみを感じる容姿なのだけれどすごく緊張していた。

「この通り、あがり症なところがあってね。なにかあったときのフォローだよ。」

 うちの部長もそうだけど、引退した3年生が後輩をフォローするのはわりとあるのだろうか?

「ところでさあ、そっちの彼女、リーフさんだっけ?君も新聞部なの?」

「・・・違う。」

 さっそく取材と思ったら先に、リーフさんの存在が突っ込まれた。うん、先にそっちの用事を済ませたほうがいいだろう。

「リーフさん。」

「・・・うん。」

 僕に促され、リーフさんは鞄をごそごそといじり、布袋をとりだした。

「・・・これ直せませんか。」

 そう言って取り出されたものは、あみぐるみだった。デフォルメされた黒猫で、なかなかに愛らしいけど、耳の部分の毛糸がほどけて片耳になっていた。

「うわ、これは、去年販売したやつだ、確か部長が作ったやつだね。」

「ええ、ちょっとかわいそうなことに。」

「・・・うちのペットがかじってしまって。」

 ペットというのはもちろんエメルだ。いくつかあるあみぐるみは、あの毛玉のおもちゃになっており、黒猫は耳をカジカジされた結果、ほどけてしまったのだ。

「うーん、これなら。ちょっと時間をもらえるなら。」

「・・・お願いします。」

 リーフさんのお願いはそれだった。ミザリー先輩と会ったことを話した時、耳がほどけた黒猫ぬいぐるみがかわいそうだと、相談された。だから取材ついでにお願いをしてみることにしたのだ。

「ううん、大事にしてくれてありがとう。」

「・・・とても素敵。」

 リーフさん本人がついてくるとは思わなかったし、あっさりと受け入れてくれた手芸部の懐の深さにはびっくりしたけど。

「それもいいが、今日は新聞部の取材だったろ。直しながらでいいから話を聞いてあげないと。」

「はは、そうでした。」

 さっそく毛糸を物色しだしたティム部長さんをミザリー先輩が窘めた。ふと、その手に包帯がまかれていることが目についてしまった。

「あれ、そのケガって。」

「ああ、これ、恥ずかしい話、派手に転んでしまってね、縫うほどのケガだったらから、一週間ぐらいは安静にしろっていわれちゃった。」

「大変ですねー。」

「利き手じゃないのが幸いしたよ。」

 手首から肘にかけてしっかりと巻かれた包帯。ガチガチに固めてあるところをみるに結構なケガっぽい。ただ、指先はきれいなものだ。

 やはり、噂はデマだったんだな。


 その後は、あみぐるみのおかげで緊張の解けたティム部長さんは、こちらの質問にそつなく答えてくれた。手芸が好きなのか、専門的な話が長くなりそうなときは、ミザリー先輩がそれとなく止めてくれたので、30分程度の時間で色々な話が聞けた。普段の活動や展示会のお知らせ、製作物を地元のバザーに提供しているという話は初めて聞いた。

「・・・絶対行きます。」

 リーフさんが目をキラキラさせていたので、近いうちに行くことにはなるだろう。

「ちなみにさあ、あみぐるみのモチーフで少し悩んでるんだけど、2人はどんな動物があったらうれしい?」

「「ワニ?」」

 逆に意見を求められて、思わずワニと答えてしまったのはご愛敬ということで。


「・・・いい人達だったね。」

「そうだね。」

 黒猫を直してもらっただけでなくお土産まで持たされたリーフさんはゴキゲンだった。

「・・・今日は、ありがとう。」

「ううん、リーフさんが一緒だったおかげで、スムーズに話ができたと思う。こちらこそありがとう。」

 そんなことを言いながらほんわかした気持ちになる。なんだかんだ、リーフさんに付き合って色々しているのは楽しい。今日はいつもの取材よりも楽しかった。

 けれど、ちょっと怖いなと思うことがあった。

「・・・緑なかったね。」

「ああ、リーフさんも気づいた。だよね。」

 たまたまなのかもしれないけれど、手芸部の部室には緑色の作品が全くなかった。


 色々状況を整理したり、まいたりしていると、話が進まない・・・。

 次回こそ、話が進みます。


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