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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
緑の縁 2024 5月

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78 火遊びの代償は、わりと大きかった。

 新聞部は大ダメージでした。

 火遊びの代償は、わりと大きかったようだ。

「知っている者もいるだろうが、先日、校内でボヤ騒ぎがあった。合わせて連日の持ち物の紛失の件をあわせて、明日からしばらくは、持ち物検査を行うことが職員会議で決定した。」

 HRで全校生徒に向けてされた、お達しに僕は軽い恐怖を覚えた。

「言うまでもないが、校内に私物持ち込みは禁止されている。ゲーム機やスマホはもとより、女子の化粧品も事前に申請があるもの以外が禁止だ。」

 えー。というブーイングがいたるところで起こったが、これは仕方ないことだ。

「校内でボヤ騒ぎに、盗難だろ、仕方ないよ。」

「誰だよ、迷惑な。」

 先生たちはボカしていたけれど、この発端が「縁の緑(えにしのみどり)」に興味をもった誰かのやらかしであることは明らかだった。


 薬指に緑の毛糸を結び、相手の持ち物をしばる。

 相手と自分の名前を3度唱えながら、持ち物と指がくっつくまで糸をぐるぐると巻く。

 最後にそれを燃やす。

 これを誰にも見つからないように行う。

 糸の長さは任意だが、長ければ長いほど相手との縁が増えて仲が深まる。


 やけどをして欠席した生徒の噂は朝のバスから広がっていたので、情報はすぐに出回った。

 昨日の放課後、理科室出の出来事らしい。

 とある生徒がアルコールランプを使って火遊びをしていたら、誤ってやけどをし、ちょっとしたボヤ騒ぎになり消防車が呼ばれた。

 実行した生徒や相手の名前は明かされていないが、消防車と、救急車で運ばれた生徒を目撃したという生徒は多い。

 その生徒は火遊びと言っていたが、左手にやけどをおっていた。先生たち大人が詳細を語らなくても、詳細を知っている生徒たちなら、ボヤ騒ぎとおまじないを関連づけるだろう。

 しかし、これは仕方ない処置だ。食中毒を避けるために、映画館では飲食の持ち込みが禁止された。炎上した投稿がきっかけで、他の投稿の閲覧が制限されたSNSだってある。起こるかもしれないトラブルを防ぐには、締め付けを強くするしかない。そんなことを、僕らは身をもって勉強したのだ。

 

 遊びに本気になり過ぎた。 

 

 ストーリーや必然性を持たせるために表現が脚色されることがある。

例えば、「俺」の記憶では、日本では、Tagのことを「鬼ごっこ」といううらしい。ルールはTagと同じなのだが、タッチされた相手を「鬼」と呼び、鬼だから逃げるというストーリーがあるそうだ。

 けれど、もし「鬼」が成りきりすぎたり、タッチが強すぎたりしたらどうだろう?

 冷める。

 おまじないが流行った結果、持ち物の紛失が起こった。

 おなじないを試して火遊びでボヤ騒ぎが起きた。

 結果として、自分たちの学校生活が窮屈になってしまった。 


 喜々しておまじないを広めていた生徒や実際にしてみた生徒も今は顔を青くしているだろう。そうでなくても、みんなは、ごまかす様に「縁の緑(えにしのみどり)」や占い、おまじないなどの話題を避けるようになり、この件はそれ以上追求されなかった。


 そんなわけで、僕ら新聞部がやっていたおまじない特集は全没ということになった。

「まじで納得いかないです。」

「しょうがないだろ、この状況でおまじないの記事なんて、そもそも許可がおりないよ。」

 せっかくの取材が没になってしまったことで不貞腐れていた僕は、急遽新しい記事を書くために部長とともに各部の先輩たちへの取材に忙しかった。

「まあ、時期的に部活紹介の記事を前倒しにしても不自然じゃないのが救いだよなー。」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。何代か前の話らしいけど、同じような事件があって、記事が没になった所為で創部以来続いていた新聞の発行が途絶えかけたらしい。」

「別に途絶えてもいいんじゃないですか?」

「じゃあ、ホーリー君の判断でそうしちゃう?」

「・・・さあ、張り切って取材しましょう。」

 うん、自分の責任となったらいやだわ。今回の取材相手は興味があるしね。


「やーやー。新聞部も大変らしいねー。」

 指定されたのは体育館のロッカールーム。部活動の時間なので、人の出入りはあれど今は彼だけだ。

「ジェレイン。色々忙しいときに悪かったな。」

「別にいいよ。今日は練習はオフだし、部長とは長い付き合いだしね。」

 そう、今回の取材相手は、今をときめくスーパーヒーロー、ジェレイン先輩だ。何かと忙しい先輩だけど、なんと部長とは同じ小学校の出身で、そこそこの付き合いがあるそうだ。

「助かるよ。お前の進路とかバスケに駆ける思いをいつか、記事にしたいと思ってたんだ。」

 その縁もあり、ジェレイン先輩の取材は前々から約束していたことらしい。

 なお、部長に同行する部員を決めるときは激しい競争があったりなかったりした。

「そうなのか、てっきり、部長も例の件を聞きたいのかと。」

「ゴシップは趣味じゃない。」

「分かってる、部長のそういうところは信用してるよ。」

 何とも大人の会話をしている2人の横で黙々とメモを取る。今回の取材のメインは部長で僕はサブに徹する。それを守れるのが同行の条件だった。

「ええっと、そっちの子は?」

「1年のホーリー・ヒジリと言います。今日はお時間ありがとうございます。」

 だから、余計なことは言わない。

「あれー、君って・・・ああそうだ。よく黒髪の子と一緒にいるよね。背の高い子?」

「はあ。」

 ぼくと一緒に居る子といえば、リーフさんだ。長身な彼女は、髪の色もあって割と目立つので、知っていてもおかしくはないだろう。

「あのこ、かわいいよねー。なんというか、珍しいタイプだから覚えてたんだ。」

「ああ、まあ確かに彼女は美人と言えば、美人だと思いますけど。」

「その子、今度紹介してよ。」

「えっ?」

「冗談、冗談。よく図書館にもいるから覚えていただけだよ。」

 びっくりした。

 話で聞くジェレイン先輩のイメージと違う。先輩といえば、ストイックなスポーツマンで、女性と冗談が嫌いな生真面目な人だ。それに惹かれて、告白して玉砕した女子生徒は多いとも聞く。

「こいつ、男にはこんな感じに軽いんだよ。ジェレイン、ピュアな後輩をからかうな。ホーリーの機嫌を損ねると色々と怖いぞ。」

「そ、そんなことないですよ。」

 部長は、レイモンド叔父さんのことを知っている。だから、怖いという評価は、部長がレポーターを目指すために愛読している、レイモンド叔父の無駄な行動力溢れる新聞記事によるものだ。

 あの変人フリーダムと一緒にされるのは、なんか嫌だなー。

「部長がそんな風に言うなんて珍しいね。ホーリー君、新聞部ならこいつの変態っぷりは知ってるだろ?」

「ええ、まあ。」

 なんだかんだん、癖が強いですよねー、部長も。

「お前、鏡を見たことがあるか?」

「ごめんて。」

 なんだかんだ、気の置けない関係というやつなんだろう。その後も、和やかに話しつつも、部長はいい感じにジェレイン先輩の来歴や練習メニュー、将来の展望などを巧みに聞き出した。それは実に見事なもので、僕が記事を書きやすいように会話を誘導しつつ、ジェレイン先輩が余計なことを言わないように言葉を選び、いい感じにコントロールしていた。 

 その手腕は、中学生とは思えないほど巧みであり、何とも変態的だった。

「すごいですね、あんなに癖の強そうな人から、これだけの情報を引き出すなんて。」

「何事も経験だよ。まあ、ジェレインとは長い付き合いってのもあるけど。うん、いい感じにメモがとれてるよ。このまま記事も任せるよ、ホーリー君。」

 ぼくのメモを見ながら部長は気負った様子はなかった。そんなところもカッコイイと思う。後に2年でこのレベルに達せられるとは思えない。

「うちはクラブの中でも特殊だからね。ホーリー君もすぐに慣れるさあ。」

 こうやって人の考えを読むのが怖いんですよ。あと、変態なのは部長だけで、他の人はいたって健全に部活動をして、今回の記事変更に悲鳴をあげています。

「でさあ、話は変わるんだけど。」

 そして、話を聞かないマイペースっぷり。僕の周りはこんな人ばっかりだ。

「ジェレインのことだけどさあ。」

「はい、余計なことは言いませんし、記事にはしませんよ。」

 その忠告は言われるまでもない。記事にするのは、取材で聞いたジェレイン先輩の普段の姿であって、軽そうな性格や、女子に興味を持っていたことは記事にはしない。

「うん、それはそうなんだけどね。」

 言葉を区切り、ちらっとロッカールームの方をふりかえってから部長は、顔をよせて小声でつぶやく。

「あいつ、性格クッソ悪いから、彼女さんに近づけないように気を付けた方がいいよ。」

「えっ?それって。」

「わざわざ、覚えていたってのがね。」

 それだけ言って、また歩き出してしまった部長。何とも芝居がかっているけど、これでも平常運転だ。

「さあ、張り切って記事にしてねー。俺は引退しているから手伝うのはここまでってことで。」

 文化部に引退もくそもないと思うのですが。

「部長・・・。」

「だから、もう部長じゃないって。」

「推敲と名義貸しはしてくれるって言ったじゃないですか。あと取材は数件残ってます。」

「・・・引退した人間をいつまでも使わないでほしいなー。」

 実は代替わりは済んでいて、部長は引退している。

 だが、この思わせぶりな態度と変人プリのせいで、この人はいつまでも部長と呼ばれ続けるんだろう。というのが新聞部の一同に共通する部長への評価です。 

 そんな部長の謎めいた言葉。それに従うまでもなく。

「あんな有名人に関わりたいとは思いませんって。」

「だよねー、ホーリー君ならそう言うよね。」

 部長はそれ以上は何も教えてくれなかった。

 知らぬが仏、というのは「俺」の記憶にあるけど、まさにそんな感じだ。


 だから、ジェレイン先輩の記事を書き上げても、発行者は部長の名前にしておいた。

 我ながら、賢明な判断だったと思う。

新聞部部員 『取材が、全没って、いやああああああ。』

学校ではないですが、社会情勢の所為で、長年のプランが全没になったことがあるのですが、あのときは本当につらかった・・・。

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― 新着の感想 ―
猫の皮の分厚いジョック系(ホラー作品でタブー破るコトで事件が始まる起点になるヤツ)だったか
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