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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
緑の縁 2024 5月

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77 それはまったくの偶然ではあるが、別におかしなではなかった。

 ネタとの遭遇

 それはまったくの偶然であり、別におかしなではなかった。

「なに、私に何か用?」

 ぼさぼさの髪に大きな赤い眼鏡。抱えている紙袋には、大量の毛糸で、一番上の色は緑。

 学校近くの雑貨屋さんで遭遇した先輩の姿は、僕にとってはタイムリー過ぎる状態だった。

「い、いえ、この時期に毛糸って何に使うんだろうなって思いまして。手芸部の備品ですか?」

 頑張れ、僕。トラブルで情報を得てこその新聞記者だ。


 放課後の部活動。じゃんけんに負けた僕は雑貨屋さんに新聞部の備品を受け取るお使いに来ていた。学業の延長である部活動の多くは、学校の備品や代々受け継がれてきたものを使っている。一方で生徒に経験を積ませるために、文房具などの消耗品などは、雑貨屋に注文して生徒が受け取ることが推奨されている。だから放課後のこの店に、学生が珍しいことじゃない。

 それでも、注目(僕が勝手にしている)人が、うわさの緑色を持って出てきたら、思わず注目してしまうのは、仕方ない事じゃないだろうか?


 むしろ、とっさに手芸部という言葉がでたのがえらくない?

「そうよ。」

「でも、今って5月ですよね。セーターとかマフラーは暑くないですか?」

「冬に向けて、今から作るのよ。」

 やや不機嫌そうな対応に、僕は自分が名乗っていないことに気づいて。

「す、すいません、僕、新聞部のホーリーって言います。最近、部活動紹介の記事を練習で書いていたんです。それで気になってしまって、すいません。」

「新聞部、ああ、そう言えば、取材に来てたね。次年度に向けて2年生に色々聞く時期なんだっけ?」

「はい。」

 嘘ではない。4月から5月のオフシーズンに合わせて部活動の代替わりが行われるはうちの学校の特徴だ。だから新聞部である僕が部活動に興味をもつことはおかしなことじゃない。

「てっきり、これが気になったのかと思ったわ。」

 しかし、女生徒は紙袋の緑に視線を向けながら、そんなことを言ってきた。

「えっ?なんでですか?」

「そうなの、緑色の毛糸に興味があったりするんじゃないの?」

「えっ。」

「ぷっ。」

 思いがけない言葉に、反応が遅れる僕に、先輩は吹き出した。

「もうちょっと、取り繕うことを覚えたほうがいいよ。新聞記者さん。」

 うう、これは恥ずかしい。イレギュラー、いやタイムリーな出来事すぎて露骨な反応をしてしまった。

「一応伝えておくと、9月の新人勧誘のための展示用の作品を作るための毛糸だよ、これは。」

「ああ、あみぐるみですよね。あれ、友達がいくつも買ってました。今年はワニのあみぐるみが欲しいって、よく話してます。」

「ワニ?それは面白そうね。」

 入学オリエンテーションの時に販売していたあみぐるみ。リーフさんがいくつも買っていたので覚えている。新入生を含め在校生にも人気で、結構な数があった。あれだけの数を用意するとなれば今から準備しないといけないんだろう。

「だから、これは事前に予約注文していた分。流行りに乗じて緑色を買い込んでいるわけじゃないから。むしろ、売り切れ状態だからって、他の色に置き換えて、緑色は少ししかないわ。」

「へえ、緑はやっぱり流行ってるんですね。」

「うん、緑色の毛糸の人気はすごいみたいだよ。」 

 噂では、どのお店も売り切れ状態で、入荷待ちらしい。もちろん原因は。

「燃やす目的ってのが気に入らない。毛糸だってただじゃないってのに。」

「一玉で2ドルはしますもんねー。」

「なめないで、うちの部活で使っているのは羊毛よ。コットンのもいいけど、あみぐるみには羊毛というのが、うちの伝統なの。」

「本格的ですね。値段だって5倍以上だったはず。」

 アクリルなどの化学繊維の毛糸が一玉2ドルに対して、羊毛やコットンなどの自然素材は5倍10ドル以上すると聞く。練習はアクリルで、作業はいい物を使うというのが一般的らしい。

「詳しいね。君。」

 こればかりは、例の噂について調べて得た知識だけど。物の価値を知っておくと態度に現れ信用につながる。

「あっすいません。時間をとってしまって、色々聞かせてくれてありがとうございます。」

「うん、別にいいよ。わたしとしても、おまじないにハマった頭の軽い人って思われたくないし。」

 これは、手芸部ということで、色々あったのかもしれない。

 例のおまじないで必要なものは、相手の私物と、緑の毛糸だ。毛糸はお店で買える、けれど今の品薄状態で手に入らないとなるとどうなるだろう?家にある毛糸を探す、あるいは知り合いに融通してもらう。

「うん、余計なことを言わないあたりはさすがは新聞部だね。部長さんもそうだけど人間ができてるよねー。それじゃ、私も部活動があるから。」

 お察しな部分に踏み込むのはやめておこう。

 最初の不機嫌な様子から、幾分マシになったようだけどまだまだ不穏な気配がする。学校へと戻っていくミザリー・アン先輩を見送りながら僕は、思った以上に「おまじない」が深刻なのだと察した。


 その翌日、ホームルームでは、校内で持ち物紛失は起こっていること、学内での火遊びをしていた生徒がいたことによる生活習慣への注意喚起が行われた。

「火遊び?」

「花火でもしたんじゃない?」

 生徒たちは、その注意に対してとぼけた様子で、首をかしげていたけど。例のおまじないをしようとした生徒がいたんだと、ほとんどが思ったことだろう。

「まずいなー。エスカレートしている。」

 別に僕が困るようなことにはならない。自分でやろうとは思わないし、僕がおまじないの対象になることもないだろう。 

 けれど、持ち物が紛失、つまり盗まれる可能性があるとなれば、みんなは警戒するし、なにより。

「おい、俺のペンがない。」

「私のハンカチが。誰よ。」

 ちょっとした忘れ物や、勘違いにみんなが過剰に反応し、

「おい誰だよ。」「あ、こいつがもてたぞ。」

 犯人捜しがはじまる。

 

 そうなると、落とし物を届けるのも怖い。他人の持ち物をもっているだけで、揶揄われたり、疑われたりするので、落ちてるものを拾うのもためらってしまう。それでいて、落とし物を誰にも拾ってもらえないことが地味にダメージがある。

 

 そんな混乱は、静かに、それでいて確実に校内に広がり、気づけば学校はおまじないの話題で持ちきりになっていた。そんなわけで、ジェレイン先輩の密会の噂は収まり、一部のファンが相手を探す程度におさまっていた。

 人のうわさもなんとやら、噂も流行りもそのうち流れていくだろう。

 この時の僕はそう楽観していた。



 5月に代替わりというのは、本作のオリジナル設定です。

 アメリカの部活動は3か月ごとに、春、秋 冬のシーズンがあり、シーズンごとに違うスポーツクラブを掛け持ちしている人もいます。

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― 新着の感想 ―
この状況下だと盗んで嫉妬対象のロッカーやバックにしのばせて冤罪擦り付けやらかすヤツでそう
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