73 女の子は噂話が大好きだ。
徐々に広がるが、噂は噂。
女の子は噂話が大好きだ。
というのは、男の子としては赤点らしい。
好きにも色々あって、噂を聞くのが好きなタイプと噂を話すのが好きなタイプ。そして、噂の中心になりたいタイプがいる。前者二つは、おしゃべりが好き、後者は噂話をしたり、されたりして、注目される自分が好きなのだ。
新聞を書くなら、そこを正しく見抜かないといけないぞ。とレイモンド叔父さんが言っていた。
そんなこと言われなくても分かる。僕のような小市民はそういうのを見極めて無難に立ち回れるかどうかが、死活問題なのだ。
「そういえばさあ、シェイファの話。」
「ああ、あれねー。ありえないと思ってたけどマジだったよ。」
「シェイファ?サラ・シェイファーさんの事?」
「「そうそう、あのシェイファ。」」
口をそろえてニンマリと笑うのは、リンダさんにサラさん。リーフさんとはすっかり仲良しの文芸部の女子だ。本を読むのも好きな2人は、それ以上に語りたがり、やや世情に疎いリーフさんは素直な反応をする聞き上手。どこかで仕入れた話や新作の話について3人が盛り上がっているのはよく見る光景だ。
「あいつ、バスケ部のジェイレン先輩に告ったんだって。」
「無謀だよねー。」
「ええっと、ジェイレン先輩って、この前の集会でスピーチしてた。」
「そうそう、そのジェイレン先輩。卒業したら私立へ進学するって秀才様。」
アメリカの義務教育は、18歳で高校卒業まで。基本的には地元の学校へ通い、卒業後の進路として大学や就職などがある。が、中学や高校で、私立高へと転学をする生徒がたまにいる。理由は、家の経済事情だったり、本人の実力だったりと色々あるけど、エリートなのは間違いない。
ジェイレン先輩は3年生、バスケ部のキャプテンを務めていたし、成績も優秀。何よりが顔がいい。それでいて、浮いた噂のない爽やかな性格で男女問わず人気のある有名人だ。僕も新聞部として取材をさせてもらったことがある。
「・・・無謀。」
同時に、身持ちが固いことでも有名だ。高スペックで性格もいいジェイレン先輩は当然のようにモテる。ファンとして追っかけをしている子もいれば、告白されたことも多いらしい。だが、バスケットボールに集中したいと、宣言して、告白はNG、ファンへの対応はクールなものとなっている。生意気と思う男子もいるらしいけど、本人のストイックさを知る人からすると、醜い嫉妬でしかない。
素敵なアイドルだけど塩すぎる。遠目に愛でるのがちょうどいい。女子たちの評価はそんな感じである。ゆえに、告白=無謀と言われているのだ。
「サラって無謀が服を着ている感じだと思ってたけど、まさかジェイレン先輩に告るとか。」
「ないわー。」
「・・・勝ち目がないのに。」
サラ・シェイファーと言えば、ずいぶんと懐かしい名前だと思う。中学の入学の日に、リーフさんにダル絡みして、返り討ちにあった子だ。クラスメイトの名前をほぼ憶えていたリーフさんに存在を忘れられたことがよほどショックだったのか、見れば逃げ出すような子だ。
そんな彼女だが。派手な見た目もあって男子からはそこそこモテる。もっとも、顔はいいが、頭は残念。付き合っても数ヶ月、いや一か月ともたずに別れているそうだ。
何で知ってるかって?ことあるごとに噂が流れるからだ。ちょっと悪意を感じるレベルで。
それでも思春期の微妙な男女の中で、積極的に男子に声をかける彼女は、いたいけな男子からは魅力的に感じるらしく、彼女に好感を持っている男子生徒は多い。だからこそ、恋多き女、彼女の真心を手に入れると舞い上がり、地に落ちる男子も割といる。ある意味で魔性の女(笑)である。
それを勘違いして、ジェイレン先輩に告るというのはあまりに無謀だ。
「逆に尊敬するよね。」
「「うんうん。」」
なんともスキャンダルな話だけど、新聞には使えそうにない。
そんな感じにジェイレン先輩は話題に事欠かない人である。将来はNBAも夢じゃないと言われる彼だ。それだけ人気もあるし注目も集まる。それこそ、男子に興味のうすいリーフさんも彼のことは知っているレベルだ。
「・・・そういえば、彼、昨日図書室で女の子と楽し気に話してたよ。」
「はっ?」「まじ?」
これには僕も声をあげそうになる。リーフさんが覚えていたことも驚きだが、ジェイレン先輩が特定の女子と親しく話すという場面は、UMA並にありえない光景だ。
「うん、なんか本の話で盛り上がってた。」
少しだけ得意げなのは、自分が話題の提供者になったからだろう。いつものようにマイペースな口調ながら、機嫌よさげだった。
「相手の子はだれかはわからないけど、たぶん先輩、身長は先輩よりも頭一つ低いぐらい。顔を赤くして見上げている感じがちょっとかわいかった。」
「いやー、それって偶然じゃない?」
「ジェイレン先輩って、塩対応だけど、普通には会話するじゃん。」
「・・・手をつないでても?」
シーン。
その爆弾は、僕たちだけでなく、近くにいた他の生徒たちも凍り付かせた。
「テーブルで向かい合いながら、ずっと手を繋いでた。あれはかなりの仲良しだと思う。」
「写真は?動画とかないの?」
「・・・なんで?」
うん、僕もその場面に出くわしたら写真をとっていたと思う。そこで、見ているだけで、特別騒がないのもリーフさんらしい。
「いやー、ちょっとそれ、図書館?今日もいたりするのかな?」
「・・・結構遅い時間だった。閉館ギリギリ。」
「よし、今日の部活は張り切っちゃうぞー。」
これは、放課後まで図書室にいるための口実だな・・・。
まあ、リンダさんもサラさんも、人の嫌がることをするようなタイプではない。噂の真偽はともかく、この話題がトラブルにつながることはないだろう。
新聞部としては興味があるけど、人の色恋をネタにしていいのは、芸能人だけだ。僕としては、後日話を聞かせてもらえばいいし。
それはそれとして、何で僕はここにいるんだろう?女子に囲まれて羨ましいだろとからかわれるけど、会話のペースが早すぎて居心地が悪すぎる。
そんなランチタイムの会話の後、僕は放課後の図書館に来ていた。
「なぜ?」
「そりゃ、ホーリー君も聞いてたんだから当事者でしょ。」
「そうそう、あそこまで聞いてたなら付き合いなさいよ。」
「・・・一緒に帰る約束した。」
うん、3人に拉致られただけです。断ったらあとが怖い。
けれど、あの話の真偽を確かめるのはもっと怖い。
閉館ギリギリの図書館の扉を、3人に盾にされるように、そっと開けるのだった。
ランチタイムの愉快な会話、ホーリー君は終始無言でした。
また、
ホーリー君は過去にシャイファに半ギレしたことを忘れてます。
友人のサラ&リンダ。意地悪な子のサラ・シェイファ。名前被ってて分かりずらいかもしません。ストーリーの関係もあるんですけど、申し訳ない。




