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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD4 2024 3月

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71 ベアーハザード2

 エメルさん視点のクマとの遭遇

 走る乗り物から飛び降りるというのは、エメルにとっては慣れたものだ。そこから主の気配を探しつつ気まぐれに散歩をする自分が、街ではちょっとした名物になっていることを、エメルは自覚していない。

「バウ?」

 しばし街を歩いたときに、エメルは違和感に気づく。夕暮れの近づく街、いつもならそれなりの人通りがあり、エメルに群がる子どもなどがいるのだが、今日に限っては誰もいない。

 なんなら、自分のように小さな気配も圧倒的に少ない。いなくなったというわけでなく、そのほとんどが建物や木々の間に隠れている。

「ばうーー。」

 夕暮れの通りは物悲しく恐ろしいものだが、エメルや一部の動物からすると安心する時間だ。薄暗い中にもたくさんの気配があるはず。

 そんな疑念を抱きつつも、主の元へ向かうという目的を果たすべく、エメルは通りを駆けていく。普段ならば人目を避けて隙間を縫うように走り回るが、今日は堂々とわが物顔で駆け抜ける。見る人が見れば、それでも愛らしい毛玉にしか見えない。

「ぐるるるる。」

 周囲に生き物の気配がないなか、よそから迷い込んだクマには手ごろな獲物に見えた。山での騒動から残飯やゴミなど人里にしかない餌は美味いが、獲物を追い、狩って食するというのは、クマの本能に根差した欲求でもあった。だからこそ、獲物を求めてさまよっていたし、まだ遠くにある獲物の気配も目ざとくとらえて狙いを定めた。

 クマの執念とは恐ろしい。一度獲物と見定めた相手は何十キロと離れても追いかけるし、その速力は時速40キロを超えるという。それでいて夕暮れの闇に紛れた熊の存在は、建物に避難する人々の目には留まらない。

「バウ?」

 エメルがそれに気づいたとき、熊はその視界にエメルの瞳をしっかりと捉えていた。距離にして10メートル、獲物に向かって駆け出してきた熊からすると一瞬で届く場所。大きく口を開けてそのまま・・・。

「バウ!」

 いつもと違う空気に浮かれてたと反省する。目の前に迫る大きな気配は、間抜けだが無視してはいけない気配だった。


 ぐしゃ。


「ばうーー。」

 エメルは強く反省した。自分の迂闊な行動により面倒な相手を引き寄せたうえに、目立ってしまった。

 なんてことのない相手だとはいえ、目立った行動をすれば主に迷惑がかかる。主は気にしないだろうが、特に主の近くにいる2頭のオスは、自分の実力を疑っている様子すらある。自分が強い存在であると知れば、距離を置こうとするかもしれない。そして主はそれをきっと望まない。

「バウ。」

 目のまえで伸びている獲物。その存在はかなり大きい。

 仕留めたと同時に戻ってくる小さな気配達の様子から察するに、今日の異常はこの獲物によって引き起こされたのだと、エメルは今更ながら理解した。魅力的であり、食い出はありそうだが、食べてしまうと更なる騒ぎになりそうだ。

 主の周りやこの周辺に住む存在は、脅威を恐れる。エメルが寝床としているラルフなどは、見えない(ラルフがそう思っている)場所に、なにやら物騒なものを隠しているし、連れ立っている男も同じように武器を持っている。それは恐怖の裏返しだ。そして臆病な存在を刺激しないのもエメルのような強い者の役割だ。

「バウ。」

 仕方ない。

 そう思ったエメルは、倒れる獲物に近づいて、大きく口を開ける。そして、手近な場所に放り投げた。


 がん。


 先ほどまでの静けさを打ち破るような轟音があたりに響き、建物に明かりがつく。やがては赤色の光を灯した乗り物でオスたちが群がってくるだろう。

「・・・ばう。」

 最後にちらりと得物を見る。とても大きくおいしそうだった。主たちのくれるゴハンも美味しいが新鮮で大きな肉を食べたいという欲求に後ろの毛が引っ張られる。が、ここで本能のままにむさぼるのは、自分のような強い存在には、恥ずかしいことだ。

 そう言い聞かして、エメルは人々が集まる前に、その場を離れた。

「バウ。」 

 少しだけかじった肉の味が口に残り、ちょっともったいないと思ったのは内緒だ。



 とある日の朝刊の一面より。


 先日未明より発生したクマ騒動は、各所の協力のもと一晩で無事に終結した。

 隣町であるバークルでの目撃情報とその後の痕跡。これらの情報をもとにクマが街に侵入したと判断した警察署長クリス氏は、各所と連携して注意喚起をおこない、即座に敷かれた警戒態勢のおかげで人的被害をださなかったことで高く評価されている。

 当社の調査によると、野生のクマが街に入り込んだのは18年ぶりであり、当時は数人の被害者がでていた。時代の進歩もあるが、曖昧な情報から即座に判断を下したクリス所長以下、関係者の迅速の対応に感謝したい。(詳細は生活欄)


 生活欄より抜粋

 街に入り込んだクマは、全部で3頭。冬眠前の空腹な状態でもないのに人里にまで降りてくるのは非常に珍しい事だ。サイズの差から家族かと思われていたが、3体はバラバラの場所で発見された。

 まず、街の北東部の公園で発見された個体は、仲間と争ったのか、腹部に大きな穴が開いており内臓のほとんどは消失していた。発見されたときには、カラスなどが群がり周囲には異臭が漂っていたそうだ。

 2体目は、パトロール中の警官によってその場で射殺された。住宅街での発砲ということで一部からは批判の声が上がっているが、射撃を行ったローガン刑事の迅速な対応により建物への被害はほぼなく、周辺のゴミ捨て場が荒らされた程度の被害に収まった。

 もっとも不運なクマは3体目だろう。

 3体目が発見されたのは、スーパーマーケットの駐車場。仕入れ用の大型トラックに激突したと思われる個体は不運なことに、崩れた荷台にそのまま頭を潰されてしまい、頭のない状態で夜明けに発見されたらしい。現場検証の結果から、なにかを追っていたと思われるが、結構な速さで激突したと思われるらしく荷台のコンテナは大きくへこみ、修理は絶望的とのこと。

 街中の人間が避難、または警戒するという異常事態になりながらも、人的被害は0、建物などへの被害はわずかなものであった。その発表通り、一晩明けた今、街はいつもの日常を取り戻している。

 しかしながら、季節外れのクマたちの行動には疑問が多く、動物学者や獣医などはこの一件に興味をもって原因究明に動き出している。

 クマが気の毒と思わなくもないが、山から出てきた野生動物の被害は無視できるものではなく、動物との共存はいつの日かまた、課題となるだろう。

 なんだかんだ怖い生き物で、マスコットなエメルさんでした。

 閑話はこのくらいで、次回から新章。季節は5月、ホーリーとリーフの関係も進展、するといいなー。


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― 新着の感想 ―
コレ今回は普通の熊だったのか、少し前の遊園地ネズミリドルはキチンと全滅したなら良いけど
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