69 その人が話しかけてきたのは当然と言えば当然だった。
引き続きまったり遊園地回です。
その人が話しかけてきたのは当然と言えば当然だった。
「少年、その素敵な頭の飾りは、どこで買ったのかな?」
「はい?」
コースターへの順番待ちの列で並ぶ僕たちに話しかけたお兄さん。いきなり話しかけられたこともそうだけど、その恰好にも驚いた。
全身を覆う濃緑のマントに顔には、どくろをデフォルメしたお面。怪しいが、どこか飄々とした態度はまるで漫画の世界のキャラクターだった。アシストンバレーにこんなキャラクターはいなかったと思うけど。
「ああ、すまない、急にこんな格好の男が話しかけたら驚くよな。この格好はあれだ、趣味兼仕事着みたいなものだからきにしないでくれるとありがたい。」
僕らの警戒心が伝わったのかお兄さんは両手を上げる。害のないアピールっぽいけど、あげた手もマントに隠れていて見えない。
「・・・死神?」
「ははは、よく言われる。けど違う。どちらかというとお化けとかそういう類だから。あれだ、僕はしがない動画配信者ってやつ、この格好はキャラ付けだから。」
「怪しい。」
「うんうん、そうだよね。」
真っ先に浮かんだ感想を口にしたリーフさんの言動に、お兄さんはけらけらと笑う。なかなかのメンタルさんみたいだ。
「僕は、世界中を旅して、その様子を配信しているんだ。アッ今は撮影のための下見だから撮影してないから安心してくれ。あと、遊園地内での撮影許可もちゃんととってあるから。」
「動画配信者?撮影?」
「ほら、ルーザーさんみたいな人のことだよ。」
「・・・なるほど。」
リーフさんが困惑するのも無理がない。ぼくだって、びっくりしていた。
動画配信者というのは、ネットの海にたくさんいる。このお兄さんのように仮装をして配信をしている人もいるけれど、実際に仮装して観光するタイプというのは珍しいのではないだろうか?
「ああ、そうそう、僕は、ストレンジグリーンって名前で各地を観光しているんだ。弱小だから知らないと思うけど。怪しいけど、怪しくないよ。グリーンさんとでも呼んでくれたまえ。」
怪しい、かなり怪しい。怪しすぎて逆に信用できてしまう。それがグリーンさんだった。
「ええっと、このワニヘッドのことですよね?」
「そうそう、いいね、君。なんだかんだ話をしっかり聞けてるのはすごいよ。」
自分の姿に自覚があるらしく、戸惑いつつ、質問に答えようとした僕に、グリーンさんはゴキゲンだ。
「これは、新アトラクションである、アリゲルラビリンスの近くにあるお土産さんで売ってましたよ。」
「つまり、現地で買ったのかスゴイな君。」
うん、僕もそう思います。
ここに来るまでの間にすれ違う人のほとんどが足を止めて僕やラルフさんのことを見ていたよ・・・。
「うんうん、新アトラクションに向けて、ワニグッズは増えているって聞いたけど、これは映えそうだね。」
「ああ、でも結構お高いですよ。」
「マジ?」
そっと値段を教えたら、流石にひいていた。
「うん、そっちの彼女のやつにしようかなー、でも、映えを狙うなら・・・。」
その後、色々悩んでいたグリーンさんだったけど、その後はあっさりと去っていた。
「ありがとう、参考になったよ。」
最後に御礼を言ってたし、悪い人じゃないんだろう。今度見かけたら、チャンネル登録と高評価をしようと思うぐらいには愉快な人だった。
「・・・変な人だったね。」
「うん、そうだね。」
僕らも大概だどね。迷路でテンションがあがったリーフさんは、ワニキャップだけでは飽き足らすぬいぐるみなワニの手袋を装備し、ピンバッチとかもつけている。対する僕は、リアルなワニヘッドに、グリーン系のセーター。うん、宣伝塔?と言われも納得してしまいそうだ。
それでも自分たちが浮いていないのはここがテーマパークだからだろう。僕たちほどじゃないけど、グッズで仮装している人がたくさんいた。バッチなどの小さなものから、耳付きキャップやお面など、いろんな恰好の人がいる。
「なんだかイースターみたいだね。」
「たしかに。」
事故によるネガティブなイメージを払拭するためとはいえ、なかなかに力のこもったキャンペーンだと思う。レイモンド叔父さんの話では、グッズの値段は相場よりもかなり抑えてあるらしい。けど気軽に買えるものではない。
それでも買ってしまうのがテーマパークの恐ろしいところだ。
「こういう非日常感こそが、遊園地の楽しさだからね。」
コースターから戻るとベンチで待っていたラルフさんがそんなことを言っていた。
いや、待って。
「・・・ラルフ、面白い。」
やめてリーフさん、笑うしかないじゃん。
ベンチでゆるりとくつろぐラルフさんは、リーフさんにねだられてリアルワニヘッドと、手足にリアルワニの手袋と飾りをつけていた。背もたれに両腕を預け、首にエメルを巻いた状態でくつろぐ姿は、どこのラスボスだよって貫禄があった。
ワニを擬人化したら、きっとこうなるに違いない。なんなら歩いている人が一瞬、びくっとなるくらいの迫力がある。
「・・・恐怖ワニ男。」
「ぶはああ。」
だめだ、面白すぎる。休んでいるからから、少しうつむき気味なのでワニの頭しか見えないのが面白すぎる。
「リーフ君、写真を撮らないでくれ。いや待て、なぜ操作している、どこに送ろうとしている。」
「ルーザーさん。きっと喜ぶ。」
「やめてーーー。」
慌てて立ち上がったラルフさんに、近くのちびっ子が悲鳴をあげ、なぜか拍手までおこった。
「・・・もう送った。大好評。」
にやりと笑うリーフさんにがっくりするラルフさん。思わずその様子を写真にとり、グループチャットに投稿したら、先んじて投稿されていたリーフさん撮影の写真とともに、レイモンド叔父さん達と即座に共有された。
リーフ「恐怖ワニ男」
ルーザー「なにこれ、最高」
ロビン「更なる情報を求むWW]
レイモンド「特ダネだな。遊園地の広告に使えそうだ。」
ホーリー「ワニ男敗れる。」
ルーザー「WWWW,お腹痛い。」
うん、こういうのって楽しいな。
「はあ、そんなに変? なんかさっき、一緒に動画を撮りませんかって誘われたから、かっこいいのかなって、うん、これは笑う・・・。」
かっこいいと思ってたんですか、あなた。そして、きっと、その相手もグリーンさんに違いない。あの人からすると理想のインパクトだし。
その後も連れだって歩いていた僕たちは注目を集めまくり、ふらりと現れたマルケットオーナーに拝み倒されて、宣伝用の写真撮影に協力したり、そのお礼に招待券をもらったりと色々と愉快な事になったけど、なんとも面白い一日となった。
ワニグッズは、しばらくの間、ラルフさんの家に大事に飾られ、話を聞いたルーザーさん達が同じものを買い求めてアシストンバレーへ遊びにいくきっかけとなった。
同じようなお客は多く、アリゲル君をプッシュしたキャンペーンにより、アシストンバレーは近年でも
トップクラスの来場者数を誇った。
「なにが流行るかわからないものだね。」
記念に贈られた宣材写真を目に、ラルフさんが微妙な顔をし、僕たちはそれを見るたびに、声を上げて笑うのだった。
マルケット「ワニキャラがバズッた、やったぜ。」
ラルフ「恥ずかしい。」
ストレンジグリーン「ついでに僕の動画も再生数が伸びました。」
フラグのようで、フラグじゃない。




