67 遊園地の楽しみ方は、人それぞれだ。
ずいぶんと殺伐とした内容が続いたので、ちょっとだけ平和な回。少年少女の微笑ましい交流です。
遊園地の楽しみ方は、人それぞれだ。
まったりと行き当たりばったりに、乗り物を選んで、ショーを見る。オーソドックスな楽しみ方から、混雑やショーの時間を調べてチャートを組んで効率的に動くRTAな上級者。遊園地のオブジェクトやお土産さんを見ながら、ご当地でグッズで自分たちを着飾るなんて楽しみ方もある。
あとは、ハロウィンとかクリスマスみたいに季節限定イベントとかアトラクションを楽しむなんてこともある。
「で、これは、どういった楽しみかたなんだい?」
「さあ?」
リアルなワニの頭を模した帽子をかぶりながら僕とラルフさんは、困惑していた。サイズもデザインもリアルなそれは、本物のワニを被っているようなものだ。しかし、身長差ゆえに下から見上げるラルフさんは、つばの長すぎる帽子をかぶっているようにしか見えなかった。
「・・・ぷ、似合ってる、ぷぷ。」
「いやいや、笑ってるじゃん。」
「・・・かっこいいよ。」
うん、これはひどい。でも外そうとすると悲しそうな顔をするから外せないんだ。
僕たちは週末を利用して、アシストンバレーに遊びに来ていた。事故の影響もあり前回よりも人の数は少なかったけど、新聞で見たとおり施設にはなんら影響はなく、むしろ期間限定キャンペーンをしているアトラクションはいつもよりも人気らしい。
そのキャンペーン中のアトラクションというのは、アリゲルラビリンス。園内にある動物園の人気ワニ、アリゲル君をモチーフとした迷路で、ところどころにワニを模したオブジェクトが置かれた迷路だ。
最近はこのアトラクションのPRキャンペーンとして、挑戦者には、ワニをモチーフにしたグッズを付けることが推奨されている。お土産屋さんでは、デフォルメされたキャップやピンバッチなどの他、ぬいぐるみやリアルなフイギュアなどワニをモチーフにした様々なグッズが売られている。
そのクオリティがなかなか高く、お客さんの多くが、嬉々としてワニグッズを身に着けている。
「しかし、これは・・・。」
このリアルなワニヘッドはお値段もそこそこなジョークグッズだと思う。思いたい。
「僕もそっちにしようかなー。」
「えー、どうせなら色々試そうよ。」
リーフさんが被っているのは、デフォルメされたワニの帽子だ。ぬいぐるみのようにフワフワした生地で作られたそれは、可愛らしいし、温かそうだ。他の多くのお客さんもこのタイプの帽子や手袋などを購入している。
「・・・似合ってるのに。ぷふ。」
せめて、言い切ってから笑ってくれないかなー、もう。
結局、3人ともリアルなワニヘッドを購入しました。そして、被ったまま、園内へ繰り出しました。
「お揃いの方がいいと思うんだけど。」
「そ、そうだね、ホーリー、せっかくだし3人で同じものにしよう。」
リアルワニを避けるために、僕とラルフさんが一芝居したことが悪かった。
「・・・じゃあ、こっちも買う。」
というやり取りの先、リーフさんは、リアルなワニヘッドのほか、マフラーや帽子なども購入し、ご満悦で、僕にプレゼントしてくれた。うん、帽子だけは受け取って、他のは自分で買ったよ。だってリアルワニだけ、桁が一つ違うんだもん。中学生が遊びで買えるものじゃないから。
リーフさんの場合は、親の都合でそれなりの資産がある。だから、この程度の出費は怖くない。ラルフさんも遊園地で贅沢をするには困らない程度には、貯金がある。というのは以前教えてもらったけど、ときどきブルジョアな買い物をするのだから、驚かされる。
驚いたと言えば、ペット用グッズの豊富さだった。ペット用のカチューシャや着ぐるみ、リードやケージなどを取り扱う専門店まで園内にあった。
「バウ?」
というわけで、エメルもワニになった。
ペット用の着ぐるみでデフォルメされたものだけど、足は動かないが、犬用の着ぐるみがすっぽりとはまり、帽子のように着こなしている。
3人と1匹のワニが出揃ったときは、店員さんと周囲のお客さんが拍手してくれた。うん、わかる。はたから見たら僕だって拍手したくなるよ、この迫力には。
でも、本番はアトラクションのこれからだ。
アリゲルラビリンス。
食いしん坊ワニのアリゲルがお腹が痛いと苦しんでいる。彼の身体に入って、痛みの原因を調べよう。という宣伝文句を掲げた入口は大きな口を開けて涙目なワニこと、アリゲル君。挑戦者は中にある迷路を通って、原因を突き止め、出口からでる。道中ではアリゲル君のお友達である動物たちやアシストンバレーのキャラクター達が手助けしてくれる。
いや、これ捕食されてません?
「・・・ええ?」
「バウ?」
ワニの口の中はキラキラした空間で、無数の板によって迷路が作られていた。透明だったり、ガラスだったりと板は様々で、自分たちの姿があちらこちらに見える。
「もともとあったミラーハウスを改装したらしいね。すごいねー、あちこちにキャラクターがいる。」
ああ、そうだ、ミラーハウス。そういう迷路があるって聞いたことがあったけど、入るのは初めてだ。
「最近は見ないって聞くねー。僕が子供のころは、遊園地といったら、これだったよ。」
「へー。」
「・・・ほかには?」
「そうだね、メリーゴーランドにコーヒーカップ、あとは南極体験みたいな建物だねー。夏場に薄着で入るんだけど、寒すぎてすぐにでちゃうんだ。」
迷路を攻略しながら、懐かしそうに思い出を語るラルフさんに、へー、ほーとリアクションをしながら僕たちはついていく。
ラルフさんがこうやって思い出を語るのは珍しいことだ。なんとなくだけど、彼が一番楽しんでいる。テーマパークは大人も子供に戻ってしまうんだねー。
「おや、これはなぞなぞかな?最近のは凝ってるねー。」
と中間まで進むと、アリゲル君の看板があり、僕たちは足を止めた。
「・・・なぞ?」
「うん、これはなぞだねー。」
そこに書かれているなぞなぞに、僕たちは首をかしげるしかなかった。
思った以上に面白くて、難しいぞ、この迷路。
まったり日常回。ただしゃべる話は楽しいけど話がなかなか進まない。
次回は、迷路攻略編です。




