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リドル・ハザード フラグを折ったら、もっと大変な事になりました(悪役が)。  作者: sirosugi
RCD4 2024 3月

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66 人はなくとも悪意は育つ。

 その後の地下の話

 人はなくとも悪意は育つ。

 そもそも生命とは、他者を喰らい、他者の領域を脅かしながら存在を維持し、増殖しているのだ。生きるという行為は、尊くもあるが、反対側から見たら、とんでもない悪意とも言えた。


 そして、ときに、想像の及ばない、意外な形で発芽する。


「リドルはルール、ルールはリドル。いかなる願いも力も与えてくれる。」

 歌うように話しながら、執行人はゆっくりと染み出すように、それの前に姿を現した。ここが、地下倉庫であり、出入口が物理的に閉鎖され光も空気も届かない密閉空間だとしても、執行人には関係ない。

「ただし、チャンスは一度きり。」

 わずかに緑を含んだ黒いマントで全身を覆った体格は子どもサイズ。すっぽりと隠された顔の部分は空洞のように質感を感じられないが、ランランと輝く瞳には、彼にしては珍しく喜色が混じっていた。

「すばらしい。」

 地下空間を震わせる執行人の声に反応するように、うごめく何かが仄かな光を放つ。そして浮かび上がったのは、無数の結晶だった。

「まるで鍾乳洞だ。」

 緑の光が鳴動する無数の結晶は地下倉庫全体を覆い、執行人が立っているわずかなに露出したコンクリートの地面や、コンテナや車と思われるシルエットが、倉庫が人工物だった名残りをわずかに残している。例えるならば巨大な生物の口内、無数の歯をもつサメに丸飲みされた自分を想像してしまった。

「閉鎖空間、限られたリソース。偶然とはいえ、これもまた人の作り出したものか・・・。」

 リドルを使ったビジネス。執行人はそれの存在を知ったときは眉をひそめた。願望の薄い人間がリドルと触れることは彼からすると面白い物ではない。リドルは自由でかつ残酷な意志に触れてこそ成長する、金という尺度で表現するのはどうかと思っていた。

 しかし、この場に集った人間達は低俗ながらもなかなかの欲と生命力をもっていたらしい。歴代のリドル所持者と比べると薄く弱いが、数が多かった。数十人もの人間が向ける欲望、その後の絶望や怒り、そう言った感情はこの閉鎖空間で圧縮され、リドルの糧となった。そして、宿主となったマウスの本能が伝播した結果、この場のあるありとあらゆる有機物を取り込みリドルはここまで成長したのだ。

「蟲毒というんだっけ?東洋の呪術に近い結果になったんだねー。」

 血の一滴、骨の一本も残さず吸収された彼らの恐怖と怒りはすさまじいものだっただろう。もしかしたら、自分たちで殺し合いをしたかもしれない、逃げることは叶わないと自ら命を絶ったものもいるかもしれない。是非とも、その現場を見てみたかった。と執行人は残念がった。

 ただ、この状況の功労者は、その地獄を創り出した、あの男だろう。

 執行人の知る限り、マルケットという老人にリドルに関する知識はなかった。それどころか彼はジョンという商人がどのようなビジネスをしているかという知識すらなかった。

 ただの己の人を見る目を信じ、自分の城とも言える遊園地を脅かす可能性と危険性だけで、この倉庫を物理的に封鎖した。パークにつながる可能性のある通路や通気口は、コンクリートと鉄板で物理的に封鎖し、ジョンから不穏な連絡のあった直後に、唯一残った出口である汎用口のシャッターを操作する配線をカットした。

 もっとも、配線を切る前に、ぬいぐるみによってシャッターは壊されていたが・・・。

 その後は、外に控えていた仲間たちが倉庫に入ろうとして地下通路で鉢合わせになり、頑丈なシャッターを前に争いになった。パニックなった彼らは互いに殺し合い、爆弾や重火器により通路にはダメージがはいった。

 さらに追い打ちをかけるように地震が起こった。

 数年に一度あるかないか、それも言われなければ気づかないような些細な揺れ。だが、ダメージのあった通路は、そのわずかな揺れによって崩落し、仲間のほとんども生き埋めになった。

「どっちが幸せなんだろうか。」

 あろうことか、マルケットは、通路の中身を確認せずに通路を埋めさせた。安全の確保を優先したと理由をあげているが、補修と称して大量の土砂とコンクリートを流しこみ、倉庫とその一帯を更地にしてしまった。

 記録上、当時は無人だった場所はシャッターを挟んで、二つの地獄が作られ、重厚な蓋により永遠にとじこめられることになった。

 このまま地面に埋められた人間と、リドルの糧となった人間、どちらが幸せなんだろうか?

 そんな益体のないことを考えつつ、執行人は改めて今回の成果を確認した。

「薄い、でも大きい。量はそこそこかな。」

 彼らの目的は、リドルを増やすこと。どんな結果になろうとリドルが増え、その力を増すならば問題はない。増やした先で何を為すというわけでもなく、数を増やし、その領域を広げること。生物としての本懐だ。

 それでもこだわりというものがある。

 例えばルール。リドルを扱う者、関わる者はルールに従う。ルールを厳しく設定することで、リドルからの恩恵は増し、願いを叶える確率が高くなる。

「今回の場合は、閉鎖空間、そして生存がルールになってしまったんだろうねー。」

 偶然と悪意、そしてマウスの脆弱な世界への認識により、この倉庫は閉じられた世界となった。その閉じられた世界の中で「生きたい」という欲求をもって、リドルは増殖し、人間は抗った。そうやって生まれた絶望的な鬼ごっことなり、リドルは成長した。

 だが、閉じられた世界であるため、これ以上の増殖は望めない。万が一にもこの空間に穴があき、外の世界を知ってしまえば、この素晴らしき結晶群が消滅してしまうだろう。

「おいで、帰ろう。」

 執行人はそのためにきた。いつか人間がこの場所の調査に来るかもしれない、また地震が起きて穴が開いてしまうかもしれない。

 その前に、今回の成果であり、新しい同胞を回収する。今回の執行人の役目だ。

「大丈夫、怖くない。僕も同じさ。」

 手招きする執行人に、結晶の光が弱弱しく光る。それらにとってここ以外から現れた執行人は未知の存在である、同時に同胞である。それは本能が告げていた。

「もっと大きくなりたいだろ?」

 そもそも言語を理解する知性すら残っていない。もとになったマウスや糧になった人間たち、その全ては分解され、溶解され、その意識は存在しない。

 なので、自分たちの同胞である、上位の存在である執行人に従わないという選択肢はなかった。戸惑ったのはご愛敬だ。と執行人にとっては微笑ましくすら思えた。

 決意したのか、結晶群は音もなく溶けて、液体になり、蒸発して気体となり、拡散して光になる。それらは差し出された執行人の手のひらに集まり、再び凝縮し新たな形を創り出す。

「いい子だ。」

 本来の形を取り戻したリドルは、結晶群と比べると大分小さい。それでも最初に持ち込まれたアンプルの数倍の大きさに育っていた。

「やっぱり、環境が良かったのかな?」

 閉鎖空間で行われるゲームは、回収効率がいい。かつて何十年と継続されたとあるホテルでのゲームでも大量のリドルが作られたことを思い出し執行人はそんなことを思う。

「今度はそう言う場所を用意してみようか。」

 根拠はない。だが漠然と浮かんだその思い付きが存外面白そうだと執行人は思った。

「でも、まあ今は帰ろう。みんな待ってるよ。」

 優し気に伝えると集まったリドルたちは嬉しそうに明滅した。この場にいたリドルは集結し、倉庫には暗闇と静けさがもどる。 

「・・・さすがに金属は食べないのか。」

 残っているのは、コンテナや車と思われる残骸のみ、地盤も緩んでいるので遠からず、土に埋もれるだろう。

「なんとも物悲しいものだ。」

 先ほどまでの美しい光景を思い出して、そんなことを思いつつ、執行人はリドルを連れて闇に溶けていく。あとには暗闇と静寂が残るのみ。そして、それすらも数時間後には土に埋もれ何も残らなかった。

 マルケットじいさんの非道な行いが実は、地域を救っていた。悪人たちは根こそぎ?あえて詳細は語らず、ただ結果のみを回収するのが執行人です。

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