65 謎の崩落事故のニュースに僕は顔をしかめた。
そして、少年たちの日常です。
謎の崩落事故のニュースに僕は顔をしかめた。
「アシストンバレーで崩落事故、原因は本当に地震か?」
新聞配達の間に何度も見た、一面のトップニュース。その一文が気になって購入した朝刊、そこには興味深い記事が書かれていた。
「アシストンバレーで崩落事故、原因は本当に地震か?」
先日、隣州で起こった地震の被害は軽微なもので、住民の多くはわずかな揺れを感じる程度だった。しかし、そのわずかな揺れにより老舗であるテーマパーク「アシストンバレー」では甚大な被害が引き起こされた。同パーク内の地下倉庫と、アトラクション建設予定地の一部が崩落し、埋もれてしまったというのだ。未明行われたこの発表とともに、警察と消防関係者によって当該地域は現在、立ち入り禁止となっている。
目撃者の情報によると、揺れの後に倉庫へ入るための搬入口の一部が崩落し、シャッターが変形、倉庫へ立ちいることは困難となっているそうだ。幸いなことに勤務記録などから、当時は無人であることが確認されており人的被害がないが、被害総額は数百万ドルとも言われている。アシストンバレーは事故の翌日より1週間の休園を発表、安全点検を経て、今日から営業を再開している。
一部では、施設の安全性を疑問視する声があるが、オーナーであるマルケット氏は、崩落が限られた一部であり、施設の安全性は保証されていると発言している。また、封鎖中の施設は、かねてより提携の噂のあった、ジョン・ガーデン氏に貸し出されていた施設であり、マルケット氏たち、アシストンバレーの関係者はその内容を把握しておらず、ジョン氏への確認を急いでいるとのことだ。
なお、ジョン氏は地震当時に、フランスのチャリティーパーティーへ参加している姿は目撃されて以来、消息が不明となっており、マルケット氏の証言では、秋のオープンに向けての秘密裏に工事を行っていたらしく、施設になんらかの不備があったのではないかということで、警察は事情を聞くために彼の行方を追っている。
記事の内容はそんな感じ。こんな事件は「俺」の記憶にはない。
ただ、ジョン・ガーデンという人物には心当たりがあった。RCD4の黒幕の1人にジョンという闇商人がいるのだ。表向きは世界的に有名な玩具会社の社長で、ウッディリドルから提供されたデミ・リドルという薬物を世界中で販売し大儲けを企む。主人公たちは、ゲーム冒頭でジョンの捕縛を目的に動いているんだけど、彼の顧客であるテロリストや中国マフィア、大富豪などが捜査を妨害してくる。最初は、ジョンがラスボスかと思っていたけど、実はウッディリドルのビジネスパートナーのような立ち位置で、土壇場で新薬の実験台にされてボスとして使い捨てられる。そんなキャラだったはず。ちなみに「ジョン」というのは偽名で、その過去は公式ガイドにも記録がない。そういう意味ではモブにも細かいストーリーが用意されているRCDの中では珍しいキャラクターだ。
「・・・心配だね。」
「えっ?」
と新聞の記事を読みながら考えに沈んでいたら、聴きなれた声に引き上げられた。
「遊園地、動物たちは大丈夫かな?」
そんなことを言いながら山盛りのサラダをもきゅもきゅと食べているリーフさんだった。そういえば、ダイナーでモーニングを食べていたんだった。
「大丈夫じゃないかな。この地図を見る限りだと、事故があったのは、動物園とは反対側みたいだから。」
新聞をめくって事故の詳細が書かれたページを見せて僕は説明した。みると、開発予定地となっていた更地の一部が閉鎖されているようだけど、遊園地は通常運転そのものだ。
「その事故か、ネットでマルケットオーナーが声明をだしていたね。安全点検で休業したお詫びに割引キャンペーンをしているんだって。3割引きプラス園内のポップコーンはサービスだって。」
カウンター席でコーヒーを飲んでいたラルフさんはそう言ってスマホをいじっていた。
「また行きたい。」
「そうだね。また行きたいねー」
ポップコーンというに反応するリーフさんに僕は同意した。
ゲーム云々を抜きにしてもアシストバレーは楽しかった。丁寧に作られた飾りや仕掛けもだけど、純粋にアトラクションが楽しかった。
「いいね、来週か再来週あたりに行ってみようか。宿の予約もとれそうだ。」
「・・・ラルフはせっかち。」
「でも行くなら、泊まりでゆっくり回りたいじゃないか。」
「・・・うん。」
楽しそうにやりとりする2人。彼らからすると事故は事故でしかなく。安全というならば、割引情報の方が大事だ。近場に住んでいる僕たちからすると、その通りだ。
「この記事にも割引情報を載せてるべきだよね。」
そう思った途端に新聞の記事がゴシップめいた不誠実な物に感じるから不思議だ。
「今度は、パレードも近くで見たいな。たしか事前に予約すればいい場所があったはず。」
「詳しく教えて!」
「ホーリーが言うなら間違いなさそうだ。」
新聞を置いて、僕も2人の会話に参加した。部活もバイトもしばらく休みだし、今度はさらに気合を入れて準備をしてもいいかもしれない。
「今度は、私も一緒に考える。」
「うん、そうだね。」
難しく考えるのはやめよう。どうも「僕」は悪い方に考え過ぎだ。
ゲームに関わりがありそうなことを知ると、悪い方に考えてしまうのは僕の悪い癖だ。楽しかったアシストンバレーでの経験から僕はそう考えるようになっていた。
ウッディリドルによって引き起こされるはずの悲劇は回避された。
主役とラスボスの微笑ましいやり取りを見ながら僕はそっと新聞をしまい、代わりにもしやと思って用意してい置いたガイドブックを取り出すのだった。
ホーリー「地震って怖いなー。」
リーフ「もう一回行きたい。」
子どもたちの日常は平穏です。さすがのホーリーも今回の事情は知りえない。
あと、当然のように一緒に遊びに行くことが決まっていることに当人たちには自覚もテレもないです。




